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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部アフター:未来への頁

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わらしべ強者2 -魔法創世暦1720年-

 ネロエラとエリュテマが引く客車は普通の馬車よりも遥かに早い。さらには襲撃の心配をしなくていいので最短ルートを移動できる。セルジオは魔法使い……山間部に入れば野生の獣や魔獣を警戒するのだが、結局何も起きないまま。

 近年は道が整備され始めたのもあって南部から王都へは一週間で到着した。


 マナリル王都アンブロシアはマナリルの中心部。

 ルルカトンの首都よりも大きく堅牢で、人の賑わいも比ではない。

 マナリルからすればただの日常なのだが、それでもセルジオの目からはまるで祭りのように賑わっており、客車の中から見る町並みは白を基調としていて美しい。

 迎えに来たネロエラの力量といい町並みといい、故郷であるルルカトンとの国力の差を感じてしまうがそれも当然とセルジオは受け入れる。ルルカトンはマナリルと比べれば小国……こうして友好的な関係を築き、視察を受け入れられているだけでも恵まれている。

 故郷ルルカトンの発展のため、今回の視察を有意義なものにしようと改めて決意していると客車が止まった


「お待たせしました」


 客車の扉が開き、セルジオは外へと。

 見上げればそびえ立つ王城。ルルカトンにも王城はあるが、ここまでではない。

 セルジオはまず王城に配置されている門兵に目を向ける。


(流石に門兵までこのネロエラ殿と同じレベルというわけではないか……)


 門兵や王城の敷地内に見える魔法使いらしき人物達を見てもネロエラと出会った時のようなプレッシャーは感じない。

 セルジオは無意識に安堵する。マナリルの魔法使い全員がネロエラと同様の力量の持ち主であれば、正直神経が参ってしまうと思っていた所だったのだ。


「このまま、私が案内します」

「お疲れでは?」

「いえ、カルセシス様に取り次ぐまでが、私の任務なのでこちらへどうぞ……みんなはここで待っていて」


 ネロエラは四匹のエリュテマに指示を出すと王城へと入っていく。

 門兵は敬礼してネロエラを通すと、セルジオもそれについていった。

 そして王城の扉をくぐると、一人……派手な女性がネロエラと似たプレッシャーを放っている事に気付いた。


「……っ!?」

「あらネロエラさんではないですか? お久しぶりですわね!」

「サンベリーナ……久しぶり、だ」


 美しい巻いた金髪、そして華美にも見える装飾品で着飾ったドレス。

 ネロエラに親し気に話し掛けるサンベリーナと呼ばれた女性はいかにも貴族らしい格好をしていて自信に満ちている。本来ならセルジオが苦手なタイプだったが……その着飾った外見からは想像もつかない圧倒的な練度を見ればセルジオの認識は一瞬で変わった。


 その自信は自身の努力と実力に裏付けされたもの。

 サンベリーナはセルジオと同じくらいの背丈の女性だが、ネロエラよりも巨大な存在感を放っていて、セルジオは自分が小さくなっていくような錯覚すら覚える。

 王城内にいる誰よりも巨大で崩れない、頑強な大木のよう。

 豪奢な外見すらサンベリーナの内からにじみ出るその存在感に比べれば大人しくすら見えた。


「あら失礼、お客様がいらしただなんて……私とした事が気付きませんでしたわ」

「こちらルルカトンから来たセルジオ様……今回はマナリルに視察に来た、そうです」

「あら、昔アルムさんが旅したというお話を聞きましたわね。ようこそマナリルへ」

「せ、セルジオ・ダムトタンと申します。レディ」

「あらこんな年上を見つけてレディだなんて……ルルカトンの御方はずいぶん紳士なご様子」


 サンベリーナに差し出された手をセルジオは握る。

 手の震えに気付かれていないかどうかが不安だったが、サンベリーナはにこっと笑った。


「あら緊張していますの? 仕方ありませんわね……マナリルの宝石と呼ばれるこのサンベリーナ・ラヴァーフルの前ではそうなってしまうのも無理ありませんことよ」

「い、いえ……その、ネロエラ殿と初めて出会った時もそうだったのですが、これだけレベルの高い魔法使いの方々と出会う経験が少ないものでして……」


 セルジオがそう言った瞬間、サンベリーナの表情が一瞬変わる。

 セルジオが驚きを表に出す前でサンベリーナの表情は元に戻った。


「へぇ……ちゃんとわかる(・・・)御方のようですわね?」


 その笑顔にセルジオはぞっとする。

 ネロエラと初めて出会った時にも感じた本能にも似た何か。

 セルジオは一瞬自分でも何の音かわからなくなるくらい心臓の鼓動が大きくなった。


「優秀な魔法使いの方とお知り合いになれたこの幸運……流石は私と言うべきでしょうか。セルジオ様、是非マナリルを楽しんでいってくださいな」

「きょ、恐縮です」

「折角ですから、あなたのような優秀な御方であれば視察先はベラルタ魔法学院をおすすめ致しますわ」

「はい、やはり魔法使いの育成という点はルルカトンでも関心が強く、王都の次に窺う予定です」

「育成という点もそうですが……せっかく魔法使いとしていらしたのですから、マナリルの頂点の一人くらいは一目見ておきたいでしょう?」


 セルジオは自分の全身の肌が粟立つのを感じた。

 このサンベリーナという女性の実力をもってして頂点と言わしめる何者か。噂に聞くカエシウス家の当主が今はベラルタ魔法学院にいるのだろうか。


「それは、その……あの(・・)カエシウス家の……?」

「カエシウスはカエシウスですが、恐らくセルジオ様が思い描いている人物ではありませんわ。元平民のマナリルの英雄……ルルカトンにも噂くらいは届いているのではなくて?」


 十数年前、とある災害からマナリルを救った英雄。

 その英雄が実在する事はセルジオもとある人物から聞いていて知っている。

 今目の前にいるネロエラとサンベリーナですらルルカトンでも稀な実力の魔法使い……それ以上の人物を見たらどんなものが見えるのか、セルジオには想像がつかなかった。










 三日後、セルジオはベラルタ魔法学院へと視察に訪れた。

 魔法大国マナリルでも最高峰の教育機関。

 貴族にありがちな家名主義を排し、あぐらをかいて才能を磨くのをやめた者はどれほど高位の貴族であっても脱落させる実力主義の学院。

 ルルカトンにもその噂は届いており、故郷の魔法技術発展のためにもセルジオが是非とも見ておきたいと思っている場所でもあった。


 学院に到着すると案内を買って出てくれたデラミュアという女性教師に連れられて敷地を見学し……実戦に重きを置いているという評判通り数多く建てられた実技棟。

 魔法儀式(リチュア)と名付けられる模擬戦が盛んなのはベラルタ魔法学院の卒業生がみな優秀な一因なのは間違いない。

 やはり魔法使いは実戦に似た経験を積むのが有効だと、セルジオが自分の経験と照らし合わせて確信を得た頃……セルジオはとある男と出会う事になる。


「う……!?」


 最後の実技棟に案内された時の事、セルジオは信じられないものを見た。

 顔から血の気は引いて、心臓を鷲掴みにされたような感覚に冷や汗が止まらない。


「あの人が特別顧問の……アルムさんです。呼んできますのでしばしお待ちを……」


 案内してくれた女性教師のデラミュアの声はセルジオには届いていなかった。

 傍から見れば生徒に指導するその姿は丁寧で真面目な教師という印象しか抱かない。特徴的なのは黒い髪と黒い瞳くらいなもの。

 ――だがセルジオの目にはそうは映っていなかった。


「あれは……人間、なのか……?」


 誰かに聞かれていたら問題になりそうな疑問がつい口から出てしまう。

 何故なら……彼の目にはアルムが自然(・・)にしか見えなかったのである。

お読み頂きありがとうございます。

セルジオくんの自信が折れていく音はセルフでお楽しみください。


『ちょっとした小ネタ』

前回ネロエラが下から数えたほうが、という台詞があったので今回アルム達同期を戦闘能力順で並べてみました。


ミスティ=アルム≧ルクス=エルミラ>サンベリーナ≧ベネッタ>ネロエラ>(白姫降臨(ニブルヘイム)を耐えられるかどうかの壁)>フラフィネ=ヴァルフト>>フロリア>グレース


と大体こんな感じです。白姫降臨を耐えられる壁より下の子達が上の子達に勝つのは難しいですが、相性による有利不利や使う魔法の得意不得意があるので互いに戦い合ったら必ずしもこの順番通りの結果になるかはわかりません。

・幻術に特化しているフロリアは戦う事になったら多分逃げるので勝敗がつかない時もある

・ヴァルフトは飛行の血統魔法でガン逃げするのでネロエラやフラフィネは攻撃が届かない

・エルミラは血統魔法だけならミスティに微有利をとれるので他より互角気味に戦える

などなど

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― 新着の感想 ―
ネロエラすごい強い…
[一言] 出会ったら死ぬから逃げろに耐えられる人間が何人もいるのかよぉと知ったら他国が絶望しそう
[気になる点] ネロエラの順位が意外だ!マジで何があったんだろう…。前呼ばれたときは、封印が解けたばっかで観光中だったから、拒否したらしいから、しばらく経って観光に飽きたから、こっちに来たって感じなの…
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