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理想の現実  作者: 南条 紙哉
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1-11

 やっとの思いでたどり着いた出口はどうやら自由には出入りできないらしく、巨大な怪物が壊された壁から差し込む光を背景にたたずんでいた。


 今七菜香が戦っている怪物と同じ容姿、そして体格もほぼ変わらない。


 どうやらまだこちらには気づいていないらしく、辺りを見渡すそぶりも見せない。ただ、どういう考えを持って行動しているかはわからないが、俺が怪物こいつの敵であり、俺を認識すれば問答無用で襲ってくるだろう。


 そして、俺に勝ち目がないことはすでに証明済みだ。


 だがどうする? ここでじっとしていても最後は七菜香の戦闘に巻き込まれてしまう。…………いや、ここまでくれば流石に大丈夫なのか? ……わからない、もしかしたら七菜香は俺がいると使えない技でもあって、俺が建物から出るのを待っているかもしれない。いや、そんなこと考えだしたらきりがないんだけど!


「落ち着け俺…………」

 

 目まぐるしく変わる状況に体も精神もついていけてないが、どうにかしてここを乗り越えなければならない。その目標だけを残してあとの仮説全てを俺は一旦忘れた。


 まだ調べてないことがたくさんあるんだ………………。七菜香のことやこの世界に起きている異常事態、どうして俺だけが記憶を持っているのかもまだわからない。


 世界を救うなんて大層な野望は持ってないが、人生においてやり残したことはまだまだある。

 

 決意を新たにしたところで、どうやら怪物が俺に気が付いたらしくのしのしと重い足を動かし始めた。


「そりゃばれて当然か、隠れてるわけでもなかったし」


 せめてどこかに隠れてからいろいろ考えを巡らせるべきだったと後悔した。


 怪物は歩く速度を速めたりしないが、瓦礫に足をとられることなく着々と俺との距離を縮めていた。


「覚悟決めなきゃな」


 俺は七菜香から預かった武器を握りなおし、それを怪物に向ける。


 壁がなくなり、外への道が開けた今、このランチャーは壁を破壊するために使う必要がない。

 これをもってして壁を破壊できると七菜香が言っていたんだ。きっと威力もそれなりにあるはずだ。


「自動照準…………とかはあったりするのかこれ」


 武器を扱うことに関しては完全にど素人だ。おそらくこの手持ちの所についているトリガーをひけば何かが起きるということは察することができるが、それ以外は全く当てがない。


 故に、怪物との距離があっては当てることができない可能性が高い。

 

 だから自分が自信をもって当てられる距離まで待つ。

 勇気のいることだが、怪物と肉弾戦を行っている七菜香に比べたら大した労力ではない。


「ふぅぅ~……」


 徐々に縮まる距離に緊張感が比例して高まっていく。

 怪物はそんな俺をよそに、平然と歩いている。


 そして、怪物までの距離は10mを切った。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 自分を鼓舞するようにして、中二病顔負けの掛け声とともにトリガーをひいた。


 爆発音のようなものがした後に飛翔体が勢いよく発射された。しかし、爆発の威力に負けて俺の体は上に反ってしまい、それに伴って弾の軌道は怪物に対して大きく上に逸れてしまった。


 気合十分に打ち放った弾丸は、怪物の真上の天井に衝突し、瓦礫を濛々と落とした。

 

「どうだ!?」


 怪物に直接当てることはできなかったが、怪物に降り注いだ瓦礫が足元につもり、バランスを崩したのか両手をついて倒れていた。そしてラッキーなことに、怪物は足が瓦礫に挟まっているのか立ち上がろうと動いてはいるが、その度に再度バランスを崩し尻餅をついている。


「今しかない!」

 

 俺はわき目も降らずに外へと駆け出した。


 依然怪物は足をとられて自分のことに精一杯だ。


「あと少し…………」


 ようやく日の光を見られるという喜びからボソリと声が漏れた。


 おそらく、これが決定的なフラグとなってしまったのだろう。


「――――――――っ!」

 

 あと少しと呟いた直後、俺の体は宙を舞っていた。


 あとを追うようにして爆音が耳に届き、それをかき消すようにして強い追い風が吹き、俺をさらに空中へ突き上げる。


 何がおきたのかを理解するのに時間は必要なかった。


 目まぐるしく回転する視界の中で、一瞬目に入ったのはこちらをじっと見据える怪物の姿だった。

 おそらく手にしていた杖のようなものをこちらに放り投げたのだろう、怪物は足を瓦礫に挟んだまま体をねじらせたような体勢になっていた。


 だが、本来の目的通り外に脱出することはできた。

 

 重力に従って俺は地面に打ち付けられ、受け身をとるようにしてゴロゴロと瓦礫の上を転がる。


「はぁ……はぁ……」


 そしてある程度威力を殺せたところで俺は地面をモップ掛けするようにして数m滑った。

 どういう訳か痛みはそれほど感じなかったが、心臓の鼓動を体で感じられるくらいには心拍が上がっている。そして何より、起き上がることができない。


 どうにか顔だけは怪物の方を向け、状態を確認すると、ちょうど怪物が瓦礫から足を抜き、こちらに向かってくる瞬間だった。


 形勢逆転、今度は俺が行動不能になってしまった。


「な…………なか………」


 ふと、妹の名前を口にした。

 もう駄目だ、俺にはどうしようもない。最期の希望と言えば、この状況に陥ってから唯一あの怪物に対して対抗手段を持ち合わせている七菜香くらいだろう。


 おそらく建物でもう一匹と戦っているはずだ。大声を出せば気付いてもらえるかもしれない。だが、俺にそんな体力は残されていなった。


 ここまでか…………。


 にじみ出る血の感覚が鮮明になってきたところで、視界が歪み始めた。

 ああ、思いのほかしっかり出血してるみだいたな。


「君は一体何者なんだい?」


 ぼやける視界の中、背後から声がした。

 七菜香ではないが、女の声ということは分かった。

 どうにか後ろを振り返って姿を見たいが、最早顔を動かす力も目線を横に向ける力も残されてはいない。


 そして、この間にも怪物はこちらに向かって歩くのをやめてはいないことを忘れてはいけない。放った杖を拾って、こちらをじっと見据えてゆっくりと、恐怖を与える様に地鳴りを起こす。


「見た感じだと、特に異能を持ち合わせているわけでもなさそうだし、ましてや魔法幼女というわけでもないよね」


 おい、なんなんだよ。異能とか魔法幼女とかって。俺にわかるように説明してくれ。


「まぁいいや、それは後で聞くことにするよ。とりあえずは――――――――」


 ここで、その女が俺の顔の前に立った。


「こいつは倒しちゃうね」


 今日何度目かわからない爆音が耳を覆った。

 これが俺の最後の記憶だ。


 


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