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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部アフター:未来への頁
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カエシウス家の一騒動2

「ど、どうしてそんな話になっているんだ……?」


 アルムが帰ってきた日の夜……困り果てたミスティはすぐにアルムを自室に招き、カルミナに相談された事について話す。

 久しぶりに我が家に帰って家族で晩餐を楽しみ、浴槽で疲れを癒したかと思えば突拍子も無い疑いをかけられていたのだから驚愕しかない。

 テーブルの上にはラナが用意された紅茶のカップが二つ置かれていて、アルムとミスティは椅子に腰かける。


「カルミナが言うには、その……ティアもカルミナもヴィオラも髪と瞳が私にしか似ていないからだそうです……。姉妹全員が私と同じ髪と瞳の色ですから、誰もアルムに似ていないと思ったようで……」

「なるほど……確かにメアリーとかは髪はエルミラで瞳はルクス似だもんな」

「ええ、一応私もそんな事は無いと否定はしたのですが納得していないようなんです」


 脇に控えていたラナが失礼しますと一言告げてお茶請けをテーブルの中央に置く。苺に砂糖をまぶした簡単なものだ。


「それと今調べさせていますが、どうやら最近出席したパーティで同じような噂が立っているようなんです……カルミナが信じてしまっているのはそれが理由かもしれません」

「俺が欠席したやつか。ルルカトンから客人が来た時の」

「はい、そこで私がアスタにエスコートを任せたからか……どうやら子供達の父親が本当はアスタなのではなどという噂を立てた方がいらっしゃるそうです」

「アスタはミスティの弟なのにか?」

「より血を濃くと近親交配をするのは五百年くらい前までは珍しい事ではありませんでしたから……カエシウス家は千年続く家ですし、そういう点も相まって信憑性があると囁かれたのでしょう」

「俺が元々平民だからってのもあるだろうな。面白がりたい奴等にとってはそれっぽい噂なわけだ」


 平民を婿入りさせたのは表向きのポーズで実際は跡継ぎの血を濃くするためにもっとも近しい者と……噂の内容はこんな所だろう。子供達がミスティの特徴を継いでいる所を考えると確かにそれっぽく聞こえる話かもしれない。

 カエシウス家のような名家にそんな噂を立てられるのであればそれはそれは周りからすれば面白いだろう。


「うーん……俺の髪と瞳の色は遺伝しないからな……。どう説明していいものか悩むな」

「"分岐点に立つ者"の説明からしなければなりませんからね……それにあの子達が知らない辛い時代の出来事まで話さなければいけません。ティアはともかくカルミナはまだ子供ですから少し躊躇ってしまいます」

「事情を知っている俺とかはむしろ遺伝してない事を喜んでいたんだが……」


 二人が悩んでいると申し訳なさそうにラナが手を挙げる。


「お話に口を挟むようで申し訳ありません。実は私もアルム様の髪色が遺伝していない事を不思議に思った事がありまして……偶然だと思っていたのですが、何か理由があるのでしょうか?」

「はい、俺の髪や瞳の色は簡単に言うと呪い(・・)でこうなってるんですよ」


 "分岐点に立つ者"。それは世界が良くも悪くも変わるかもしれない分岐点である場に居合わせる運命(のろい)を背負わされた人々の総称だ。

 アルムやルクスの母親アオイ、常世ノ国(とこよ)のカヤ、ダブラマで死亡したアブデラなどが該当する。

 しかし居合わせたからといって何かが出来る保証があるわけではない。為す術無く敗北する事もあれば、周囲の力に抗えずに世界を変えてしまう出来事を作ってしまう元凶になる事もある……まさに呪いなのだ。


「呪いで黒くなっているので、遺伝するはずがないんですよ。遺伝したらむしろまずいですね……これから先、何かが起こる事が確定しているようなものなので」

「なるほど、そのような事情が……今は大丈夫なのですか?」

「先の総力戦以降、大きな事件に居合わせるような事は無いので多分大丈夫かと」

「それはなによりです。ですが、お伝えしにくいのは変わりませんね」

「そこなんですよね……」


 ラナの言う通り、アルムが大丈夫かどうかは関係無くまだ幼いカルミナにこの事情自体は伝えにくい。

 アルムが"分岐点に立つ者"として戦ってきた事を話すにはかつてこの世界で猛威を振るった魔法生命の存在を明かさなければならない。平和な時代に生まれたばかりか、血統魔法もまだ継承していないカルミナに話すにはまだ早いとアルムは感じていた。


「どちらにせよアルムから話すのはやめたほうがいいでしょうね……今のカルミナには必死に弁明しているようにしか見えませんでしょうし」

「せっかく帰ってきて愛娘に誤解されてるって状況は悲しいな……ティアのほうは何か言ってないのか?」

「いえティアは全く……あの子は魔法生命の事も知っていますから」

「そうか、よかった……しかしカルミナの誤解はどうしたものか……。このまま誤解されるのはちょっとな……アスタにも迷惑がかかるし、俺と話して気まずくなるカルミナを見るのが辛い……」


 アルムの眉が下がっているのを見てミスティは学生時代を思い出してつい微笑む。

 昔は自分の事をどう言われても構わない、という感じだったのが……娘に誤解されるのはしっかり気にしている今のアルムの姿がミスティには嬉しかった。


「何で嬉しそうなんだミスティ?」

「あ、も、申し訳ありません……少し考えていまして……」

「噂のほうは後でどうにでもなるが、カルミナの誤解は早く解かないと……何も悪い事していないのに偽の父親扱いされるのはちょっとな」


 アルムとミスティがいくら考えても妙案は浮かばない。

 一部で囁かれているであろう不名誉な噂よりまず目の前の娘の誤解……だが当事者だけあってその誤解が解きにくい。アルムが何を言っても誤魔化すように聞こえてしまう現状が厄介だ。


「ここは策を弄しても逆効果であると具申します」


 悩む二人の間をラナの声が走る。

 彼女はミスティが幼い頃から仕えている使用人であり、カエシウス家で一番の忠臣……そんなラナの意見は二人にとっても重要だ。自然と耳を傾ける。


「外堀から徐々に誤解を解くように、という方法ではカルミナ様も完全に疑念を払拭するのは難しいでしょう。であればやはりカルミナ様の御両親であるお二人の言葉が一番ですが……お二人が仰る通り、アルム様がカルミナ様の誤解を解くように働きかけるのは誤解を助長する可能性があります。

であれば、今回の一件を解決できるのはミスティ様以外に他ありません」

「確かに、カルミナから相談された時は驚いて当たり障りのない事しか言えなかったけれど……誤解を解きやすいのは私ですものね……」

「はい。そしてカルミナ様の誤解はアルム様が本当のお父様ではないという点……これは恐らくアルム様の出自や噂、そして外見など挙げられる要因がこじれた結果でしょう。

ですが私達はどれだけその誤解の材料を用意された所で有り得ないと断言できます。それは何故か……一重に理由はこれしかありません」


 アルムとミスティはラナの言葉を待つ。

 ただの使用人の言葉ではない重みがそこにあるはずだと。


「私達がお二人の仲を誤解や邪推もしなかった理由……それはミスティ様がアルム様以外の異性を愛するわけがないと断言できるほど何年も見せつけられているからです。それはもう口から砂糖やはちみつを垂れ流すくらいに」

「へ?」

「ん?」


 カエシウス一番の忠臣が語る解決方法それは――!


「つまり! カルミナ様にもミスティ様がアルム様をどれだけ愛しているかを語りつくせばそんな誤解は自然と解けましょう! かつてミスティ様の学生時代、ミスティ様が私に何度も何度も何度も何度も何度も聞かせていたように!!」

「わー! わー! ラナの馬鹿! そんな昔の事持ち出して何を言っているの!?」

「ミスティ様! 今こそ! ようやく! やっと! ついに! あなた様の惚気話が役に立つ時が来たのです! まさかこんな時が来るとは! 今披露せずしていつ披露すると!? もうこんな機会は二度と訪れません!」

「本気で言っているのか冗談なのか微妙にわからないわラナ!?」


 真剣に解決策として惚気話を提案するラナと顔を真っ赤にして否定できず子供のように抵抗するミスティ。

 さっきまでとは打って変わった騒がしさが突如訪れる。


(相変わらず仲良いなあ……)


 そんな姉妹のような二人を見て、アルムは内心呟きながら紅茶を飲み干す。

 果たして解決策は惚気話しかないのか……ミスティはひとしきり照れながらラナに言葉をぶつけた後、意を決したように立ち上がった。

お読み頂きありがとうございます。

ラナの目は本気だった、とミスティは後に語っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] さぁ、盛り上がってまいりましたw
[一言] ラナの暴露本は禁書としてお城の書庫に封印されていたりしますかね
[良い点] ラナの解決策だと、効き目はあるだろうけど、娘さんもダメージを受けるかも。 親ののろけ話はきつい。。。でも、第三者的にはそんなホームコメディも面白いです。
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