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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第八部:翡翠色のエフティヒア -救国の聖女-

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528.敵はここにいる

「おやおや、私の演出する茶番(ぶたい)を邪魔するとは……こんなにも勇気あるお嬢さんがまだダブラマにもいたとはの」

「あら、それは悪かったわね糞爺(くそじじい)。若いせいかしら、目立ちたがりなのよ」


 広場にいた住民達はつんざくような爆発音と明らかなトラブルにその場から逃げ出し始める。

 パニックの悲鳴と大勢が逃げる音が騒がしい中、エルミラは目の前にいるダブラマの第二位――ジュヌーン・ダルドアに集中していた。

 好々爺の皮に浮かぶ粘つくような嫌な笑み。そして感情に乗って肌を刺す鬼胎属性の魔力。

 ――こいつが宿主で間違いない。

 遠目から見るのではなく、実際にジュヌーンと対峙してエルミラはそう確信する。

 そんなエルミラを値踏みするように、ジュヌーンは足元から頭の先までを嘗め回すように視線を送ってくる。


「ほほほ……! 中々可愛らしい私好みのお嬢さんじゃの。はて……どこの家の魔法使いか……? このように可愛がりがいのあるお嬢さんを私が忘れるとは思えないが……?」

「っ……! そっちが本性ってわけね。エロ爺でもあるわけか……側近が二人とも女なのも納得だわ」

「ほう? 声を出したニサはともかく……よくイクが女とわかったの?」

「わかるわよ。佇まいがしなやかだわ」

「ほほほ! ばればれか。趣味に走るのもほどほどにせんとの!」


 舌なめずりするジュヌーンを見て、エルミラの背筋にぞわっと寒気が走る。

 鬼胎属性の魔力よりも、ローブの上からでもわかってしまう胸や腰に向けられた性的な視線のほうがエルミラには恐怖だった。


「ふむ……ますまず謎だ……。ダブラマの貴族だとしてイクラムを助ける理由も不明だが……?」


 ジュヌーンは細長い目でエルミラの背後に座り込む処刑されそうだったダブラマの貴族――イクラムのをちらっと見た。しかしすぐに興味が失せたかのようにエルミラに視線を戻してきた。

 ジュヌーンの後ろではイクという側近がエルミラの魔法を受けて倒れたニサという側近を介抱している。

 飛び込んだのだから当然だが、状況が悪い。


「まぁ、それも……私の部屋で吐かせればよいか」


 倒れているニサが目を覚ませば三対一。もし捕まればエルミラが持つ全ての情報を話した後、想像もしたくない仕打ちを拷問部屋かベッドの上で受けることになるだろう。

 ミスティに助けを求めるわけにも、ルトゥーラを頼るわけにいかない。そんな事をすればルトゥーラの裏切りもミスティの場所もばれてしまう。

 一刻もこの場から離れなければと、エルミラは背後に座り込むイクラムに端的に問う。


「あんた喋れる!? 動ける!? 早く答えて!!」


 背後で座り込むイクラムという男はエルミラに問われて、かろうじて動く首を小さく動かす。

 エルミラは背後のイクラムが体が小刻みに震えている様子を肩越しに見て思考を巡らせる。


(喋れない? 体が麻痺してる? 雷属性の麻痺? いや、このジュヌーンってやつは情報では火属性の魔法使い……ということは――)


 結論は簡単だった。


「魔法生命の能力のほうか……!」


 あまりに理不尽な状況に勢いで助けに入ってしまったが、これで助ける理由が一つ増えた。

 背後にいるこのイクラムという男は、想定外だったジュヌーンの魔法生命の能力が何なのかを知る唯一の情報源――!


「おや? それを知っているのか。もしや、お嬢さんがアブデラ王が言っていたミスティ・トランス・カエシウスかの……? いや、カエシウスは水属性……お嬢さんは火属性の魔法を使っていたから違うか……なんにせよ、マナリルの何者かには違いあるまい」


 そこまで言って、ジュヌーンは不思議そうに眉にしわを寄せる。

 処刑台の周りに会話を聞く平民がいないのを確認すると。ジュヌーンは顎をエルミラの背後に座り込むイクラムに向けて動かした。


「マナリルの者ならなおさら……何故そんなどうでもいい者を助ける? 隠れていたほうが危険も無かったろうに」

「明らかに何かされたみたいだったからね。遺言くらいしっかり喋らせてやりたいじゃない? それに……真っ当な処刑とは思えなったし」

「ほほほ! 真っ当かどうかなど関係無いじゃろう? この国では強い貴族こそが正しいのだ。弱い貴族など何の価値も無い。弱きが許されるのは平民のみ。弱い貴族など意味が無い。価値が無い。常人よりも強いからこそ、貴族として正しく在れるというもの。だからこそ、私はここにいる」


 ジュヌーンの口から語られるは古きからダブラマを支える思想。

 強き貴族が弱き平民を守り、その国力を上げていく単純にして理想の大国の図。

 そして強いからこそ、八十九という歳で第二位の魔法使いとして君臨するジュヌーンはその体現。

 弱い貴族は全て、弱い平民よりも罪深い。

 貴族はその強さこそが存在する意味。存在する価値。

 ジュヌーン・ダルドアがここにいる事こそがその思想を肯定する。

 ここはダブラマ。強き貴族が弱き平民を守る平民にとっての理想の国。

 弱い貴族の価値など強い貴族からすれば、砂に混じる歪な石ころほどの価値も無い。


「流石、糞爺の口から出る理屈は糞ね。自分に都合よく解釈して間違えた方向に進んじゃったって感じ」

「ほほほ。それにだ……自分の子供(・・・・・)くらいどう扱おうと勝手じゃろう?」

「…………は? こど、も……?」


 エルミラは目を剥いて、背後に座り込むイクラムを見る。

 イクラムの目からは静かに涙が零れていた。

 まともに喋れたとしても、一言も発せないであろう。

 体の麻痺で笑ったかのような表情のまま、その涙だけがジュヌーンの言葉が真実だと語っている。


「この国では強い貴族こそがが正しい。なればこそ強い血筋を求める者というのはいくらでもいるものでの……自然と女が寄ってくる。そこにいるイクラムはその寄ってきた女の子供の一人に過ぎん」


 処刑台の上で語られるダブラマ特有の貴族事情。

 強い者が正しいというのなら、強い血筋を取り入れればいい。それは自然な考えだろう。


「まぁ、私の才能を一欠片も受け継がなかったようだがの。運悪く、母親となった女のほうの血を色濃く継いだようじゃ」

「……」


 ジュヌーンは面白おかしく笑い飛ばす。

 エルミラは黙っている。いつの間にか、拳をぎゅっと強く握っていた。


「価値のない息子の一人や二人……私の茶番(ぶたい)を彩る飾りに利用してやろうという親心というやつだ。価値が無いから、この場を作ってやったのだ」

「…………」

「ああ、嘆かわしいな我が息子よ……だが安心するがいい。価値無きお前を価値あるものに変えてやろう。誇り高きダブラマの貴族ジュヌーン・ダルドアの茶番(ぶたい)の上で」


 ジュヌーンは心底から、イクラムに笑いかける。

 それは果たして親としての表情か。それとも親の皮を被り、周囲の人間を駒としか思っていない脚本家か。

 

「――――」


 拳を作る手の平に爪が食い込む。

 背後を振り向いて、生きる気力を喪失したように呆然とした表情になっていたイクラムを見て、エルミラは額に青筋を立てた。

 エルミラはイクラムのことを何も知らない。

 紺色の髪をしていて、自分と同じくらいのちょっと頼りなさげな少年という印象しかなかった。

 そんな男が偶然、処刑台の上にのせられているのを見た。

 そして何かを訴えようとしていた涙と言葉になっていない必死の声につい手を伸ばしただけ。

 けれど、今の呆然と空を見つめるイクラムの姿に……見知った少女の幻影を見た。


"あなたがいるからなんだっていうの?"


 子供の頃の自分(エルミラ)を殺した言葉が記憶の奥から再生される。


"一体何の価値があるの?"


 母親の声が、鮮明に再生される。

 ずっと縛られていた自分の姿を幻視する。


「……おい糞爺」


 その言葉は深い悲しみの象徴のはずだったのに。

 今のエルミラは悲しみなど一片たりとも抱いていなかった。

 ゆらりと、陽炎のようにエルミラはジュヌーンと向かい合う。


子供(こいつ)の価値を……(おまえ)が決めんじゃないわよ――!」

「ほほほ……。若い若い……!」


 沸きあがってくる怒りに任せてエルミラは声を叩きつける。

 助ける理由なんてもうどうでもいい。

 目の前にいるこいつは倒さなくてはいけない敵なのだと、誰でもない自分が叫んでいる――!


「『十三の氷柱(トレイスカクルスタロ)』」


 そんな激昂したエルミラを鎮めるかのように、処刑台に十三本の氷柱が降り注ぐ。

 中位の攻撃魔法であるそれは木製の処刑台を轟音とともに破壊し、処刑台に立っていた全員の足場を一瞬だけ奪った。


「くっ……! ジュヌーン様!」

「慌てるなイク。当てる気の無いただの目くらましじゃぞ」


 ジュヌーンの言葉通り、十三の氷柱はエルミラとジュヌーンの間に並ぶように突き立てられており……砂埃と木屑の混じったもやが晴れるとエルミラと動けないはずのイクラムの姿がどこかへ消えていた。


「ふむ……激昂して突っ込んでくるかと思っていたのじゃが……撤退を選べる頭がちゃんと残っていたか……」


 ジュヌーンはゆっくりと辺りを見回す。音が気になったのか、逃げたはずの住人がちらほら顔を覗かせているが……やはりエルミラの姿は見えなかった。


「どうじゃ?」

「は、はい?」

「お主じゃないわ」


 ジュヌーンは誰かに質問する。

 イクが返事をしたが、どうやらイクに聞いているわけではないようだ。

 ここにはいない何者かに向かって、ジュヌーンは質問していた。

 一体……誰に?


「ほほほ! やはりお主とは気が合うのう! 私もあの女が気に入った!」


 その相手はジュヌーンの奥にいる。

 帰ってきた答えに気分をよくしたのか、ジュヌーンは笑い声をあげた。


「そうじゃな。捕らえた暁には私とお主で愛でてやろう……女に生まれたことを悔いるくらいじっくりと壊れるまで。なあに、あの女であれば早々には壊れまい」


 望む未来を想像して、ジュヌーンは舌なめずりをする。

 一つの体に宿る二つの意思が昂ぶりを重ねて、この世界に馴染んでいく。

 ――宿主と呼応して、中に潜む怪物がその存在を強めていく。

いつも読んでくださってありがとうございます。

明日は日曜日なので更新お休みですー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Oh,,,糞爺,,,いまからどうぶちのめされるのか楽しみです エルミラああああああ! ミスティいいいいいい! [気になる点] 相手の能力をイクラムさんから入手できるか [一言] 更新ありが…
[良い点] 「子供の価値を……親が決めんじゃないわよ――!」 エルミラだからこその言葉ですね、痺れました そして場を見つつ決定的なタイミングで援護するミスティ 前部では感じられなかった落ち着きと信頼…
[一言] またゲスそうなヤツだねぇ、宿主も、中にいるのも。 女好きとか、あるいは拷問好きとか。神話上の何かしらというより歴史上の悪役に多く居そうな輩っぽいけど、何なのやら
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