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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部後編:白光のルトロヴァイユ

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781.友人達の奔走2

「わかっているだろうが、おかしな事は考えない事だな」


 背後に立つファニアがトヨヒメに忠告する。

 トヨヒメは四大貴族のディーマ・ダンロードを呪詛で戦闘不能にし、南部のローチェント魔法学院を半壊させ、エルミラとファニアも半殺しにまで追い詰めた魔法使い。

 魔法の気配を感じれば即首を刎ねるつもりでファニアは背後に立っている。忠告は脅しではない。そうしなければ危ういのだ。


「心配なさらずとも……今のトヨヒメにはあなた方を相手できるような力はありませんよ。この女にファフ様の力を全て焼かれてしまいましたからね」

「あんたからすれば私が憎いのはわかるけど、呪いを解いたって言ってほしいものね」

「憎んでなどいませんよ。感謝をするはずもありませんけどね」


 殺意はないが敵意はあるひりつく空気。

 元々敵だったのだから仕方ない。むしろ殺意がないだけましと言う状況だろう。

 エルミラは大きく息を吐いて本題を切り出す。


「あなた、霊脈利用した魔法使ってたわよね? 詳しい?」

「……? それが面会の理由ですか?」

「そうよ、答えて」


 トヨヒメは怪訝な表情を浮かべる。

 もうファフニールの魔力残滓を宿していない自分が面会として呼び出される理由など常世ノ国(とこよ)出身である事くらいしかないと思っていたからだ。てっきりマナリルが最近拘束したカヤ・クダラノについてや関係を聞かれると思っていただけに予想外だった。


「はい、トヨヒメが生まれたハルソノ家は元々霊脈を使った地属性魔法に長けた一族ですから……トヨヒメは家では下女以下の扱いでしたが、それでも常世ノ国(とこよ)は霊脈研究が盛んなのもあって嫌でも詳しくなります」

「私と戦った時も霊脈に接続したらみたいな話ちらっとしたわよね」

「ああ、何故トヨヒメが霊脈に接続しないのかと仰ってましたね……それが?」

「詳しく教えて……あんたからしたら私はむかつくし恨んでいるだろうけど、あんたくらいしかわかりそうな奴が思いつかないの」


 エルミラは焦った様子で身を乗り出し、そのまま頭を下げる。

 トヨヒメは躊躇いの無いその行動に驚いたのか目を丸くしていた。


「お願い。もしかしたら友達がやばいかもしれない……あなたの力を貸して」

「……友達とは?」


 なるほど、と納得しながらトヨヒメは問う。

 トヨヒメは自分に宿っていたファフニールの仇であるアオイ・ヤマシロの血筋を憎んでいる。もしエルミラの言う友達がルクス・オルリックであるならばここで話は終わりだ。


「アルムよ。あんたもちょっと会ったでしょ」

「ああ、なるほど……彼のためならば少し協力して差し上げましょう」

「ほ、ほんと!? ありがと! 助かる……助かるわ!」


 ぱぁ、と表情が明るくなるエルミラ。

 まだ何も情報を話していないのに甘い御方、と嘲笑混じりの笑みを浮かべる。


「それで? 何が知りたいのです?」

「実は――」


 エルミラはカヤが言っていた大蛇(おろち)討伐の方法をトヨヒメに話した。

 アルムの魔法生命化による霊脈との接続、その方法で大蛇(おろち)を討伐しようとしている事、それを軸にした作戦で大蛇(おろち)の迎撃線をマナリルが予定している事を。

 トヨヒメは静かにエルミラの話を聞いていた。ファニアが警戒する必要もないほどに。


「……カヤ様がそう仰ったのですか?」

「あ、やっぱカヤって人は知ってはいるのね」

「当たり前です。巫女は常世ノ国(とこよ)では常識ですし……トヨヒメは魔法生命の核を宿す時にお会いしていますから」


 トヨヒメはそこまで言って再び無言になった。

 知識を整理しているのか、それともカヤの意図を思考しているのか。

 何かを考えるように俯いていて、エルミラはトヨヒメが何か喋ってくれるのを待つ。


「……結論から言えば、霊脈に人間が接続すれば死にます」

「――」


 ゆっくりと顔を上げ、エルミラが危惧していたであろうリスクを話すトヨヒメ。

 エルミラは一瞬声を失い、その表情は悲しみの色に染まる。


「霊脈の流れや位置情報を魔法に利用したり魔力濃度の高い土地の上に住む分には恩恵しかないですが……接続となると話は別になります。霊脈は星の保存庫、神の器を持つ魔法生命や特殊な血統魔法を持つ一族でなければ膨大過ぎる霊脈の魔力と星の記憶には耐えられません」

「魔法生命に……なる魔法を、使っても?」


 一縷の望みに縋るようにエルミラは問う。

 そんな望みを一蹴してしまうようにトヨヒメは肩をすくめた。


「肉体ではなく精神の問題です。膨大な魔力のほうは解決するでしょうが……魔力と一緒に流れ込む星の記憶は人間の精神では絶対に受け止めきれません。

そうですね……鬼胎属性の魔力を流し込まれた際、魔法生命が殺した人間達の悲鳴や苦痛の声が流れ込むでしょう? あれが延々と続くようなものです。

ファフ様の魔力残滓を持つトヨヒメですら無理なのですから、いくら肉体を変えた所で変わりません。もしやるのなら……よくて数分、悪ければ数十秒で自我は星に塗り潰されるでしょう」

「でも、その……アルムは一回やった事があるのよ……?」


 弱弱しい声でエルミラが再度トヨヒメに問いかける。

 いや、問いというよりは自分が望んだ答えを欲しがっているように思えた。せめて生き残る可能性はあると言ってほしいかのような。


「変化はありませんでしたか?」

「え?」

「霊脈に接続して何か変化はありませんでしたか? 肉体が変質したり、魔法が本人の意図しない"変換"を見せたり、はたまた知らない記憶が混ざったり、妙な夢を見たり」

「……あ」


 エルミラは気付いてしまう。

 アルムの魔法の一つ、【一振りの鏡(スティラクラス)】がいつの間にか刀という武器のカタチに変わっていた事を。


「魔法が……変わってた……」

「であれば霊脈に接続した事でその魔法の魔法式が何かと混じり合ったのでしょう。魔法生命と戦っていたのであればその魔法生命の一部かもしれませんね。

その時点であの子(アルム)が霊脈に接続できる特殊な人間でない事がわかります。霊脈に接続した影響をしっかり受けていますから。助かったのは短時間の接続だからでしょう」

「……」


 エルミラの表情が歪んでいく。

 トヨヒメの背後で話を聞いていたファニアも絶句していた。


「"人に星は(にな)えない"。常世ノ国(とこよ)ではそう教えられます。霊脈はそこにあるだけで生命に恵みとして魔力をもたらしますが、その源泉である星を受け止めるには……人間は小さすぎる」

「そう……わかったわ……。助かった……」

「……とても、助かったという顔ではございませんね」


 エルミラは強く目を閉じ、苦しみに耐えるように歯を喰いしばる。

 やがて震えるようにため息をついて立ち上がった。


「ありがとうトヨヒメ。本当にありがとう。おかげで……何も知らずに友達を失わずにすんだ」


 エルミラがそのまま部屋を出て行こうとすると、


「エルミラ・ロードピス」


 その背中をトヨヒメは呼び止める。

 エルミラが振り返ると、トヨヒメは何故か敵意の無い笑顔をエルミラに向けていた。


「トヨヒメはあなたを恨んではいませんよ」

「え……?」

「友を救えるといいですね」

「……ありがと」


 こうしてエルミラはトヨヒメとの面会を終えた。

 ファニアによって口枷がつけられ、エルミラとファニアと入れ替わりとなって警備の人間が取り調べの部屋へと入ってきた。

 エルミラとファニアは早足で地下牢獄から上る階段へと向かう。


「頼んで正解だったわ……! やっぱりリスクがあった、それも最悪なリスクが」

「すまないエルミラ。カヤ・クダラノの話にいの一番に飛びついたのは私だ」

「あんたは悪くないわ。どこに現れるかわかんない大蛇(おろち)をどうにかできるなんて聞いたら飛びついて当たり前よ。早くアルムに知らせないと……!」

「あ……」


 エルミラがそう言うと、ファニアは気付く。

 アルムが他のみんなには内緒で一人カヤに面会を求めた理由を。


「いや……恐らくアルムは知っている……」

「は? なんで……わかるの?」


 エルミラは勢いよく振り返り、ファニアに詰め寄る。

 その表情は鬼気迫っていて誤魔化しは通じない。


「……口止めされていたが、アルムはあのカヤという女にもう一度面会をしている。わざわざ私に同席しないようにと言ってな。恐らくその時に確証を得るような話を……していたのだろう……」

「……っ! あの、糞馬鹿――!!」


 エルミラの頭が怒りで沸騰する。

 とんでもない方法を教えたカヤにではなく、この期に及んで一人で抱え込もうとしている馬鹿な友人に向けて口汚く罵った。

 しかしやがてアルムの結末を想像した悲しさが勝ったのか大人しくなっていく。

 

「ファニア……さん……。この事、まだ黙っておいて……」

「……わかった、君達で話し合え。だが作戦に関わる情報だ。陛下にだけは報告しなければいけない。口外しないように頼んではみる」

「本当に、世話かけるわね」


 エルミラはファニアに頭を下げて、早足で階段を上り王城へと。

 自分の頬を叩いてしっかりしろと自分を鼓舞する。

 手始めに誰に相談するかだけは、血が昇った頭でも決めていた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

ファニアさん忙しい。

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― 新着の感想 ―
エルミラこういうとこだぞ本当 最高の女だよ
[一言] エルミラの察知の良さに感心しきりです
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