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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部後編:白光のルトロヴァイユ

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782.友人達の奔走3

「はっはっは! 息子とその友人に出迎えて貰えるとは何と幸せか!」

「父上……嬉しいのはわかりましたから……」

「うふふ、クオルカ様ったら大袈裟ですわ」

「そうですよー、こちらこそお土産買って貰っちゃってありがとうございますー」


 ミスティ達は二時間半ほど王都の観光を終え、王都に呼ばれたルクスの父親クオルカを迎えに行った後一緒に王城へと戻ってきた。

 ミスティとベネッタの手にはアルムに渡す用のお土産が握られている。


「だが残念だ。エルミラくんとアルムくんに会いたかったのだが……。ルクス……私は本当にエルミラ殿に嫌われていないよなぁ……?」

「ないですって……エルミラはちょっと用事があったってだけですよ」

「本当だな? 気を遣っていないな?」

「本当ですって……」


 心配性な父に苦笑いを浮かべるルクス。

 マナリルでも最高クラスの魔法使いだというのに将来、義娘になるであろうエルミラに嫌われるのを何よりも恐れているらしい。魔法生命と戦った時よりも不安そうになっている父に若干の新鮮さを感じてすらいる。


「ルクス!」

「あ、ほら来ましたよ父上」

「おお、エルミラくん! 会いたかったぞ!」


 ミスティ達が帰ってきたのをどこからか聞きつけたのか、エルミラが廊下の奥から走ってくる。

 それを見てクオルカの表情がぱあっと明るくなった。髭を生やした初老の紳士とは思えない無邪気さだ。

 未来の義娘が駆け寄ってくるのを見てクオルカは目一杯両手を広げた。


「挨拶が遅れてごめんなさいクオルカさん、でもちょっと急ぎの用件で……ルクス借りていきます」

「え? え、エルミラ!?」

「来て! いいから!」


 エルミラはクオルカにぺこりと頭を下げるとルクスの腕を掴んで引っ張る。


「後で改めてご挨拶に行きますので!」

「父上! 少し待っていてください!」


 エルミラに引っ張られるがままルクスは廊下の奥に連れていかれてしまう。

 クオルカが広げた両手はどこにも行き場がなくなり、そのまま固まってしまっていた。


「やはり私は嫌われているのだろうか……?」

「そ、そんな事はありませんよ。エルミラは少し忙しいみたいです」

「クオルカ様、ボクとハグしましょー!」

「ルクスは本当に心優しい友人を持ったなぁ……父親としてなんと誇らしい……」


 クオルカは行き場のなくなった両手をベネッタに軽くハグして受け止めてもらうと、ミスティとベネッタに案内されながらとぼとぼと歩き始めた。





「は……?」


 エルミラは客室用の居館(パラス)から離れた人気のない廊下までルクスを連れてくると地下牢獄でトヨヒメから聞いた全てを話した。

 霊脈に接続する代償。そしてアルムとカヤがその代償を知りながら自分達に黙っていたであろう事を。


「トヨヒメに聞いたの……あいつと戦った時に霊脈の接続とかちょっと聞いた事があった気がして……てきとう言ってる感じも無かったわ。むしろ常世ノ国(とこよ)では常識くらいの口ぶりで……」


 ルクスは青褪めた表情で額に手を当てた。

 それほどエルミラからの話が衝撃的だったのかふらっと廊下の壁に寄り掛かる。


「そうか……うん、嘘を吐く理由もないだろうね……。それに、アルムが一人でカヤさんに何かを聞きに行ってたって……」

「うん……ファニアさんが頼まれたって……」

「僕達に黙ってってことは……アルムは最初に話を聞いた時も薄々わかってたわけか……。そりゃそうか、一度カレッラで霊脈に接続した事があるんだ……何か感じ取っててもおかしくない」


 ルクスは何とか話を飲み込み、冷静に努めようとする。

 だが動揺を収めるには時間がかかる。アルムがこの事について知っているという事実が特にだ。

 王都の散策に行く前、自分達の誘いを体調が悪いと言って断ったのはまさかこの事について一人で考えるためか。


「どうする……? ミスティがこれ知ったらって思うと……」

「っ……!」


 エルミラの言葉はそこで止まる。薄っすらと浮かべる涙はミスティを心配してのもの。こんな真実を知ればどだけ悲しむか。

 ミスティだけじゃない。エルミラもベネッタも、自分だってそうだ。

 ルクスにとってアルムは入学式の日に出逢った無二の親友。そして曇っていた自分の目を晴らしてくれた恩人。その在り方を見てコンプレックスを感じた時もあったが、それ以上にアルムがいなければ今の自分はないと断言できる。


「そんな事……あっちゃならない。万が一にでも」


 ルクスは覚悟を決めたように呟く。

 しばらく無言で考え込んだかと思うと、エルミラの肩に手を置いた。


「る、ルクス……?」

「どうするも何も……決まってるよ。アルムは死なせない」

「ちょ、ちょっと!? どこ行くの!?」


 そしてエルミラの横をすり抜けて歩き出す。表情はいつもの柔らかくも紳士的な表情ではなく、決意が伺える険しいもの。

 突然どこかに向かおうとするルクスの背中をエルミラも小走りに追い掛けていった。








「アルム、体調はどうですか?」


 クオルカを案内しながら途中で寄ったアルムの部屋をミスティはノックする。

 体調が悪いと聞いていたのでアルムへのお土産はリラックスできるハーブティーの茶葉だ。

 アルムは起きていたようでノックしてすぐに出てきた。


「おかえりミスティ」

「はい、ただいま……アルム? 目元が赤いですが……?」


 ミスティが言うとアルムは目をごしごしと擦る。


「本当か? 寝てる間に何か擦っちゃったのかな」

「擦るともっとひどくなってしまいますわ」

「ああ、確かに……とルクスのお父さん?」

「アルムくん! 久しぶりだな! 体調が悪いと聞いていたが大丈夫かね?」


 クオルカが両手を広げると、流石のアルムも意図がわかったようでクオルカにハグをされに行く。

 ハグされながら背中を優しく叩いている所を見るとよほど嬉しいらしい。客室用の廊下には衛兵や待機している使用人が何人もいるが、クオルカの顔を知っているようでその親しみやすさに驚いている者もいた。


「すいません、こんな状態で」

「体調が悪いのだから仕方ない。むしろ休んでた所を邪魔してしまったかな」

「いえ、そんな事はないです」

「はいアルムくんお土産ー! クオルカさんが買ってくれたんだよー!」

「あ、本当に買ってきてくれたのか。ありがとう」

「私からもこちらを」


 ベネッタからのお土産は焼き菓子の詰め合わせだった。

 ミスティのお土産であるハーブティーの茶葉と組み合わせれば勿論ティータイムのお誘いである事は明白である。


「体調がよろしければ是非クオルカ様も交えてと思うのですが、いかがでしょう?」

「いや私の事は構わなくてもよい。若者達同士のほうが話は弾むだろう。なにより、私はこの後カルセシス様にもお会いしなければならない」

「ですがクオルカ様が代金を出してくださったものですし……」

「見舞いや土産に大切なのは金を払った事実ではなく相手のためにという真心だ。それに厚意を受け取るというのもまた礼儀。礼を見せると思って気にせず楽しみたまえ」

「そこまで仰るのでしたら遠慮なく受け取らせて頂きます。ありがとうございますクオルカ様」


 ミスティが一礼して頭を上げると廊下の向こうからこちらに早足で歩いてくるルクスとエルミラを見つける。

 小さく手を振ると、アルム達もルクス達がこちらに向かってくるのに気付いた。


「あ、ルクスくーん! お茶しよー!」

「何だ。ルクスとエルミラは別行動だったのか? デートか?」

「いえ、途中から成り行きでそうなりまして……」


 ミスティがアルムに事情を説明しようとすると、ミスティを軽く押しのけてルクスはアルムの前に立つ。

 ルクスがそんな強引な事をするのに驚いたのかミスティだけでなくベネッタと父親であるクオルカもその行動に驚いたようにルクスを見つめていた。


「アルム」

「る、ルクス? どうした?」


 押しのけられたミスティが呆然とアルムとルクスを見ているとルクスの後ろにいたエルミラが申し訳なさそうにミスティの手を握る。


「邪魔してごめんミスティ」

「エルミラ……い、いえ、大丈夫ですが……ルクスさんはどうされたのですか?」

「……」


 何があったのか聞いてみるもエルミラも何が起きているのか半分わかっていないようで心配そうにルクスを見つめていた。

 エルミラのその様子を見てミスティも向き合っているアルムとルクスのほうに視線をやる。


「ど、どしたのー? ルクスくん……? 顔恐いよ……?」


 ベネッタもこんなルクスを見たのが初めてだったからか恐る恐る袖を引っ張る。

 ルクスは応えようとしなかった。表情も険しいままだ。

 その様子を見かねたクオルカが一つ咳払いをして叱責する。


「ルクス、淑女(レディ)に対して無礼ではないのかね」

「父上……よかった。父上にもいてほしかったんです」

「む?」


 クオルカが叱責してもルクスはそれどころではないと言った様子のままだった。

 この場にいるのはルクスの父、友人、恋人と関係性は多少違うが親しい人間と言える。その誰が見てもルクスの様子がおかしいと感じていた。

 普段ならクオルカに指摘されるまでもなくミスティやベネッタに謝罪しそうなものだし、普段ならまず押しのけたり無視したりはしないだろう。


「よし衛兵や使用人の人達もいるな……」


 目の前にはアルム。そして四大貴族として権力を持つ父親。

 そして何も知らずに待機している衛兵と使用人達。

 ミスティとベネッタに事情を理解させる時間が欲しいがそんな事をしている暇はない。

 目の前の友人を救うために、ルクスはもう覚悟を決めていた。


「アルム、ちょっといいかい?」

「なん――」


 アルムが用件を聞き返す前に、ルクスはアルムを思い切り殴りつけた。


「きゃああああああ!」

「――!?」


 ぐらついた視界の中、誰かが悲鳴を上げる。

 骨と骨がぶつかるような鈍い音。広がる血の味。

 アルムは何が起こったのかわからないほど混乱しながら、ルクスの拳を頬に受けた事だけは痛みと共に理解した。

いつも読んでくださってありがとうございます。

昨日トヨヒメの髪桃色じゃなくね?ってふと思い出して修正しました。特に物語と関係ありませんが紺色です。すいません。

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