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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第十部前編:星生のトロイメライ
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709.非公式招集

「おー……王城の会議室なんて初めて入ったー……」


 マナリル国王カルセシスから呼び出されたアルム達は王城の使用人に案内され、広い会議室に通された。

 置かれた机や椅子、壁にかけられた絵画まで豪奢な雰囲気な部屋であり、今すぐ会食を開くと言われても信じてしまいそうな部屋だ。全体的にすっきりした雰囲気な王城では珍しい。

 

「いつもは玉座の間なのに、今日は何で会議室なんだろうな?」

「僕ら以外にも参加者がいるんじゃないかな? 大勢で玉座の間で立ちながら話し合いしてもね」

「あ、なるほど」


 座りながらアルムは納得する。

 誰が同席するのだろう、という新たな疑問は芽生えたが。

 エルミラとベネッタはすぐに座る事はせず、壁にかかっている絵画を眺めている。


「高そうな絵だー」

「西部のクリーシャ城ね」

「エルミラ知ってるのー?」

「そりゃ私は西部出身だもの」


 美術館に来たように二人は順番に絵を見ていく。


「こっちは東部のドラーナね。観光スポットの二つの山が書かれてる。もしかしたら四地方それぞれの絵を飾ってあるのかしら」

「おー、なるほどー」

「ドラーナの二つの山は片方無くなったから、もう絵でしか見られない光景ね。もしかしたら貴重な絵かも」

「え? 山が無くなったってなんでー?」


 ベネッタの無邪気な質問にエルミラは親指で背後を指差す。


「そこに座ってるアルムって男がぶっ壊したからね」

「あ、そっか。あの山って片方【原初の巨神(ベルグリシ)】の本体だったもんねー」

「二人共、すぐにカルセシス様がいらっしゃいますでしょうから座っていたほうがいいですよ」

「はーい」


 ミスティに促されて、エルミラとベネッタは絵画鑑賞を終えて席に着く。

 何度か王城に呼ばれているものの、やはり何度呼ばれても王城は落ち着かないのかそわそわとしている様子だ。

 反面、ミスティとルクスはこういう場に慣れているのか落ち着いている。

 少しして、会議室の扉が開いた。


「あ、ラーニャ様ー!」

「こんにちは皆様」


 会議室に案内されたのはガザス国女王であるラーニャと護衛魔法使いのエリンの二人。

 ラーニャは先日ベラルタに来た時と違って装いが女王らしからぬきっちりとした服装をしており、エリンも護衛の魔法使いらしくないドレスを身に纏っていた。

 まるで二人の服装があべこべになっているかのようだ。

 ミスティとルクスはすぐに立ち上がって頭を下げ、アルムとエルミラ、そして遅れてベネッタもそれに倣ってラーニャに頭を下げた。


「楽にしてください。今回は正式な訪問ではないので」

「ありがとうございます。そのご恰好は……」

「はい、正式な訪問ではないので護衛を大勢連れてくるわけにもいかず……念のためエリンと服を交換してきました。エリンと違ってこのような格好は似合いませんが」


 エリンが自然にエスコートしながら椅子を引くと、ラーニャも席に着く。

 女王という立場ではあるが、アルム達の前では多少フランクでいられるからか楽そうだ。

 護衛一人で他国の会議室という状況だというのにラーニャはそうとは思えないほど安心しきっている。


「そういえば、この前の演劇は素晴らしかったです。トラブルで大変な事になってしまいましたが」

「ありがとうございます! 楽しんで頂けましたか?」

「ええ、とっても。魔法の演出も演技も素晴らしい舞台でした」

「ラーニャ様にそう言って頂けるなら一同、練習した甲斐がありました。後日パーティも開く予定でしたがあのような事が起きてしまい残念です……」

「本当に……ベラルタの復興は順調ですか?」

「ご心配感謝致します。つつがなく進んでおります」


 まるで同じクラスの友人のようなテンションでラーニャと話すベネッタにエルミラは内心びくびくする。

 何か粗相をしないか戦々恐々としていたが、ベネッタは案外こういう時は強い。あれやこれやと育てられた貴族なので外さないのである。

 ミスティやベネッタが主にラーニャの相手をしていると続いてマナリル国王カルセシスとラモーナが会議室へと入ってきた。


「今からここに通すのは後から来る二人だけだ。他は通すな」

「わかりました」


 外の見張りに指示をして、位の高さを示すようなマントを鬱陶しそうになびかせながらカルセシスは席に着く。

 アルム達は挨拶の為に立ち上がろうとするが、カルセシスが制止した。ラーニャ同様、礼儀など二の次といった感じだ。


「よい。ここは公式の場ではない。ここは情報を得る為……そしてこれから無関係でいられなくなるであろうアルム達との顔合わせの場だ。本来俺はここにいない事になっているからそのつもりでいてほしい」


 カルセシスの言葉に座りなおすアルム達。

 そんな中、ミスティは手を挙げる。


「陛下がそう仰るのでしたら口外は致しませんが……それなら我々をここに呼ぶのもリスクだったのでは?」

「その通りだが……呼ばねばならぬ事情があってな」

「私達が魔法生命に関する情報を優先的に得るべきとお考えだからでしょうか?」

「それもある。だが……どちらかといえば大きな理由はもう一つのほうだな」

「もう一つ……?」


 ミスティが疑問に思う中、続いてノックの音が鳴った。

 カルセシスがラモーナに扉を開けるように促すと、ラモーナは扉を開ける。

 会議室に入ってきたのは一人の女性。その女性に続いて見知らぬ男性が入ってくる。

 女性はアルム達も見覚えがある。ベラルタに潜伏していた侵入者であるチヅルだった。


「誰……?」

「さあ?」


 チヅルは入ってくるとアルム達に気付いたのかぺこぺこと頭を下げる。

 もう一人の男のほうは尊大な雰囲気できょろきょろと会議室に集まった全員を見渡した。

 男はにやりと笑って、満足そうに頷く。特にアルムを見て。


「こちらへどうぞ王様」

「ああ」


 チヅルに王様と呼ばれた男も同じテーブルに座る。

 カルセシスと側近であるラモーナの表情が少し険しい。

 男は王様と呼ばれてはいるものの……カルセシスやラーニャみたいな高貴な印象はない。どちらかといえば荒々しい印象を受ける。

 髪は金の長髪。瞳は赤。装いは王族が纏うような高価なものではなく、そこらで買える平服だ

 ミスティ達が王様ってどこの? という疑問を抱く中……男は口を開く。


「俺様の情報を話していい相手はこれだけかい? カルセシス殿?」

「本来ならもう少し聞かせたい者はいるが……今回は俺もラーニャ殿もここにはいない事になっている上での会談の場だ。護衛という意味も兼ねてこれが限界だ」

「よし、ここは安全か? カンパトーレの連中に聞かれたくはない」

「現在王城にいる宮廷魔法使い全員に感知魔法を張らせている。この場で直接聞く以外にここでの会話を聞く方法は無い」

「ふむ……カルセシス殿は話がわかる者だからな。信じよう」


 男はカルセシスと会話していてもどこか偉そうで、ミスティ達は顔をしかめる。

 魔法大国マナリルの王であるカルセシスに対する態度にしては少し相応しくない……というよりも、何故かこの男に対して自分達が少し警戒している事に気付く。

 チヅルと一緒に来た事から常世ノ国(とこよ)の残党を纏めている者であるのは間違いない。情報源であり、今回集められたのもこの男からの情報を共有する為だろう。

 だがどんな人物かは想像ついていたものの……何故か落ち着かなかった。これは部屋のせいではない。

 ラーニャの横に控えて立つエリンや、カルセシスの脇に立つラモーナのように、チヅルがその男の脇に立つと……男はその身を乗り出した。


「ごきげんよう諸君。俺様は常世ノ国(とこよ)の残党を纏める王だ。まずはチヅルが世話になった事の礼と詫びの意味を兼ねて俺様の自己紹介をしよう。本来ならこれを知られる事も俺様にとってはデメリットであり、自分の身を危険に晒す行為だ。宣戦布告ではない事を前もって言っておく」


 ミスティ達はどこかで味わった事のある感覚をその男から感じていた。

 人間と同じサイズでありながら底知れない何かを内包しているような存在感。

 チヅルがマナリルに協力するという条件の下に連れてきた、常世ノ国(とこよ)の残党の長以上の存在を。


「俺様は君達が戦ってきた"最初の四柱(よんはしら)"の最後の一つ。名を"モルドレッド"。この世界で数多く顕現した魔法生命の中でも珍しい元人間だ。

覚えておくといい。あっちの世界ではそれなりに有名な……裏切り者の名前だからな」


 世間話の延長のようにその男――モルドレットはその正体を口にする。

 聞かされたミスティ達の表情は凍ったように固まって、豪奢な部屋の空気を一変させるような戦意が渦巻いた。

 大百足と大嶽丸。その二柱と同列に数えられる魔法生命が目と鼻の先にいる。

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