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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第七部:氷解のミュトロギア

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442.フロリアさんは許しません

「悪いな、フロリア」

「いいよいいよ、丁度ネロエラの所に行く予定だったから」


 帰郷期間に入り、アルムはスノラに行く前に王都で野暮用をすませると……ネロエラの新設部隊の件で同じく王都に訪れていたフロリアと偶然遭遇した。

 丁度いいから馬車に乗せていってあげようか? と普通の少年なら惚れてしまいそうな魅力的な誘いをアルムはただ純粋にありがたく受け取り、こうして同行させてもらうことにしたのだった。

 フロリアに用意された馬車は王城のものなせいか揺れも小さく、クッションと背もたれのある柔らかい座席のお陰でちょっとやそっとの衝撃で体が痛くなることもない。

 王都とはいえ、一般の馬車を予約してたらこんな快適では無かっただろうとアルムはフロリアに感謝しながら流れる平野と遠くに見える山の景色を楽しんでいた。


「そういえばネロエラはどうしてる? 最近見かけなかったが……」

「この前のガザスまで走った仕事が認められて大忙しってところかしら。正式な部隊として色々面倒な手続きやら契約やら、エリュテマの検査やらで王都とベラルタを行ったり来たりで、帰郷期間でようやくお休みになったのよ。魔獣を使った初の輸送部隊だから普通より面倒なのが困りものね」

「頑張ってるんだな」


 アルムは何故だか、自然と口角が上がるくらいには嬉しくなっていた。

 ネロエラとは最近会っていないが、こうして動向を知っているフロリアから頑張っていることを聞かされると自分の事のように誇らしい。

 だが、当事者でもあるフロリアからするとその頑張りがやや不安なようでため息をついていた。


「頑張り過ぎなの。だから私が直接あの子のとこ行って無理矢理休ませようと思って。届いた書類とかロータちゃんと一緒に隠してやるわ」

「ロータ……確かエリュテマの名前だったか」

「そうよ。私に一番懐いている子で可愛いの」

「エリュテマを可愛い、か」


 肝が据わっているな、とアルムは素直にフロリアに感心してしまった。

 ネロエラの率いているエリュテマは野生のとは違うとわかっていつつも、アルムの中のイメージは(したた)かな賢さを持つ肉食の魔獣だ。

 基本的に魔力が多く群れで活動する魔獣で、賢いがゆえに普通は人間を襲わない。その賢さゆえか過剰魔力で狂暴化した時にでさえ群れの統率が失われないという特徴があり、それだけ仲間意識が強く、よそ者を警戒する魔獣である。

 ネロエラと四匹のエリュテマはタンズーク家の魔法の研鑽と歴史によるものだろうが……後から入ったはずのフロリアがそこに馴染んでいるのだとすれば、よほど歩み寄る努力をして信頼を勝ち取ったのだろう。


「アルムはミスティ様のとこに行くんでしょう?」

「ああ、招待されたからな」

「いいわね、スノラで一週間滞在するんでしょ? 去年は当主継承式でどたばたしていたけど、帰郷期間の後半は丁度お祭りの時期だもんね」

「ああ、ミスティがお祭りがあるから楽しみにしていてくださいって言ってたな……どんなお祭りなんだ?」

戴冠祭(ラフマトレーネ)っていう三日間のお祭りよ」

「ラフマトレーネ……?」


 何故か聞いたことがあるような、とアルムは首を傾げるがいつ聞いたのかは思い出せない。

 それもそのはず。アルムがその祭りの名前を聞いたのは、大嶽丸(おおたけまる)に胸を刺されてガザスで寝込んでいた時。

 ミスティの声が無意識下で耳に残っていただけで実際に話を聞いたわけではなかったのであった。


「ええ、スノラには大きな川が流れているでしょう?」

「ああ」


 スノラには大きな町を二つに分けるような大きな川がある。

 観光地であるスノラにかかせない美しい川であり、スノラ特有の色とりどりの家々が織りなす町並みが水面に映る様子は度々絵画の題材に選ばれるほどだ。


「その川に舟を使って色々なお店を出すの。普段お店やっている人からやってない人まで自由にね。勿論許可はいるけど……危ないものじゃなければ大抵は許されるわね。食べ物とかはいいけど、的当てのお店とか舟が揺れるから結構難しくて白熱したりするのよ」

「それはつまり……客も舟に乗るのか?」

「そうよ。見栄を張って一人で乗る観光客は大抵川に落ちるわね」

「それは、なんというか大変じゃないのか?」


 自分で舟を漕ぎながら他の客とぶつからないように店を回る……想像しただけで忙しない様子が目に浮かぶ。


「ええ、だからちゃんと舟を代わりに漕いでくれる人達もいるわけ。勿論有料だけどね」

「ああ、なるほど……それは安心だな」

「それでも落ちる時は落ちるけどね。スノラにとっては当たり前の光景だからみんなタオルを何枚も舟に用意しているの。落ちた人が上がってくると周りの人が一斉にタオルを投げるのがまた微笑ましいというか……っと、あんまり話すとミスティ様に悪いわね。アルムの様子を見ると楽しませたくて内緒にしているみたいだし」

「そうなのか……? まぁ、確かにミスティに説明して貰いながらのほうが楽しいかもしれないな」

「そうそう、ミスティ様に説明して貰いながら贅沢な時間を過ごしなさいな」


 フロリアはにやにやとからかうように笑うが、アルムにその笑みの意味はわからない。

 がたがたと馬車の揺れが大きくなり、回る車輪の音は次第に大きくなり始め、荷台の荷物からも妙な音がし始める。どうやら王都周りの道とは違う舗装されていない道に入ったようだ。


「フロリアはスノラに詳しいんだな?」

「あのね……マーマシー家はカエシウス家の元補佐貴族なの。カエシウス領の中心都市のスノラの事は知っていて当たり前でしょう?」

「やっぱり何度か行ったことはあるのか?」

「まぁ、一年に一度は行ってたわよ……何か聞きたいことでもあるの?」


 何か聞きたいことは別にあるようなアルムの言い回しが気になり、フロリアが逆に聞き返す。

 オススメのレストラン? 観光地? まさか……ミスティ様へのプレゼント探し?

 フロリアの中で勝手に妄想がヒートアップしていくが、アルムが聞きたかったのはそのどれでもない。


「その、トランス城に一番近いスノラのホテルはわかるか?」

「ホテ……? ――っ!」


 アルムの質問についフロリアは絶句する。

 アルムは急に固まったフロリアを心配そうにのぞき込んだ。手を顔の前で振っても反応が無い。

 その間、勝手にヒートアップしていたフロリアの頭は一足飛びであらぬ妄想へとたどり着き……冷静さを失ったままぷるぷると震え始めた。


「フロリア?」

「ちょ……」

「ちょ?」

「調子乗るのはやめなさいよ! 不潔! 最低! 女の敵! 純粋そうな顔して何考えてるのよ! ほんと不潔! いくらミスティ様の恩人だからってそこまでは許さないわよ!!」

「え? せ、制服は綺麗にしているはずだが……す、すまん……?」


 何故怒られたのかもわからず、アルムはフロリアの悪鬼すら殺しそうな剣幕に気付けば謝っていた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

この後平手された。

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― 新着の感想 ―
客人ですからあんた!
[良い点] 恐らくはアルムは友人の家に泊まるという考えか無いんですよね。 だから、宿を取る。 貴族とは違うのだよ貴族とは。 と、アルムは言わないので代わりに言っておきます。 まぁ、フロリアもミスティ…
[一言] そういやグレイシャの時城に入ろうとして平民だからと門前払い食らってたね アレまだ生きていると思ってたのかしらん
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