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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部後編:白光のルトロヴァイユ

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818.その道は彼を

「私はルクスと結婚して領地経営について勉強よ。しばらくはダンロード家から送られてくる代理人に領地を任せてオルリック家で過ごす事になるでしょうね」


 ミスティの家に集まったアルム達五人は自然と卒業後についての話題となった。

 アルムはここ数日考えている自身の進路の参考にと改めてミスティ達に卒業後の進路を聞く。

 過ごす時間が多いのもあって何となくわかってはいるのだが改めて聞かなければいけないと思ったのだ。

 自分の中で漠然としかしていない道の先を決めるために。

 エルミラの進路を聞きながらアルムは首を傾げる。


「夫婦になって二か所の領地を経営って……出来るのか?」

「オルリック領とほとんど隣接してるから補佐貴族みたいに共同でやるような感じよ。それに家から遠い領地を治めてる貴族だって普通にいるんだから変わらないわ」

「ああ、なるほど……そう考えると普通にできるのか」

「子供も産むからほとんどオルリック家にいる事になるだろうしね……早い内からこの体制に慣れるようにしないと」

「こ……ども……」


 アルムに稲妻に打たれたかのような衝撃が走り、つい言葉がカタコトになる。

 エルミラの隣に座るルクスは少し気まずそうに、そして嬉しそうに咳払いをしていた。


「何そんな意外そうな顔してんのよ。貴族なんだから当たり前でしょ、私達は家名も統一しないから二人以上は産むわけだし」

「ひゃー!」

「何でベネッタが照れるのよ」

「だ、だってさー……!」

「そうですよ、何もおかしな事はありません」


 そわそわと落ち着かなくなるベネッタをミスティが窘める……が、ミスティも耳を赤くしている事をベネッタは見逃さなかった。

 何か言いたげなベネッタから逃げるようにミスティは視線を逸らす。


「ルクスは当然当主になって領地で……って感じか?」

「う、うん、そうだね。領地がある貴族は大体そうだと思うよ。中には部隊に入って経験を積んでから、って人もいるけどね」

「ああ……フラフィネとヴァルフトがそんな感じだったな……」


 アルムは少し考えて、隣のミスティに目を向ける。

 丁度ベネッタから視線を逸らしていたからか自然と目が合った。


「は、わ、や、あ、アルム! わ、私達はそ、そ、そんな事まだ考えなくても大丈夫ですからね! 当然私は準備万端……嘘です! 緊張していますがアルムが望むなら……!」

「え? あ、いや……ミスティもルクスと同じ感じだよなって言おうとしただけなんだが……」

「へ? あ、え、ああ……そ、そうでしたか……ご、ごほん……はい、そうですね。すでに領地経営については学んでおりますし、お父様やお母様の代より領地も狭くなりましたのでしばらくはゆっくりと生活に慣れる形になりますでしょうか」


 本人は極めて冷静に説明しているつもりなのだが、ミスティは自分の発言で耳だけではなく顔まで真っ赤だ。

 冷や汗を垂らしながら必死に平静を保とうとしているミスティに顔赤いよ、とは流石に言えまい。


「顔赤いよー、ミスティ」

「ベネッタ!」


 言える者もいたようだ。


「ベネッタは? 治癒魔導士になるのは知っているが……」

「正確にはもうなってるよー。大蛇(おろち)迎撃戦の後に資格貰ったからー」

「そうなのか」

「本当は実技試験があるんだけど、流石に国主導で招集した正式な部隊の治癒をする人が無資格なのはおかしな話ってことで免除! ま、実技試験も自信あったからどっちでもよかったけどさー」

「具体的にはどうなるんだ? 病院に勤務するとか?」

「違う違うー」


 ベネッタはミスティのほうを向く。


「ボク、カエシウス家の専属になる事になったからー」

「はい、そういう事になりました」


 アルムは驚きからか目をぱちぱちさせる。

 完全に初耳だ。ルクスとエルミラのほうをちらっと見ると、知っていたようで特に驚いてはいない。


「何であんたが知らないわけ?」

「話すタイミングはベネッタにお任せしていたので、それが今だったようですね」

「確かに僕達もベネッタのことだからって改めて話題に出す事はしなかったね、最初は僕達も驚いたよ」


 そんな道もあるのか、とアルムは腑に落ちたように頷いてソファに体重を預けた。

 確かに上級貴族ともなると専属の治癒魔導士を雇う所もあると聞いた覚えがある。ベネッタほどの腕前であればどこかの専属になってもおかしくない。


「カエシウス家の次期当主としてベネッタほどの治癒魔導士を目の前にして何もしないというものおかしな話ですし……本来ならカエシウス家の専属は暗殺防止で使用人として迎え入れてから自分の領地で育成するのですが、ベネッタならそんな心配はいりませんから」

「ベネッタを迎え入れたらついでにダブラマとの個人的な友好関係をカンパトーレにアピールできるし、北部にとってはいいことばか……ん……? ちょっと待って? あんたその縁を利用してダブラマとの貿易狙ってない……?」

「うふふふふふふ」

「こいつこわ……」


 マナリルとダブラマは魔法生命の一件が終わっても友好関係を持続したまま。ごく最近まで敵国だった事もあって貿易ルートはまっさらだ。

 ミスティは初心な少女らしさもあるが同時に貴族としての強かさも兼ね備えている。


「ベネッタは何でカエシウス家の専属になろうと?」

「うーん、ミスティにスカウトされたのが嬉しいってのもあるけどー……」


 ベネッタは目を開いて四人を見渡す。

 出会った時の翡翠な瞳は無く、そこにあるのは銀色の瞳だったが……映している四人への思いは変わらない。


「やっぱボクが一番助けたいのはここにいるみんなだからかなー……この学院に来て出来た大切な友達で、一番大切だから……どこにいても治癒魔導士としてやる事は変わらないのなら、少しでも自分の大切な人達に駆け付けられる選択がしたかったんだー」


 照れくさそうに小さく笑うベネッタ。

 微笑ましい一言にエルミラは立ち上がり、ベネッタの隣に座る。


「なになに? 可愛い事言ってくれるじゃない……先に私が言ってたら私のとこに来てくれたわけ?」

「えー? それはどうかなー」

「なんでよ!?」

「あはは! 駄目だよエルミラ、僕達の負けさ」

「うふふ、ベネッタったら……」


 照れくさそうなベネッタを中心に少し騒がしくなる四人を見て……アルムが呟く。



「ここに来て……大切なものが増えたな……」



 師匠とシスター……そしてカレッラに住む数人としか関わらなかった田舎者の自分。

 この場所に来てからどれだけの人と関わってきただろう。

 ここから行った場所でどれだけの人に出会っただろう。

 もう小さな箱庭にいた自分はいない。

 カレッラという故郷が大切なのは変わらぬまま、今まで出会ってきた人達との出会いもアルムにとってかけがえのないもの。

 ――自分の世界は今こんなにも広がった。

 記憶の中にいる人達と、広がる風景、そして繋がりが自分の中に確かにある。


「アルム……? どうされました?」

「……いや」


 ミスティはアルムが自分達を通してどこか遠くを見ている事に気付く。

 アルムの瞳に何が映っているのかはわからなかった。


「っと、そろそろお開きにしましょうか」

「そうだね、とっくに日も落ちてるし」

「えー……」

「うふふ、またやりましょう」


 日も落ちて少し経った頃、カップやお菓子の乗っていた皿を片付けてアルム達はミスティの家を後にする事になった。

 アルム達が帰っていくのをミスティと別室で控えていたラナが出てきて四人を見送る。


「それではまた明日」

「皆様お気をつけて」


 ミスティとラナに見送られ、アルム達は帰路につく。

 制服の上からコートを羽織ってそれぞれ手袋やマフラーなどの防寒具を身につけていた。

 季節は冬。年末もとっくに過ぎて卒業まで時間は無い。


「なーんか実感わかないわねえ……ずっとこうやってみんなで過ごしてる気がするわ」

「確かに……卒業式になるまではそんな感じかもね」

「そうだねー……」


 先を歩く三人の後ろをアルムは付いていく。

 考え事をし続けるように俯いて、やがて足まで止めてしまった。


「悪い三人共……先に帰っていてくれ」

「ん? どしたの?」

「ちょっとミスティに話しておかないといけない事があってな」

「ふーん……? わかったわ」

「おやすみアルム」

「ああ、おやすみ」


 アルムは踵を返してミスティの家へと戻っていく。少し駆け足で。


「……途中から様子が変だったね」

「あ、やっぱり? 何か心ここに在らずって感じだったわよね」

「……」

「……ベネッタ?」

「え? あ、う、うんー」


 この時アルムが何かに悩んでる事には私達は気付いていた。

 けれどアルムは次の日もその次の日も普通に学院で顔を合わせて、いつも通りの日々を送っていたからそんな事も気にならなくなって。

 学院での残りの時間を大切に過ごし、迎えた卒業式の日も号泣しながら終えて。

 それから四年――私達がアルムと会う事は無かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そこでインタビューに繋がる訳ですよね。 無事に大蛇戦を終えた事で想定は出来ていましたが。 それにしても、4年放置は色々な意味で酷い…のはらむなべさん。 ルクス達の事だから、その間は待ってる…
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