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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部前編:星生のトロイメライ

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幕間 -髪-

いつも読んでくださってありがとうございます。

一区切り恒例の幕間となります。

次の本編更新から第十部前編の最終章となります。みなさま応援よろしくお願い致します。

「アルムの髪って綺麗よねー」


 とある日の休日、アルム達五人でベラルタのカフェに出掛けた時。

 ミスティ達女性陣は髪のケアの話からか、アルムの髪に注目した。

 当の本人は不可解と言いたげな難しい表情を浮かべている。


「き……れい……?」


 あまりに自分とはかけ離れた褒め言葉だったからか、アルムはエルミラが軽い気持ちで言った言葉の意味を上手く認識できていないようでティーカップを持ったまま固まっていた。

 ベネッタがここぞとばかりにつんつんと頬や手をつつくが微動だにしない。


「いや、色がね。でも髪質も思ったより傷んではないわよね。何使って洗ってんの?」

「花の油粕」

「まぁ」

「は?」

「ええー?」


 女性陣は思い思いの反応をしているが、とりあえず全員驚いているようだった。

 自分達の文化とはあまりに違う文化を垣間見たかのような。

 長く過ごして忘れそうになるが、アルムの出身は田舎も田舎。貴族のお嬢様であるミスティ達とは常識が違うのである。


「昔はそうやって洗ってた人達もいたらしいね」

「え、そうなの?」


 またアルム特有の常識か? と思い掛けていたエルミラの横からルクスのフォローが入る。

 どうやらアルム特有ではなく、昔の生活の知恵だったらしい。


「うん、他にも灰とか粘土とか……今の僕達みたいに昔は洗髪の方法も画一されていたわけではないからね。今でもやっている地域はあるんじゃないかな?」

「へー……粉石鹸(シャンプー)と香油が普通だと思ってたわ……」

「ルクスさん……よくご存じですのね?」


 ミスティが聞くとルクスは心なしか嬉しそうに笑う。


「母が教えてくれたんだよ」

「アオイさんだっけー?」

「そうそう。母は髪が自慢でね……アルムと同じ黒髪だった」


 アルムの髪色を通じて、ルクスは亡くなった母を思い出しているようだった。

 無論、アルムは自分の髪のケアに関心があるわけではないのでその髪質は月とスッポン、雲泥の差、天地ほども離れているのだが。


「アルムもですけど、黒髪は珍しいですわよね……私はアルムが初めてですもの」

「だから初めて会った時俺に話しかけてくれたのか?」

「いえ、あれは同じ制服の人が困った顔で地図と睨めっこしてたからです」

「その節は本当に助かりました」

「うふふ、どういたしまして」


 ぺこっと頭を下げるアルムを見て、ミスティは顔を綻ばせる。当時の事を思い出したからだろうか。

 先程のようにまだ度々驚かされる事はあれど、最初に会った時を思い返せば今のやり取りだけでアルムがどれだけ馴染んだかがわかるだろう。


「アルムくんの髪ボク好きだよー!」

「好きかどうかで言ったら私だって好き寄りだけどさ」

「私だって好きですよ?」


 続けざまに髪色について言われたからか、アルムは困ったように視線を逸らしながら頭の後ろを掻く。 


「か、髪を褒められるのは初めてというか……何か照れくさいな」

「珍しい、アルムも照れるんだね」

「からかうなよルクス……」

「あはは、ごめんごめん」

「俺からしたらみんなのほうが綺麗に見えるけどなぁ」


 アルムがそう言うと、エルミラはわかってないなぁ、と深いため息をつく。

 すると、エルミラはこれみよがしに自分の髪を手で払うように撫でた。


「そんなの当たり前でしょ……私にとっては私の髪が最強よ」

「話が珍しいから好きに戻ってきたね……まぁ、僕もみんなの髪は綺麗だと思うけど……」

「ルクスくんの金髪も綺麗だよー?」

「ありがとうベネッタ。ベネッタの翡翠色も僕はいいと思ってるよ」

「でしょー!」


 ふふん、と鼻を鳴らすベネッタ。

 そんなやり取りを羨ましそうに見つめていたミスティは手をもじもじとさせながらちらちらとアルムのほうを見る。

 そんなわかりやすいミスティに気付き、エルミラは呆れながらもにやにやしながらアルムに話を振った。


「アルムはどうなの?」

「え? ああ、エルミラの髪は綺麗だと思うぞ。赤みがかった茶髪が火みたいで」

「はいはい、ありがと。じゃあ隣の欲しがり女にもそれ言ってやって。この子は単純だからそれで満足するわよ」

「え、エルミラ! ほ、欲しがってなんて……うう……」


 エルミラの言葉を否定できるわけもなく。

 ミスティがちらっと隣のアルムを見ると、当然のように目が合う。

 アルムの目には自分が期待しているように映っただろうかとミスティは一瞬不安になる。いや、実際期待はしているのだが。


「そりゃミスティの髪なんて綺麗に決まってるだろ……誰も踏み入れてない雪原に日の光が当たってるような、俺には幻想的にすら映る」

「ピンと来ないけどめちゃくちゃ褒めてるのはわかる」

「わかるー」

「あはは」


 茶化すような三人はさておいて。

 エルミラ曰く欲しがり女であるミスティさんはアルムの言葉を聞いてそれはもう満足そうに頬ゆるゆるの満面の笑みを浮かべた。

 彼女の名誉のために言っておくが、彼女が欲しがるのはアルムに対してだけである。


「でも言われてみればー……ボクも黒髪の人アルムくんくらいしか……あ、そういえばダブラマの王様が黒髪だったかな?」

「確かにそうですわね」

「ベネッタが倒したあれ? アブデラ王? そうだったっけ? あの時ベネッタの事心配し過ぎて覚えてないわ……今思い出すだけでも心臓に悪い」

「ごめんねー、心配かけてー」


 ベネッタが申し訳なさそうにしている中、ルクスの顔つきが変わる。


「僕の母上にアブデラ王、それにアルム……確かに言われてみると極端に少ないね……。国だって違うから血筋とかないだろうし……」

「何か意味があるのかもねー」

「髪の色で? はは、それはちょっと飛躍し過ぎじゃない? いいとこ先祖にそういう髪の人がいたとかじゃないの?」

「おお、それっぽーい」

「でしょ。まぁ、なんにせよ珍しい髪色なのはちょっと羨ましくあるわよね……たとえば私の髪が黒かったらーとかミスティみたいな銀色だったらーとか想像するもの」


 エルミラが言うと、アルム達四人は思い浮かべる。

 黒髪や銀髪になったエルミラの姿を。

 思い思いの感想を抱く中、ベネッタは口を開く。


「黒はともかく……エルミラの銀髪って違和感すんごいねー」

「は?」

「ふぎゅ!? は、はにゃ! はにゃがとれる! とれちゃう!!」

「もげてしまえ」


 あまりにも正直な感想を言ってしまったベネッタはエルミラに容赦なく鼻をつままれて……体を張ってその場に笑いを提供するのだった。

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