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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部前編:星生のトロイメライ

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追憶? 似合う場所

「意識するのは幻想で、感じるのは現実だ」


 最初は眠ってしまいそうな心地よい声だと思っていた。

 真っ白で柔らかくて、でも中途半端に夢を見させない厳しい声。

 師匠はずっとそうだった。

 自然の静寂が絶対の主のこの森で、その場所に馴染むような存在だった。

 歩いているその姿がまるで森の一部のような、特にこの花園の近くにいる時はそうだった。

 俺が見つけたとっておきのお気に入りの場所。白く輝くこの花園はまるで師匠のためにあるかのようで、俺は自分の好きな景色の中に大切なものが増えたようで嬉しかった。


「おや、ちゃんと聞いているかい?」

「はい! 師匠!」

「師匠……ふむ……まだ慣れないが、存外気分としては悪くない」

「そうだろ!?」

「だが、私の話を聞いていない理由にはならないよ」

「ご、ごめんなさい……その、師匠が綺麗だったから」


 師匠は俺が本気で褒めてもピンと来ていなかったのか首を傾げた。


「私がかい? 死人みたいに真っ白だというのに?」

「何言ってるんだ? だって、この場所みたいに綺麗じゃないか」


 そう言って俺は白い花園の中心に駆け出した。

 朝も昼も夜も、夕方も関係なく森の中で輝き咲き誇るこの場所は師匠にぴったりの場所だと思った。

 髪も目も真っ黒な俺よりもずっと似合うと思っていた。

 でも、師匠は絶対にここに入ろうとはしなかった。

 定位置は花園から見える大きな木の下で、俺が練習している間いつもそこに座って俺の事を見守ってくれている。


「そうか、ありがとうアルム。きっと褒め言葉なんだろうね」

「勿論だよ! 師匠もこっち来てくれよ!」


 師匠はゆっくりと首を横に振った。


「駄目だ。私はここに入っちゃいけないんだよ」

「な、なんで……? ここ嫌い……なのか?」

「いいや、ここはとっても綺麗な場所さ。私だってここを見るのは好きだよ。それでも……入るのだけは駄目なんだ」

「ふーん……? 何か勿体ないなぁ」


 師匠が何故この場所に入らないのかわからなかった。

 けれど、師匠もここが好きだと言ってくれて嬉しかった。

 それだけで十分だった。俺にとってここは一人で泣く場所じゃなくて、二人で頑張る場所になれたから。


「それよりも、私の話を聞く気はあるのかい? 聞かないならそれでいい。君は確実に魔法使いになれなくなるだけの話だ」

「あ! ご、ごめんなさい! 聞く! 聞きます!!」

「よろしい。では最初から説明しよう。君にとってはいくらやっても無駄になるかもしれない。何年も何年も無駄な努力を続けて、何も得られないかもしれない。

それでも、君はこれをしなければ夢を叶える可能性すら手放す事になる。それを踏まえて……私が言った事をやれるかい? アルム?」

「ああ! 俺は魔法使いになりたいんだ!」


 師匠みたいな。

 少し照れ臭くてそれは言えなかった。


「いいだろう。では最初からだ。そう……意識するのは幻想で、感じるのは現実だ」

「むむむ……」


 夜闇を照らす星々のように輝く白い花園。

 そよ風と風にノッテ香ル■やかな師匠のガオリ。

 ここが■■で―――ダsふぁせtfガ――。

 オレは、■■■■になりタイがら。













「かっ……は……! ……っ!」


 女は苦しんでいた。

 割れそうな頭を押さえて、自分の罪で心を焼いて。

 拒絶しても流れ込んでくる記憶に混ざる"雑音(バグ)"に体を悶えながら苦痛を耐える。拘束されている体を捩って誤魔化しながら。

 その口から助けを求める声は出ない。

 何故ならこの苦痛は自業自得……自分が罪と認識する行動の結果だからである。


「はぁ……! はぁ……!」


 人目も気にせず、口から少しよだれを垂らしながら痛みの波が引くのを待つ。

 助けて。

 こう言えればどれだけ楽になるだろうか。

 引き換えに、自分はどれだけ卑怯な人間に成り下がるだろうか。

 常世ノ国(とこよ)の巫女と呼ばれた女――カヤ・クダラノは口を結ぶ。

 気を抜けば言ってしまいそうな助けを求める声が自分の口から零れてしまわないように。


「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 代わりに謝罪を零す。

 魔法を使って拘束を解こうとするでもなく、ただ何かに向かって謝罪する。


「けれど、わらわは……まだ死ぬわけにはいかないのです……」


 罪悪感とどす黒い生存欲求に心臓を握られる。

 巫女というにはあまりに醜く。

 記憶を覗き見る盗人でありながら生き汚く。

 それでも、カヤ・クダラノは生を渇望する。

 濡れ羽色の髪に花芯(かしん)のような瞳――黒い髪と瞳を揺らして、少年との邂逅の時を待っている。

いつも読んでくださってありがとうございます。

一区切り恒例の閑話となっています。

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