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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第八部:翡翠色のエフティヒア -救国の聖女-

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594.有り得ぬ再会3

「俺は鬼胎属性には詳しくねえ! どうすりゃいい!」

「血統魔法を使えるほどの"精神汚染"……恐らく人造人形(ゴーレム)のような死体をコントロールする核があるはずです! 言語を引き出している所を見ると頭はリスクが高すぎます! 狙いは体全体に魔力を循環させやすい心臓! 次点で魔法を封じる顎の破壊!」

「お前の切り札のタイミングは!?」

(わたくし)の判断で出します!」


 臨戦態勢に入るマリツィアとルトゥーラ。

 相手が親友であるからこそ、その力量は既知であり油断ならない。

 シャーリーの背中から生える黒い翼は再びその形を変えようとしていた。


「俺が先に気を引く! 死んだらぶっ殺すぜマリツィア!!」

「そちらこそ。あなたが死んでも(わたくし)のコレクションには加えてあげませんからね」

「馬鹿言うな! 俺はこん中で一番長生きするに決まってんだろうがよぉ!!」


 爆発するように放たれた闇を前に、銀色の光が疾駆する。


『ルトゥーラ、も、私を、殺すの? あの、魔法生命、みたいに!』

「さあな! 『抵抗(レジスト)』! 『天翼の加護(ガルディアン)』!」


 駆けながら唱えられる補助魔法。血統魔法の防御力に任せてルトゥーラはただ突っ込む。

 周囲に展開された防壁は爆風のように広がる闇を弾き、シャーリーへの槍と化す。

 圧倒的な防御力と強化による身体能力での突撃。それだけで並の魔法使いではルトゥーラをどうすることもできない。

 単純にして明解。だからこそ対応しにくい。


『来ない、で! 私と、同じ場所、に、来て、くれないなら!!』


 だがシャーリーは並の魔法使いではない。

 ルトゥーラの突進は広がる闇を数度弾いた所で止まらざるを得なくなる。

 攻撃の勢いが増し、駆ける足が重くなる。

 放たれた闇はいつの間にか収束し、鉄球のような形に変わって防壁に叩きつけられた。

 さながら、ボールを打ち返すかのように。何度も何度も鈍い音が響き渡る。


「おいおい! 近付かせたくないところを見ると……マリツィアの狙いはあってるみてえだなあ!」

「当然でしょう」


 もう一つ、玉座の間を駆ける黒影があった。

 闇属性と同じく黒の魔力光。ルトゥーラが防壁の上からシャーリーの攻撃を受け止めている間に、マリツィアが強化を使った身体能力でシャーリーへと接近する。


「『黒狼の縛鎖(カテナルーパ)』」


 マリツィアが手の平を向けると、鬼胎属性の魔力がシャーリーの体の周囲に走る。

 ずしり、とシャーリーに圧し掛かる謎の重み。まるで重力が増加したかのような拘束魔法。

 シャーリーの動きが鈍ったのを見てさらに接近する。

 距離にして三十メートル。狙いは心臓。

 刃となって襲い掛かってくる闇を踊るようにかいくぐり、マリツィアは魔法を唱えた。


「『黒犬の牙(ザンカーネ)』!」

『苦しいよぅ……マリツィア……』

「っ!?」


 か細い声と共に、シャーリーが見せる苦悶の表情。

 残り十メートルにまで接近した所で見せられるその表情にマリツィアが一瞬揺れる。

 ルトゥーラの防壁目掛けて攻撃を続けながらの有り得ない表情。

 親友の顔で行われるそれはあまりにも白々しい。

 マリツィアは一呼吸でその精神を立て直す。

 しかし一瞬、ほんの一瞬の隙が、シャーリーの背中から生える闇の変化を見逃させた。


『苦しいから、一緒にいよう?』

「!!」


 膨張し、さらに枝分かれする闇の翼。

 炎のように激しく、森林のような静謐。

 気配もなく変化したにも関わらず、その闇は命を軽々と呑み込む刃と化す。

 片翼はルトゥーラを押さえ、もう片翼はマリツィアの命を奪う武器となった。


 マリツィアが第四位とされる強みは多数の死体(コレクション)を用いる事による疑似的な魔法使いの大軍の生成。

 戦力である死体によって敵が死体に変わり、マリツィアの手によってさらに戦力が増え続けるいわばたった一人の大軍。

 戦争時にこそ無類の強さを誇るが、一対一の戦闘となればその強みは無い。

 鬼胎属性は敵の心に恐怖を与えて増幅する属性。

 敵が死体とあらばそれも望めない。魔法生命のような元から"現実への影響力"が高い存在ならばともかく、ただの魔法であれば闇属性同様に威力も劣る。

 乗っ取られる事を警戒してほぼ全てのコレクションを置いてきてしまっている今、この場において最も弱者なのはマリツィアである。


「この程度で、あなたの親友は止まりませんよ」


 だがそれでも、彼女が一流の魔法使いであることに変わりはない。

 枝分かれし、降り注ぐ闇の刃。

 床はバターのように切断され、カーペットは一糸の繋がりすら許されず裁断される。

 繰り出される刃の嵐は百人の首を刎ねる断頭台。緩慢からは程遠い死をもたらす鋭い闇。

 その闇の刃の中を、魔法使いはかいくぐる。

 目の前に死を作る刃が落ちても恐怖の(まばた)きすらしない。

 闇の中を優雅な足さばきで進む姿は絶望の中を踊るプリマ。

 力強く、そして素早く。恐怖を御して自分とシャーリーを隔てる闇をかわし続ける。

 強みが活かせない? だからどうしたと言うかのように。

 たゆまぬ努力で得た身体能力と反応速度、鬼胎属性ゆえの恐怖の御し方。

 マリツィア・リオネッタの本当の強みは積み上げた月日で得た彼女自身の性能にある。

 残り五メートル。先程唱えた右手にある黒い刃をシャーリーの胸目掛けて――


『知って、るよ。マリツィアは、強い、から』

「!!」


 途端、床が割れた。

 いや、切り裂かれたのか。

 翼から形を変え、枝分かれした闇の刃はその全てが空から降り注いだわけではなかった。

 シャーリーの影から伸びた闇の刃が床を切り裂きながら飛び出し、マリツィアの胸部へと突き刺さる。

 夜属性が影を小さな夜と定義するように、闇属性もまた影は小さな闇。

 枝分かれした闇の刃の一本を影に擬態させる事など造作もなく……壁や床もまたシャーリーにとっては障害足り得ない。


「かぷっ……!」


 おびただしい出血。

 内臓まで届いたかと思うほどの吐血で闇が赤く染まった。


「マリツィアぁ!!」


 抑えられているルトゥーラが親友の吐血に絶叫を上げる。

 ルトゥーラとシャーリーの血統魔法の"現実への影響力"はほぼ互角。

 押し返せないもどかしさがルトゥーラの表情を悔しさで染めた。

 だが次の瞬間、それは驚愕へと変わる。


「ああ!?」


 胸部に闇の刃が刺さったまま、マリツィアは残り五メートルをそのまま駆けた。

 すでに絶命してもおかしくない傷。

 刃が突き刺さったまま進めば、傷はより抉られる。痛みを想像して嫌な鳥肌が立った。

 死体よりも死体のようなマリツィアにシャーリーの反応も一歩遅れる。


『マリ、ツィア――!!』


 魔法で迎撃する余裕などなく、シャーリーはマリツィアの名前を口にしながら後方に飛び退く。

 マリツィアは右手から伸びる黒い刃をシャーリーの胸目掛けて振りぬいた。

 刃の軌跡はシャーリーの胸元を掠め、服と少しの脂肪だけを切り裂くだけに終わった。


「っ……! 浅い……!」


 決死の覚悟でもその一撃はシャーリーの心臓には届かない。

 これ以上は無理だと判断したのか、マリツィアも後方に飛び退いて距離をとった。

 流石のマリツィアも胸を貫かれたまま先程の闇の刃による嵐をかわすことはできない。

 胸を貫いていた闇の刃が抜かれた瞬間、マリツィアは一瞬だけ激痛で顔を歪める。

 同時に、ルトゥーラの後方でからんからん、と軽いものが落ちる音がした。

 ルトゥーラが後ろを振り向くと、先程マリツィアが棺から出した燕尾服とドレスを着た骸骨の片方……ドレスを着たほうの骸骨が形を保てずに崩れ落ちていた。

 マリツィアが棺からさも切り札かのように出した二つの骸骨はマリツィアの致命傷を肩代わりするための身代わり。

 ドレスを着た骸骨が崩れ落ちると、マリツィアの胸の傷は完全に塞がっていた。


「てめえこら! あの骸骨が身代わりになるなら先に言っておけ!! 死んだかと思って滅茶苦茶びびったじゃねえか!!」

「言ったらばれてしまうでしょう……。できれば、ばれる前に決めたかったですが……」


 マリツィアはシャーリーに視線をやる。

 シャーリーの背中には再び翼の形をした闇が羽ばたく。

 もう近付けさせないと言わんばかりに、シャーリーは高い天井を飛び上がった。


「流石に、甘くはありませんね」

いつも読んでくださってありがとうございます。

実はマリツィアが刺された時泣きそうになったルトゥーラさん。

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