取材対象 -サンベリーナ・ラヴァーフル-
――彼の第一印象は?
「第一印象……そうですわね、正直なところを言うと興味がありませんでした。
強いて言えば私より目立っていますわね、くらいでしょうか? 興味が無かったので一年生の頃は話した事すらありませんでしたもの」
――では知り合ったのはいつでしょう?
「懐かしいですわね。最初は二年の時のガザス留学の時でしょうか。ラーニャ女王陛下に指名された彼に興味が湧きました。直接話しかけてガザスと何か繋がりがあるか聞きましたのよ。
とはいっても、今でこそガザス王家の後ろ盾があると有名な彼ですが当時は彼もよくわかっていなかったというより本当に何も無かったようで、結局何もわかりませんでしたわ」
――では友人と呼べるようになったのは?
「それもガザス留学の時でしょう。今や有名なカンパトーレの魔法使い達と魔法生命によるガザス転覆を狙った首都シャファクへのテロ事件ですわね。
私も参加した戦いですが……あの時、殺されかけたのは未だに覚えておりますわ。自分の腕には自信がありましたが、まだまだと思い知らされた一件でもありました。
その事件以降からあの世代の"生き残り"だった私達は友好的な関係を築くようになり、学院でも色々とお話するようになった気がします。やはり命懸けの体験を共有したというのが大きかったのではないでしょうか。
私が親友と呼べる数少ない方に出会ったのもその時ですから」
――それまでは特に?
「ええ、平民だと馬鹿にする気はありませんでしたが特別気に掛けようとも思っていませんでした。貴族と平民という身分の差はあっても、魔法学院の同期生であるならば競い合う仲間でありライバルだと思っていましたもの。
……こうしてお話しているとやはり懐かしい気持ちになりますわね。もう五年近く前のことですが学院での日々は本当に楽しかったですわ。うふふ、三年生の時に皆さんで演劇をやったのもいい思い出です。ねえ? あなたにとってもそうでしょう?」
「……こほん 私にとってもいい思い出です」
「あら、あなたがそんな素直に仰るなんて意外ですわね。ですが同じ気持ちでよかったですわ」
えー……それでは質問を続けさせて頂きます。
――もし彼と再会できたのならまず何をお話しますか?
「……そうですわねぇ」
……お飲み物をどうぞ。
「ええ、ありがとう。そうですわねぇ……難しいですわ。こう、色々とお話しするべき事があるとは思うのですけれど、いざ考えると何と言うべきなのか」
彼女は手渡したグラスの水を一口飲んで考え込んだ。
私はただ答えを待つしかできない。これは私にとって必要な質問だ。
「再会できたら……そうですわね。ええお久しぶりですわ、と普通に話しかけるだけになるでしょうか。今私はこんな事をやってますのよなんて近況でも少し話して、それでまたお会いしましょう、とお別れするのです」
そ、それだけですか?
「それだけですわ。私にとって彼が特別なお友達だとは思っておりませんし、彼にとっても私が特別なお友達だったとも思いません。
これを読む方の中には友人の割に冷たいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが……私達の関係は最後までそんな普通の関係でした。これは強がりでもなんでもなく、それでよかったのだと今でも思っているんですのよ?」
――それでは、そんな普通の関係だった彼に今何か伝えるとしたら?
「あの世代の同期生として、そして一人の人間として友人として……あなたを心から尊敬しています、と伝えます。
私は常日頃から思った事は何でも口にしてきたつもりだったのですが……とうとう彼には一度も言える事はできませんでしたから」
――それは何故でしょう?
「これはお恥ずかしいお話ですが……きっと照れ臭かったんですわね。先程も言った通り私達は普通のお友達ですから……お友達に尊敬していますわ、なんて言うタイミングを見つけるのは難しくありませんこと?」
なるほど、確かにそうですね。
ではこれで以上となります。今日はありがとうございました。
「こちらこそ。後世に彼の事を伝えるお手伝いが出来たのならそれ以上の光栄はありません。彼等と共に戦った日々は私と言う人間が着飾る誇り高い思い出です。喜びも、そして悲しみも」
いつも読んでくださってありがとうございます。
第十部前編『星生のトロイメライ』終了となります。前編であり後編に繋がるお話だったという事もあって少しボリュームは抑えめになっておりますが、ようやくアルムについての準備が終わった章となりました。
まだ感想や評価などしにくい場面かもしれませんが、気が向いたら是非よろしくお願い致します。
第十部後編の更新は丁度七日後で来週の今日からになります。読者の皆様にはお待ちいただけると嬉しいです。
第十部後編で『白の平民魔法使い』は本編として本当の最終章となります。
どうか、応援よろしくお願い致します。頑張ります。




