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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部後編:白光のルトロヴァイユ

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780.友人達の奔走

「だぁー……疲れたぁ……」


 ベラルタ魔法学院の三年生フロリアー・マーマシーは王都のとあるカフェのテラス席にてテーブルにぬめりと崩れた。細い腰にすらっとした長い足、そして端正な顔立ちをした目を引く容姿の女の子で注目も多いのだが、本人は今人目を気にするような余裕は持っていない。

 優雅な外観で王都でも人気の高いカフェでのくつろぎ方にしては少しだらけ過ぎかもしれないが許してあげて欲しい。

 彼女は向かいに座る友人と共に今日までずっと働き詰めだったのである。


《お疲れ様フロリア》

「うん……ネロエラもお疲れ様……」


 向かいに座るフロリアの友人はノートにペンを走らせる。

 同じくベラルタ魔法学院三年生のネロエラ・タンズーク。フェイスベールで口元を隠している白髪赤眼の少女であり、二人でずっと数日動き回っていた道連れ……もとい仲間だ。

 卒業後は新設部隊の隊長副隊長として上司部下になるが、恐らく友人関係が揺らぐことはない互いを補い合っている相棒である。


「やっぱあなた体力あるわね……もう限界……」

《フロリアこそずっと報告報告で、ある意味私より疲れてそう》

「ほんとよ……だってしょうがないじゃない……あそこで指揮とれるの私しかいなかったじゃない……そりゃ他の領地の衛兵部隊を勝手に動かしたのはいけなかったけどそれは緊急事態じゃない……。大蛇(おろち)に食われるよりいいでしょ……?」

《偉い偉い》


 ネロエラはテーブルに突っ伏すフロリアを慰めるように頭を撫でると、フォークでケーキを小さく切ってフロリアの口元に差し出す。

 フロリアは遊びに行ったサンベリーナの領地に大蛇(おろち)が出現した際、避難のために衛兵の指揮をとったのだが……それがたまたま報告の際に揚げ足取りのように問題に挙げられ、今まで奔走していたのである。学生の身でどうとか南部の貴族の問題に北部の貴族が介入するのはどうなんだやら魔法生命と接触したことのない貴族の馬鹿を聞かされ続けてもう限界という所だった。

 フロリアは甘えるようにネロエラにされるがままケーキを口にぱくりと、


「あらフロリアさんにネロエラさん」

「やっほー」

「!!!???」


 した所を通り掛かったミスティ達に見られた。

 声の無い悲鳴を上げながら慌てて姿勢を正し、だらしない姿を見られた事に赤面するフロリア。

 同級生ではあるが、フロリアは子供の頃からミスティに憧れている。憧れている人物にこんな所を見られては慌てるのも無理はない。


「あんたもちゃんと甘えたりすんのね」

「仲がいい事はいい事さ」

「ねー!」


 ついでにエルミラ、ルクス、ベネッタにも見られて別の恥ずかしさもこみ上げる。

 普段ネロエラをフォローするしっかり者的ポジションを確立していたと自負していたが、今それも崩れ落ちたのだと。

 何か話題を逸らさねばと口の中のケーキを急いで飲み込む。ネロエラに助力を求めようとするが、


《いつも助けられてますけど、プライペートは案外だらけてますよ。お泊まりの時とか》

「へぇ、そんな一面があるだなんて……可愛らしいですねフロリアさん」


 むしろこの場においては自分の恥ずかしいエピソードを披露する一番の敵に回っていた。過ごす時間が多いだけに素を見せすぎてしまっていて、ミスティはくすくすと微笑ましそうに笑っている。

 ネロエラがこれ以上ミスティに自分の恥部を披露しなよう、あわわわ、となりながら話題を探そうとするが……探すまでもなくいつもの光景の中に足りない人物がいる事に気が付いた。


「あれ? アルムは……?」


 キョロキョロと辺りを見回すがアルムがいない。

 ミスティ達はいつも五人で行動しているのもあって明確な違和感として映った。

 入学した頃はアルムそのものが違和感だったというのに思えば変わったものである。それだけ馴染み、親しくなったという事か。


「体調が悪いという事でお部屋で休んでいますわ」

「アルムが体調悪い……?」

《アルムが……?》


 ミスティが寂しそうに事情を話すとフロリアだけでなくネロエラまでも怪訝な表情を浮かべる。無茶をやって怪我した所は多く見るも、体調が悪いというのはあまりにアルムのイメージから遠かった。


「ははは、アルムも人間だからそりゃ体調くらい崩すよ」

「それはそうか……何かそういうイメージが無くて……ねぇ?」


 ネロエラもうんうんと頷く。

 二人の様子を見てエルミラの表情が少し険しくなった。


《大丈夫なんですか?》

「今日一日大人しくしてるって言ってたよ。普通に歩けてたし、何より王城だから体調が悪くなったらすぐに対応してくれるさ」


 ルクスの説明を聞いてネロエラはほっとする。

 体調不良のイメージが無いとはいえ心配にならないというわけではない。


「そうだー、二人も一緒に遊ぶー? それとも疲れちゃったから休んどくー?」

「嬉しいお誘いだけど、ちょっとこの数日忙しくてね……もう倒れそうで……」

《フロリア凄く頑張ったのでこれから王城に戻るところ》


 ベネッタのお誘いは魅力的だったが、今のフロリアに王都を散策する余裕はない。

 少なくともフロリアは食べ終わったら王城に用意されている客室で泥のように眠る予定だ。


「あちゃー、残念」

「ベネッタ達は?」

「これから馬車の待合所に行ってルクスくんのお父さん迎えに行くのー」

「先程まで王都で色々食べ歩いてましたの」

「いいですねー……疲れてなかったらご一緒したかったです」

「…………」


 ミスティ達が話している間、エルミラは難しい顔をしながら王城を見る。

 ――このままでいいのか?

 カヤの話を聞いた時からずっと頭の隅で引っ掛かっている疑念がエルミラに行動させた。


「ああ、それなら私も二人と一緒に戻ろうかしら」

「えー!?」

「急にどうしたんです? エルミラ?」

「いや、今思い出したんだけど何かファニアさんに呼び出されてたわ……やる事あったような気がしててずっと引っ掛かってたのよね」


 内心でファニアに都合よく名前を使ってごめんと謝りながらしれっとエルミラは嘘を吐く。

 だがファニアに頼み事があるのは本当なので会いに行くのは嘘ではない。


「エルミラだけかい?」

「うん、南部との交渉の件とかじゃない? ほら、ダンロード家のディーマさん私には友好的だから私を介すれば楽になるでしょ」

「……確かにそれはエルミラじゃないと難しいね」


 ルクスは少し気付いているようだがそれらしい理由に納得する。


「ネロエラとフロリアもいいでしょ?」

「別にいいけど……」

《私も大丈夫》


 ネロエラとフロリアはテーブルの紅茶を飲み切って立ち上がる。

 エルミラとしては自然に戻りたかっただけで急ぐつもりはなかったのだが好都合だった。


「じゃ、クオルカさんによろしく。せっかくだから案内もしてあげたら? あの人ルクスの友達大好きだからアルムが体調悪いって知ったら色々買ってくれそうだし」

「エルミラ、父上をそんなちょろいみたいに……いや実際ちょろいけどさ……」

「冗談冗談。そんじゃまた後で。ついでにアルムの様子も見といてやるわ」

「はい、よろしくお願いしますねエルミラ」


 軽く手を振ってエルミラはネロエラとフロリアを連れて王城のほうへと歩いて行った。


「三人になっちゃったねー」

「仕方ありませんわ。エルミラの頼もしさをわかっていれば助力を乞いたくなる気持ちもわかります。南部に好印象を持たれている貴族は多くありませんから」

「ああ、きっと……エルミラにしかできない事なんだろう」


 ミスティ達はエルミラ達を見送って馬車の待合所のほうへと向かう。

 当初の予定より買う予定が増えたお土産を考えながら。














「悪いわねファニアさん、我が儘言って」

「まったくだ……君達は私を便利屋か何かだと思っていないか?」


 王城に戻って二時間程して、エルミラはファニアと共に地下牢獄にいた。

 無理を言って願いを聞いて貰ったのもあってファニアも少し呆れている。


「達?」

「あ、いや……ともかくどんな話を聞くのであれ私の同席は必須だぞ。協力するかどうかわからない囚人だからな、二人きりで内密にというわけにはいかん」

「わかってるわ。本当に悪いわね、忙しいのに」

「いや、アルムがカヤから情報を引き出したお陰で余裕ができた……これくらいはしてやれる時間はある。何より君達に借りを作れば将来役に立つかもしれないからな。私の権限で出来る限りの事はしてやる」

「ありがとう……」


 まだ学生だからとエルミラ達を侮る者達がいる中、ファニアはエルミラやアルム達を対等な相手として接してくれる貴重な人物だ。宮廷魔法使いとして相応しい人格者っぷりに流石のエルミラも頭が下がる。

 なにせ、今自分の脳裏によぎる疑問は協力者無しでは解決しない。


「ご苦労」


 牢獄のエリアを抜けて警備の人間に敬礼しながらファニアとエルミラは取り調べ用のエリアに入る。

 普段よりも警備の数は多いが、ファニアの指示で数人は外へと出た。

 この警戒度はエルミラが面会を希望した人物がそれだけ危険という事に他ならない。なにせ口と手を拘束されてなおこの人数なのだ。

 エルミラは面会を希望した人物が待つ部屋に入り、向かいに座る。

 エルミラが座ると、ファニアはエルミラの向かいに座る囚人の口枷の鍵を外した。

 ファニアの表情に緊張が走り、エルミラとその囚人との間の空気がひりつく。

 なにせ……二人はこの囚人に一度殺されかけている。

 口枷がとれたその囚人はその紺色の長髪を揺らし、桃色の瞳でエルミラを見据えた。


「久しぶりね……トヨヒメ」

「トヨヒメに面会とはどんな酔狂な御方かと思えば……あなたでしたかエルミラ・ロードピス。今度こそトヨヒメを燃やしにでも来ましたか? それとも、トヨヒメに呪い殺されにでも来ましたか?」


 エルミラが会いに来たのは最初の四柱ファフニールの魔力残滓を操り、南部でエルミラを半殺しにまで追い込んだトヨヒメ。

 魔力残滓は燃え尽きても、最初の四柱の宿主に相応しい意思はいまだ健在。

 向けられるのは殺意こそが自然な一瞬即発の中……それでもエルミラの疑問に答えられるのはこの女しかいなかった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

あったかくなってきたなぁ、と今日ふと思いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 900話、おめでとうございます!
[一言] 900話おめでとうございます! このまま1000話を目指して欲しいです。 エルミラが若干勘づいていて、いいですね。 アルムはどうなってしまうのでしょう? 閑話でアルムの名前が出てきていること…
[良い点] 物語は止まりませんね。 さて、エルミラは何を得るのか? インタビューと語られている事の齟齬。 色々と伏せられてる事はありますね。 あ、900部おめでとうございます。
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