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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第八部:翡翠色のエフティヒア -救国の聖女-

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563.砂塵解放戦線ダブラマ2

「そろそろミスティが食い止めた頃かしら……?」


 地平線から姿を現した朝日を見るエルミラ。

 今彼女がいるのはダルドア領の町パヌーンの門の前。ターゲットであるジュヌーンが住まう町の近くだ。

 パヌーンの町の周りは砂漠。もしミスティが足止めに成功していなければ、今から起こす行動は瞬く間に『女王陛下(クイーン)』の手によって制圧されてしまうだろう。

 黙ってやられる気はないが、流石に分が悪いのは否めない。


「念のため少し待つし」

「ええ、やるならあちらが対応の判断を間違えるタイミングですわ」


 後ろで助言するのはエルミラに同行した戦力であるサンベリーナとフラフィネ。三人とも砂漠に溶け込むようにベージュのローブを被っていた。

 サンベリーナとフラフィネはともかくエルミラはすでにパヌーンの町で顔が割れている。

 その時の出来事の影響か、以前訪れた時よりも警備は固い。

 門にはジュヌーンの趣味であろう女性の衛兵が多数並び、来訪者を検査している。

 そのせいか町を出入りする商人の流れが滞っているのが見えた。


 だが、その警備自体は特に問題が無い。

 問題はターゲットであるジュヌーンに襲撃が伝わる速度だ。

 優先すべきは妨害用魔石の破壊。防衛に向かわれるのだけは避けたい。

 妨害用魔石の破壊だけは迅速に済ませる必要がある。


「てことで……道案内よろしくイクラム」

「なんで俺こんなとこに連れてこられてんだよぉ!?」


 エルミラは何事もないようにイクラムの肩を叩く。

 ジュヌーンの討伐と妨害用魔石の破壊工作。そのメンバーに選ばれたのはエルミラ、サンベリーナ、フラフィネ、そしてこの町でジュヌーンに処刑されかけたダブラマの貴族の青年イクラム・トルテオーンの四人だった。

 

「人が処刑されかけた町にもう一回連れてくるとか人間の心が無いのかお前ら?」

「悪いわね、絶賛育成中なの。私が人の心を持つためにも今回は諦めて」

「本当に無いみたいに言うな! あるって自信持ってくれよ!」


 自分がここにいることを平然と受け入れているエルミラを見てイクラムは頭を抱える。


「連れてこないにしてもよ……普通軟禁しておくだろ! 俺はジュヌーン様と血が繋がってるんだぞ!? 裏切る可能性バリバリにあるようなやつをこんな大事な作戦に連れてきていいのかよ!?」


 イクラムが感情をむき出しにするも、エルミラ達三人は冷静に顔を見合わせる。

 三人の意思を代弁するように、サンベリーナはお気に入りの扇を、バッと開いた。


「エルミラさんと違って私もフラフィネさんもあなたのことはよく知りませんが……私達三人ならたとえあなたが裏切ったとしても問題ない」

「おいおいなめられたもんだ――」

「と、ルトゥーラさんが仰ってました」

「ち、ちくしょう! 反論しづれえし普通にショックだ……!」

「そっちこそベラルタ魔法学院なめないでほしいし」


 自分より歳下の少女達三人に敵わないという太鼓判を自国の魔法使いに押されてしまい、行き場の無い悲しさがイクラムを襲う。

 ベラルタ魔法学院は実力主義かつ実践主義。各地に赴けば暴走した魔獣と戦い、学院に戻れば身内同士とはいえ魔法儀式(リチュア)の名目で毎日戦う戦闘集団。

 ダブラマでいうならばマリツィアやルトゥーラのような王家直属(オーバーファイブ)候補が集う学院だ。才能が乏しいとされ、満足な魔法教育を施されてこなかったイクラムとは絶対的な差がある。


「それに、エルミラさんが裏切らないと思っているようですから」

「は……?」

「私達があなたを信用するのにそれ以上の理由はありませんわ」


 サンベリーナがエルミラのほうをちらっと見ると、イクラムもつられてエルミラのほうに視線をやる。

 エルミラはパヌーンの町を見据えたまま、その視線に応えることはなかった。


「サンベリーナとフラフィネはここ来るの初めてでしょ。道案内できて一般の衛兵から自衛できる人間がどうしても必要だっただけよ。ルトゥーラのとこの領民じゃどうしても戦闘は難しいし」


 エルミラ達の後方には任務を終えたエルミラ達の逃亡を手伝うルトゥーラの領地に所属する遊牧民のが待機している。ミスティ達と一緒に来た際にもかくまってくれた村の人達だ。

 自国の民同士で刃を交える可能性の高い襲撃時には協力できないが、逃亡する事態になった際には村人に紛れてエルミラ達を逃がしてくれる手筈となっている。


「わかってると思うけど優先は妨害用魔石の破壊よ。私も途中までは一緒だけど……基本的にはイクラムに案内してもらってサンベリーナとフラフィネが妨害用魔石を破壊して。できるわよね? イクラム?」

「あ、ああ……そりゃ地図作ってたくらいだからな……。妨害用魔石は知らんが、あんたらに言われた場所になら案内できるぞ」

「当たり前だけど、サンベリーナとフラフィネは土地勘が全くないし、この町に来たこともない。迅速に破壊するためにはあんたの案内が鍵よ。頼んだわ」


 背中越しに言われて、イクラムの胸にじわじわと熱いものがこみ上げる。

 何だこれ、と未知の感覚に戸惑う。

 何かくすぐったくて、フードを深く被った。


「エルミラさんが何故途中までかは、聞く必要ありませんわね」

「ええ、あの糞爺が馬鹿みたいに通してくれたら助かるけど……そうもいくはずないからね」


 エルミラは自分の役割を理解している。無茶だと言われてもやるしかない。

 こちらの戦力はギリギリ。城攻めをするルクス達の戦力を削るわけにはいかないし、ミスティは『女王陛下(クイーン)』を足止めするという一番の大役がある。

 正体すら掴めない未知の魔法生命を相手できるのは……呪法そのものにカウンターできる彼女しかいなかった。


「第二位……ジュヌーンは私がやるわ」


 静かに、闘志を燃やしながらエルミラは宣言する。

 相手はダブラマの第二位。言うまでもなく格上。マリツィアの上をいく魔法生命抜きでも強力な魔法使い。

 人が人なら言葉にすることすらできないことを、恐れることなくエルミラは声にする。

 

「じゃ……いくわよみんな」

「ええ! ラヴァーフル家の力をダブラマに轟かせてあげましょう!」

「いや、普通に破壊してバイバイするし」


 その背中に頼もしさすら感じて、イクラムは身震いする。

 目の前にいるのは確かに、歳下の少女のはずなのに――。










 王都セルダール・情報室。

 即位記念の式の準備をと備えていた王城に勤務する感知魔法を得意とする魔法使い達は慌ただしかった。

 今日は落ち着いた一日で、平民達も揃って騒ぐ明日の祭りこそ忙しさの本番。そんな考えは朝日が上るとともに打ち砕かれた。


「報告しろ!」

「え、エンヴィ様!!」


 情報室にエンヴィと呼ばれる魔法使いを宿主とするグリフォンが入室する。

 中央にはダブラマでも珍しい巨大な記録用魔石が空中に映像を映し出しており、情報室にいる五人の魔法使いは通信用魔石での報告を受けながらもその映像に戦慄していた。


「な、なにがなにやら! 第四位マリツィア様と第三位ルトゥーラ様が隊商(キャラバン)に扮して正門に接近しております! 未確認の魔法使いも数名確認! 中にはマナリルのヴァン・アルベールに似た者もいます! 守衛部隊が迎え撃っておりますが、相手がマリツィア様とルトゥーラ様ということもありどうしようもなく……!」

「全員下がらせて正門を閉じろ! 防衛に専念してまずは落ち着け! 相手が誰かを気にする前に城門を守るという責務を果たさせろ!」

「りょ、了解!」

「ラティファ様が来るまでもたせろ!!」


 グリフォンが希望を持たせる意味で命令するが、一人の魔法使いが通信用魔石で届いた報告に声を荒げる。


「駄目です! ラティファ様も東部の砂漠にて交戦中!!」

「馬鹿な! ラティファ様の相手ができる者など――」

「カエシウスです! ミスティ・トランス・カエシウスが数分前に突如出現! ラティファ様に攻撃を仕掛けました!」

「っ――! 満を持してとはよく言ったものだな。ここでカエシウスが現れるか……!」

「記録用魔石をつけた監視用の魔獣も氷漬けにされて映像が届きません!」

「通信用魔石で呼びかけても戦闘に入ったラティファ様には届くまい……。なるほど、確かにラティファ様を封じられるのはカエシウスしかいないだろうな」


 問題はタイミングだ。

 マリツィア達が攻め込んだタイミングとミスティの交戦のタイミング。

 どちらかがずれでもすれば、マリツィア達はそれだけでほぼ詰んでしまう。

 ダブラマ中の砂漠を自在に移動できるラティファさえ動ければ、王都への襲撃など許すはずもない。


「エンヴィ様! 北部ダルドア領のパヌーンの町でも攻撃が始まりました! 規模は不明ですが衛兵が次々と突破されていきます!」

「ちっ……! 妨害用魔石のある場所をピンポイントで……!」

「ジュヌーン様と通信を繋げますか!?」

「いい! あちらにはジュヌーン様直属の部下もいる! 北部の防衛はジュヌーン様にお任せするほかない! 先に片付けるべきは王都に侵攻する不届き者のほうだ! とにかく敵の情報を拾え! マリツィアとルトゥーラ以外の魔法使いの確認が最優先だ! 私もすぐに出る!」

「了解です!」


 指示を出しながら、グリフォンは中央に映される記録用魔石の映像を睨みつける。

 攻め込んでくるなら確かに今日しかない。だが相手は配置されている妨害用魔石によって通信用魔石も記録用魔石も使えない状態。

 それにも関わらず、何故このような攻め方をできたのか。

 同時ならまだ難しくないのかもしれない。だが、敵はこちらの防衛の要であるラティファの足止めを行い、それを確認して共有したかのように攻め込んできている。


「リアルタイムの情報共有を無しに戦力を分散させての一斉攻撃……? そのようなリスクの高い作戦を何故決行に踏み切れた……!?」


 グリフォンは情報室から勢いよく退出する。

 解せないという気持ちはある。だが、それよりもまず倒さねばならない敵がいる。

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― 新着の感想 ―
戦闘民族マナリルは草
[気になる点] アルムが出てこないということは、やはり 迷子で遅刻中だからですかね
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