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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第九部:呪われた魔法使いとお姫様

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636.試行錯誤

「あ、アルム……」


 アルムとルクスが教室に帰ってくると、落ち着きを取り戻していたミスティが駆け寄ってくる。


「ミスティ、体調はもう大丈夫なのか?」

「た、体調……? 一体――」


 心配そうにするアルムの後ろでルクスが頷いているのを見てミスティは察する。

 恐らく、先程の騒ぎが体調が悪かったからという事にルクスが上手く説明してくれたのだろうと。


「は、はい……もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「よかった。無理はしないでくれよ?」

「はい、ありがとうございます」


 そんな普通の会話にすら、教室中の視線が集まる。

 ミスティはその視線が少し恥ずかしくなり、いたたまれなくなったのか急いで席へと戻った。

 アルムも何故か注目されている事に疑問は思っていたが、これ以上もたもたしているとグレースに怒られそうなのでアルムもまた一番近い席に着く。

 アルムとルクスが席に着くと変わるようにグレースが立ちあがって前に出た。


「通しでやったけど、流石というべきか台詞はほとんど大丈夫みたいね」

「まだ書かれてない台詞があるので、そこ以外はとりあえず言えるようにしておきましたわよ」

「助かるわ。指定の無い台詞についてはこれから考えていくわ。私がじゃなく……あなた達と一緒にね」

「おいおい、仕事放棄かよグレースちゃん?」

「そうじゃなくて」


 グレースはそこで言葉を切って間を置くと、真剣な表情を浮かべる。


「……そっちのほうがいいものになりそうだと思ったの。押し付けられた役目だけれど、妥協はしたくなくてね。これが最善だと思ったのよ」


 大きな眼鏡の奥に光る瞳は手抜きや面倒だったというような濁りが無い。

 グレースだけはこの劇の完成図を思い浮かべているかのように強い意志が感じられた。

 タイトルに有無を言わせない姿勢といい、押し付けられた割に入れ込んでいるように見える。


「それでも考えるのが面倒だって人は言って。私が無難で流れを邪魔しない台詞を考えて差し込むわ」


 まるで挑発のような弁。

 そんな面白くもない提案を受け入れる者がいるはずもない。

 自身の演じる役の台詞が無難で終わるなど恥だ。

 三年生になるまでこの学院で生き残った向上心の塊のような彼らにとっては侮辱にすら聞こえる。


「他に何か気付いた事があれば言ってほしいわ。私はこれから大道具を雇ってセットを考えたり、演出のための魔石の購入とか少し忙しくなるかもしれないから。勿論、放課後には練習に口出しに来るけれど」

「あ、それなんだが……この森のシーンとか暗がりのシーン、呪いの演出なんかはフラフィネじゃなくてフロリアにやらせるほうがいいと思う」


 アルムが言うと、グレース含め全員が台本をめくる。

 確かに暗がりのシーンはフラフィネが演出する指示が多い。フラフィネは闇属性の使い手だから当然といえば当然だろう。

 アルムの意図が分からないグレースは首を傾げる。


「何故?」

「視覚みたいな五感に訴えかける呪詛や補助魔法はフロリアの得意分野だ。これから先台詞の変化でシーンの雰囲気が変わってもすぐに対応できるはず。フラフィネは戦闘系に長けているがそっちは標準だ。得意なほうに任せたほうがいいと思う」


 アルムが言うとフラフィネは怪訝な表情を浮かべた。


「何でうちの魔法わかるし? アルムっちと魔法儀式(リチュア)してないのに……」

「いや、留学の時に同じ班だったろ?」

「ああ、そういえばそうだったし……確かにこういうのはうちよりフロっちのが得意そうだから一理あるし」


 フラフィネが納得するとアルムはフロリアのほうを向く。

 教室全体の視線がフロリアに集まった。その視線にフロリアは少し気圧されてしまう。


「だろ? フロリア?」

「え……っと……」

「攻撃魔法や防御魔法はフラフィネに軍配が上がるが、五感に干渉する系統の魔法はお前のほうが上手くやれるはずだ。そうだろ? お前はそういう戦い方に長けている」


 アルムからの真っ直ぐな目。

 フロリア自身が言うのを躊躇っているのに、まるでアルムは確信を持っているかのように信頼した視線をフロリアに送っている。

 こんな視線を受けて、首を横に振れるわけもない。


「ええ。私のほうが上手くやれるはずよグレース」


 一歩間違えば大言壮語。身の程知らずの大口叩き。

 この十一人のなかでは間違いなく弱者であり、恐らく一対一の戦闘では誰にも敵わないフロリアは、アルムの言葉に押されて自身の得意分野を誇った。


「わかった。なら演出の配置を調整するわ」

「ふふん。なんなら自分のシーンも全部自分でやってもいいくらいよ?」

「あんた侍女役で常に城にいるから全シーン明るいわよ」

「あ……そっか……」


 気を大きくし過ぎたのか自分のシーンを忘れてしまうフロリア。

 しかし、その照れ笑いは何処か気持ちがいい。

 フロリアの隣に座るネロエラが筆談用のノートにゆっくりと文字を描く。


《フロリアは凄い奴だからな。私も知っている》

「ふふ、ありがとうネロエラ」


 喜々として見せてくるネロエラにフロリアも柔らかい笑みが零れる。

 自分が肯定される感覚にじいんと目頭が熱くなる。

 そのきっかけをくれた男はそんなフロリアの変化に気付く事もない。


「他に何かある?」

「光を使うシーンは大体グレースがやるんだよな?」

「ええ、文句ある?」

「文句はない。けれど、序盤のシーンではサンベリーナがやったほうがいいと思う」

「流石はアルムさん! 同じ属性でもルクスとかいう男ではなく私を選ぶそのセンスを褒めてさしあげますわ!!」


 サンベリーナは気分よくお気に入りの扇をばっと広げ、勝ち誇ったように笑う。


「それとは逆に、サンベリーナをルクスに変えたほうがいいと思う場所がある。終盤の……」

「はぁ!? 私よりルクスとかいう男のほうがいいって言うんですの!? 理由次第では今すぐその頭に雷を落として差し上げますわぁ!!」


 すぐにその笑顔は崩れた。

 バチンと凄まじい勢いで扇を閉じて、サンベリーナはアルムに向けて身を乗り出す。

 隣に座るフラフィネはあまりの剣幕にエルミラの所まで避難した。


「あーあ、怒らせたし」

「アルムって思った事しか言えないから」

「ねー」


 避難してきたフラフィネを加えて我関せずのモードに入るエルミラとベネッタ。

 サンベリーナは席を立ちあがってアルムに詰め寄る。ずかずかと歩きそうなものだがそんな時でも所作だけは美しい。


「さあ言ってごらんなさいな! さあ! さあ!!」

「いや、俺はルクスとサンベリーナだと得意分野が違うって話をしたくてだな……」

「サンベリーナ殿、少し落ち着いて……」

「ルクスとかいう男はお黙りなさいなぁ!」

「おう、やれやれ喧嘩だ喧嘩」


 アルムに詰め寄るサンベリーナ。それをルクスが宥めようとするが逆に火を注ぐ。

 遠巻きから煽るヴァルフトを加えて教室は騒然とし始めた。


「あーもう! 話し合い! 話し合いだから! お願いだから私の負担を増やさないで! ようやく今夜から普通の時間に寝れるんだから!!」


 寝不足なグレースの嘆きが何よりも強く響く。

 落ち着いたアルム達はミスティから叱られて……何とか今日の所は落ち着いて話し合う事ができたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベリナッちを怒らせるのに小細工は不要。ただルクスを引き合いに出せば良い…いやはや、あそこまでの自己肯定感を持ちつつ、ルクス個人のことをそこまで嫌っているわけでもないのに、なぜあそこまでノリや…
[一言] 普通の時間に寝れる嬉しさたるや……
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