幕間 -友達未満の見送り-
「……行きましたわね」
「行っちゃったし」
うちはヴァルっちの血統魔法に乗って飛んで行ってしまったアルムっち達を見送りながら、隣のサンベリっちをちらっと見た。
サンベリっちはいらいらしているようで、腕を組んで頬を膨らませている。
「サンベリっち……どうしたん?」
「ベリナっちとお呼びなさいフラフィネさん。あなたも頑なですわね」
「そのままそっくり返すし……それで、どうしたし?」
ぐぬぬ……、とうちの顔を睨んでくるサンベリっち。
この人わかりやすいというか滅茶苦茶表情に出るから面白いし。
というか、そんなにベリナっちと呼ばれたいのかなこの人。
「不満なんですのよ。ここに残されたのが」
「サンベリっち行きたかったの?」
「当然ですわ。あの角生えた変なの……魔法生命でしたっけ? 私の美しい体をここまで痛めつけられたんですもの。一度仕返ししてやりたかったですわ」
「まぁ、言われた通りうちらは安静にしとかないといけないし」
「わかっていますわ。ですが、それをあの男……ルクス・オルリックに言われたのがなんだかむかっときましたのよ」
「対抗心バリバリだし……」
……凄いな、と思う。
この人の服の下、危ないとこを抜けたからって治癒魔法を後回しにされててまだ包帯塗れで痛むだろうに、まだ戦意が消えてないし。
後悔もきっと無いのだろうなぁ。
うちは……どうかな……。後悔半分って感じかも……?
頭に包帯巻かれて、お気に入りのお団子ヘアは当分出来そうにないし……結局、なんも役に立たなかった感あるし?
私を庇ってたせいでサンベリっちも傷だらけになったっぽいし……。
「……凄いし」
「はい? なにがですの?」
やば。
つい口から出ちゃった。
ええい、仕方ない。
「アルムっち達もサンベリっちも……あんな目に遭ってよく戦おうとするなって……アルムっちなんか胸ぶっ刺されたって話だし、エルミっちなんて、私達が見つけた時……血だるまみたいにされてたのに……躊躇なく行っちゃうし……。うちは正直、行きたくはないかな。アルムっちの故郷が危ないって言っても……正直……保身優先って感じだし」
口に出ちゃったものは仕方ないとうちはサンベリっちに本音をぶちまけた。
うわー……うちださいなぁ。
友達の事信じるのとか、友達のためとか、普通に言えちゃう正義感バリバリの連中きもいとか思ってたのに……今じゃ羨んでる。
羨んでも、そうなれない自分がださい。
エルミっちの背中を見て、本当の魔法使いになりたいだなんて思えた自分にはちょっと意外だったけど……やっぱ性根の部分は変わんないってわけだし。
「何言ってますの? 私だって別にアルムさんの故郷助けたいわけじゃないですわよ」
「はい!?」
急に何言い出すしこの人!?
「そりゃ助かることに越したことはありませんわ。故郷が無くなったり、荒らされるのはとても悲しいことですもの。けれど、私アルムさんの事よく知りませんし……自分の命に代えてまで守りたいかと言われればそんなの無理ですわ。普通じゃありませんこと?」
「いや、そりゃあそうかもだけど……」
それは魔法使いの在り方を否定する発言ではないだろうか。
うちがそう思っていると、サンベリっちは首を傾げた。
「そう頭で思っていても……動いてしまったのですから困りものですわよねぇ」
「え?」
「ほら、あなたも……エルミラさんの姿を見て……私達もあの魔法生命とやらにけしかけてしまったでしょう? そのおかげでこんな包帯だらけになってしまいましたし?」
サンベリっちはため息をついて自分の体に巻かれている包帯を見ていた。
この体じゃお気に入りの扇を開くのも体に障りますわ、と笑っている。
「え、あ、そう、だし……」
「よく考えなくても私達がガザスを守る理由などないではないですか?」
「まぁ……ぶっちゃけ関係ないし……」
「でしょう? でも……そうする理由なんて、憧れたからで十分なんですわよね……私きっと、あの時エルミラさんに憧れていたんですもの。悔しいですけれど」
同じだ。
うちもあの時……本物の魔法使いをエルミっちの背中に見ていた。
あんな風になりたい、って。自然に思っちゃったし……気付いたらサンベリっちと一緒にあの、おおたけまる? とやらを止める算段を立てていた。
「だから、エルミラさんも誰かに憧れたのではないでしょうか。正直、入学した時のあの方からそんな魔法使いが理想とする正義感は感じませんでしたもの」
「誰かって?」
「ふふ、おわかりでしょう?」
サンベリっちが誰を指しているのかはすぐにわかった。
貴族だけとされていた魔法の世界に踏み込んできた異端児。
魔法未満の無属性魔法を使って生き延びてきた、平民の魔法使い。
「だから……ミスティ様やあのルクスという男も……あの平民と一緒にいるのでしょうね」
「……何でそんな事わかるし?」
うちが聞くと、サンベリっちは自信満々に。
「女の勘! ですわ!」
高笑いするような勢いでそう言った。
「あ、そ……」
「しかもただの女ではなく、このサンベリーナ・ラヴァーフルの勘ともあらば必然にも等しいですわね!」
「その自信はどっから来るし……」
「私という完璧な女が自信を持たないほうがおかしいと思わなくて?」
「はいはい……」
うちは呆れているのを隠すことは無かったが……あながち間違っていないのかもと思った。
あの五人はなんというか、アルムっちがいつも中心にいたりする雰囲気があったりするし。アルムっちが五人を纏めているとか、そんなんじゃなくて、対等な関係の中に尊敬が含まれているような。
きっと……ミスティ様とルクス様も、エルミっちもベネっちも……アルムっちに何かを見たんだろう。
だから友達なんだろう。
だから助けたいと、自然に思えるんだろう。
「だから、そんなものですわよ魔法使いって」
「そんなもんって?」
「みーんな大馬鹿ってことですわ。アルムさん達も、頭ではわかっていながら影響される私達も」
「あー……それは間違いないし」
馬鹿と言われても全然悪い気がしないどころか……誇らしさすらあったりして。
うちはサンベリっちと二人並んで、もう豆粒ほどに遠のいたアルムっち達をずっと見送り続けていた。
どうか無事であるように、と祈りながら。
また学院でお互いを見かけるような、そんな日が来るようにと。
「それにしてもこの割れた窓……私達のせいにされないでしょうか?」
「請求先は当然ランドレイト家に、って言っておくし」
「ヴァルフトさんには悪……くないですわね、考えてみればあの人が割っていましたし」
「そうそう、当然だし」
いつも読んでくださってありがとうございます。
次回の更新から第五部最終章忘却のオプタティオの更新となります。
皆様是非お付き合いください。そして変わらぬ応援をどうかよろしくお願いします。




