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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第六部:灰姫はここにいる

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412.呪いの儀式

「誰だあの人?」

「ん?」


 一方、ローチェント魔法学院では……これから授業が始まる時間だというのに、生徒達は窓の外に女性の姿を見る。

 中庭に入ってきた女性……トヨヒメ・ハルソノは自分の家の敷居を跨ぐように堂々と、何食わぬ顔でローチェント魔法学院に入ってきていた。

 マナリルでは見慣れない着物姿と、楚々(そそ)とした雰囲気を醸し出す女性の姿に窓から見る生徒達の目はすぐに奪われる。

 その女性が今、この地の領主を封殺した怪物であるとも知らずに。


「めっちゃ美人だけど……なんだあの服? どっかの礼服か?」

「南部は色々あるからなぁ……モルグアあの服知ってる?」

「ん? どれだよ?」


 その中にはイプセ劇場でエルミラと偶然一緒になったモルグアもいた。

 友人が指差す先のトヨヒメを見ると、確かに美人だな、と呟くと同時に既視感を覚えた。


「何か見覚えあるな? どっかで見たような……」

「あの人あれじゃない? ちょっと前から中庭いじっていた庭師の人」

「あー! それだそれ! いつも作業服着てたから気付かなかった!」


 唐突に中庭に現れたトヨヒメを見るべく窓から覗く生徒達。

 モルグア達が話している間に、他の生徒達も興味を示したのか窓際に集まってくる。

 その注目を無視し、トヨヒメは中庭の中心に辿り着く。

 中庭にはトヨヒメがいじっていた花壇があり、紫と桃色の花が中庭を華やかにしていた。

 トヨヒメは中庭に咲く花々に囲まれながら、天を仰ぐ。


「ああ、ファフ様……トヨヒメにその御力をお貸しくださいませ。そしてお聞きください……貴方様に捧げるトヨヒメの呪詛を」


 そこにいる確信を持っているような祈りを終えるとトヨヒメは視線を戻した。

 着物の袖を揺らしながら、たおやかに手を伸ばす。

 その一挙一動に見惚れる生徒達もいる中……彼女の呪詛が紡がれ始める。


「『春夏秋冬(ひととせ)巡る星の現世(うつしよ)』」


 トヨヒメの声に呼応して、中庭にある花壇全てが白く輝き始める。

 紫色と桃色の花々はその光を吸い上げるように光を灯し……鮮やかな花弁の色が光に乗った。

 学院という生徒達にとっては日常的な場所に突如、幻想的な光景が作りだされる。

 窓からトヨヒメを見ていた生徒達は当然、その光景にどよめいた。

 無理もない。マナリルではほとんど見ることの出来ない霊脈の強制的な活性化。霊脈研究を行っていた常世ノ国(とこよ)における地属性の使い手は一歩先の解釈を持っている。


「『千歳叶わぬ有涯(うがい)の子。手水(てうず)で落ちぬ穢れあり。幽世(かくりよ)に運べぬ穢れあり。()()に落とす穢れあり。届けたまえ。届けたまえ。見集(みあつ)む星よ届けたまえ』」


 トヨヒメが文言を紡ぐと、トヨヒメの足元から伸びる魔法式のようなものが現れる。

 茶色の魔力光を帯びたその魔法式はトヨヒメの足元で形作られると、やがて輝く花壇に伸びていく。

 茶色の魔力光は徐々に輝きを増していき、やがて花壇全てを巻き込むと中庭を巨大な魔法式へと変えた。


「『月夜に輝く異邦の紫鱗(しりん)(うた)う音は永遠(とわ)の爪。幾年枯れぬ(そで)(つゆ)。此処に在るは野望潰えた龍の呪念』!」


 魔法式が完成したかと思えば……今度は中庭に黒い霧が立ち込める。

 そしてトヨヒメが紡ぐ言葉に応じるように、白く輝く中庭の花壇の一部から黒い魔力光が現れ始めた。

 トヨヒメが何をするのかをつい見てしまっていた生徒達の空気も変わる。

 黒い霧が現れたと同時に走る背筋の寒気。花壇の中から立ち上る黒い魔力光を見てから感じる言いようの無い不安が蔓延(まんえん)していく。


「なに……やってんだ? あれ……?」

「なんか……寒気が……」

「おい……何やってんだあれ……? なにやってんだ!?」


 何かよからぬ事をしていると気付いても、割って入ることができない。

 足が動かない。本能が行くなと警告している。

 そもそも、何をしているのかすらも理解できない。わかるのは何らかの魔法を行使しているということくらい。

 それもそのはず……マナリルの貴族がどれだけ見ようとも、トヨヒメが何をしているのかわかるはずがない。


「『我が穢れを彼の地に! 龍の呪詛を彼の者に! 泡沫が如く(なみだ)に沈め』!!」


 霊脈研究が進んだ常世ノ国(とこよ)の地属性の家系ハルソノ家の血筋を持ち、呪詛の塊を宿したトヨヒメだったからこそ生む事が出来た傑作。

 霊脈という座標と魔法の対象となる人物の情報を元に霊脈から霊脈へ……呪詛を(・・・)転送する(・・・・・)離れ業。

 海で隔たれた島国で発展した常世ノ国(とこよ)特有の魔法のカタチにして、"詠唱"という特殊な"放出"を行って行使する『儀式魔法』と呼ばれる魔法。

 鬼胎属性の魔法生命の力を操れるトヨヒメがこの魔法を使った時それは……狙われれば受け入れるしかない死の宣告に等しかった。


「『呪詛(じゅそ)転移(てんい)桜花(おうか)紫蝕(ししょく)血花(けっか)開花(かいか)』!」


 黒い霧がトヨヒメが伸ばした手の先に集まり、黒い雫を作り出す。

 黒い雫が中庭に落ちると……霊脈の白い光も、魔法式の茶色の魔力光も、その全てが一気に黒に染まった。

 ……幻想的と評せる時間は終わった。

 鬼胎属性の魔力光に染まった霊脈は、トヨヒメの意思と魔法生命ファフニールの呪詛を星に流れる別の霊脈、そしてその地にいる人物へと転移する。


「存分に苦しみなさいアオイの血筋……その命を血に染めるまで」


 どこに転移するかなど、言うまでもない。

 ダンロード領からベラルタへ。

 恨み続けた、呪い続けた血筋の末裔……ルクス・オルリックの命を散らすためにトヨヒメは魔法生命の力を送り続ける。

 黒い魔力光に包まれた中庭はもはや生徒達の憩いの場ではない。

 ここにあるのはたった一人を呪殺するために用意された儀式場。

 中庭をいじっていたのは全てこの日この為の下準備。

 鮮やかだった桃色と紫色の花々もその(ことごと)くが黒に染まり……呪いの成就を祝うべく咲き誇っているようだった。 

いつも読んでくださってありがとうございます。

本来なら日曜は更新お休みなのですが、昨日出来なかったので更新です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 学園で守られているルクスにどうやって呪いをかけるのかと思ったら、想像の斜め上の手段でした…… 学園に潜入していたのもこのためでしたか たった一人に恨みを晴らすためにここまで大規模な行動を…
[良い点] 何してくれてんねーん! え、これどうにかなります?送り続ける動作は止められても飛んでった分は無理ですよね。誰が気付き止めるのか。 ファフ様の力、呪詛も魔法としての影響力で働くならば魔法で打…
[良い点] ルクス1人を殺すのに、ここまで大掛かりな準備をしていたとは・・・ この呪詛は術者が倒されても発動し続けるのか? 果たして止められるのか? エルミラは色々な意味で間に合うのか? さてさて、…
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