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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第六部:灰姫はここにいる

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番外 -とある女子生徒の名前-

 ローチェント魔法学院に入ってからずっと変わらなかった生活が、あの事件以降一変した。


「ちょっとあの店寄ってかない?」

「ごめん! また今度!」


 今まで一度も断ったことのない、友達からの誘いを断るようになった。

 感じ悪い子だって思われるかな。


「今日のお昼どこにする?」

「ごめん! 私買ってきてあるから!」


 一緒に町中のお店を散策するのが楽しみだったのに、それもしなくなった。

 付き合い悪くなったなって仲間外れにされちゃうかもしれない。


「おい、いつまで残ってるんだ?」

「あ、ご、ごめんなさい! 帰ります!」


 課題の時しか行かなかった図書館に毎日籠るようになった。

 教室があった校舎は全部壊されちゃったけど、図書館は表面が焼けたくらい。

 司書さんに迷惑になってるのかもしれません。


「これ寮長さんから夜食だって」

「うん、ありがと」

「ちゃんと寝なよ」

「もう少ししたら寝るから」


 寮長さんと友達からの差し入れを食べながら、練習するようになった。

 鏡を見て、目の下の隈が当たり前になったことに気付いた。

 故郷のパパとママが見たらきっと驚いて心配させてしまうかもしれない。


 でも、みんなごめんなさい。

 そんなこと……今の私には構っていられない(・・・・・・・・)



"安心しなさい。私が最後まで守ってあげるから"



 それほどに、あの人の輝きは鮮烈だった。

 私と同じ歳。私と同じくらいの小さな背中。

 恐怖で吐いて、震えて動けなくなった私をあの人は勇気づけてくれた。

 私を撫でる手はママのように優しくて、向ける笑みはパパのように頼もしくて。

 血塗れになって私達をずっと守り続ける姿は、炎のように苛烈だった。



"ありがとう"



 私達を守って死にかけたのに、お礼を言って抱き締めてくれた。

 お礼を言わなきゃいけなかったのは、私達なのに。

 抱きしめてくれた体も声も、炎のように温かった。

 そんな炎のように輝く彼女に――私の目はきっと(くら)んでしまったから。


 ……この人を、助けたい。

 ――この人が見るものを、一緒に見たい。


 その為に走りたい。走りたくなってしまった。

 ずっと先を走っているこの人に追いつくのは難しいかもしれない。

 追い付くには遅いって知っている。でも……どんな事も遅すぎるなんてことはきっと無い。

 あの背中に追いつきたい。出来ることなら、傷つきながらも走るあの人を少しでも支えられるように。

 走って走って……あの人の後ろにいれるような自分になりたい。

 あの人が一体何を見ていたのかは私にはわからないけれど。

 でも、もし……魔法使いになったあの人の後ろで、あの人と同じような景色を見れるようになれたら――ああ、それはどんなに素敵なことだろう?


 だから、絶対になる。

 あの人の……エルミラさんの専属の治癒魔導士に私はなる。

 志が低い? そんなの目指して何になる?

 そんな声知らない。

 もう決めた。私はもう決めたんだ。

 パパとママは反対するだろうけど、何を言われたって絶対に曲げない。

 私はもうどうしようもないくらい、あの人に焦がれてる。

 今までみたいに、他の魔法より治癒魔法がましだったからなんて理由で治癒魔導士になるんじゃない。

 あの人を支えるために、そのために私は治癒魔導士を本気で目指すって決めたから――!


「でもあのエルミラって人と仲良さそうだったあの人いるじゃん? ベネッタさんだったっけ?」

「やっぱベラルタって違うよね……家名聞いたけど、ニードロス家なんて無名の貴族であの実力なんでしょ?」

「ほんとねぇ……あの腕だし、卒業したらあの人が専属になるんじゃない?」


 そうかもしれない。

 友達の言う通り、エルミラさんの隣にはあのベネッタさんって人が似合うんだと思う。

 仲も良さそうだったし、治癒魔法の実力だってずっと上。勝てるなんて思わない。思えない。

 私が今までやってこなかった事をきっと、あのベネッタさんはやってきたんだ。


「普通だったら……そうかもしれないね」

「あ……」


 でも……それが?


「私、もう行くね」


 今負けていることが諦める理由になるなら、最初からなりたいなんて思わない。

 エルミラさんの専属になれなくても、絶対後悔なんかしない!

 たとえエルミラさんが専属なんていらないって言っても、ベネッタさんが専属になっても。

 私は弱いから、なれないとわかったらきっと泣く事になるだろうけれど……後悔だけは絶対にしないって確信してる。


「いや、だから諦めろとかそういう事を言いたいわけじゃなくて……なんというか……ああ、もう! 恥ずかしい! 私達ってこんなこと言い合うような友達じゃなかったけどさ!」


 だって、だって……あの人に抱きしめられて、お礼を言われた時に初めて――! 


「応援してる! 頑張れ! "ターニャ"!」

「――っ! うん!!」


 初めて、()の人()()に意味が生まれた気がしたんだ。

いつも読んでくださってありがとうございます。

短いながら番外です。後日談めいた一幕になります。

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― 新着の感想 ―
こうしてまた一人エルミラに脳を焼かれる 誰かの憧れになっている彼女は卵などではなく立派な魔法使いだよ いや実力はもう立派な魔法使いだけどw
[良い点] この章の掘り下げでこの作品のイチオシが生まれた。エルミラ、推せる……!!推します。
[良い点] 目指すに越した事はないですね。 ベネッタは出世する予定だし、もしかするとエルミラとルクスの子を取り上げるのは彼女かもしれませんしね。 将来が楽しみです(´∀`*)ウフフ
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