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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第五部:忘却のオプタティオ

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幕間 -あなたと出会った-

「おお、お前さんならなれるさ」

「ありがとう」


 嘘だ。


「なれるよ、きっと」

「そうかな」

「そうさ」


 嘘だ。


「ふー……そうだな。まぁ、頑張ればなれるさ」

「……本当?」

「……ああ」


 ……悲しかったがこれも嘘だ。

 魔法とは無縁の田舎村カレッラで俺は拾われた。

 隔離されたように山に囲まれ、狩りが盛んな小さい村で孤児だった自分に生き方を教えてくれた大切な故郷だった。

 五歳になった頃。本に出てくるような魔法使いになりたいと憧れを語った時、村の人達は口々になれると言ってくれた。

 平民は魔法使いにはなれない。そんな現実を子供の頃に突きつける必要は無いという優しさだ。村の人達はこの上なく善人で、俺の憧れを守ろうとしてくれた。

 けれど――違う。

 知っていたんだ。平民では魔法使いになれないと。

 知っていたんだ。本を読む度に、現実を教えられるのを。

 知っていたんだ。魔法使いは才能なのだと。

 知っていたんだ。魔法使いの才能は貴族しか持ち得ていないのだと。

 欲しかったのは決して、そんな無責任な言葉では無かった。


「おう、お前ならなれるさ」


 何度か目のその優しさを貰った時、泣き出しそうになったのを覚えている。

 周囲の大人にそう言われる度、子供ながら現実を刻まれているような気がして。なれるはずがないだろと、憐れに思われている気がして。


「今のままではなれないね」


 湖のように広がる自然の花園。花は一種類しか咲いておらず、夜に逆らうように白く輝く自分だけの秘密基地。

 その場で座り込む自分に向かって、彼女は花園の外からそう言った。

 どこからかカレッラという田舎村に訪れた少し変わった魔法使い。自分が後に師匠と呼ぶ事となる彼女に対しても自分は憧れを語った。


「今の……ままでは……?」


 まるでなれる可能性があるかのような物言いに、自然と立ち上がったのを覚えている。


「ああ、今座り込んでいるだけの君はとんだ出来損ないだ。ただ憧れを語るだけの子供に過ぎない。今のままでは何にだってなれはしないよ」


 彼女は幼かった自分に出来損ないと容赦なく言い放った。

 気遣いもなく、気安めでもなく、そこにあるのは優しさだけ。

 初めて、自分以外で自分との夢と向き合ってくれた人が目の前に現れた。

 自分が今まで会った誰よりも――自分の憧れに向き合ってくれた人だった。


「魔法使いになりたいんだろう?」

「はい……」

「なら、何故なろうとしないんだい?」

「なれますか……?」

「そんな事は知らないよ。なれると無責任に言う気は無いし、なれないと無責任に言う気も無い。ただ、そうやって座り込んでいるだけではなれないとだけ言っておこうかな」


 決して、思ってもいない事を言う人では無かった。

 彼女の言葉はいつでも目の前の相手としっかりと向き合っていて、水のように純粋だったのを覚えてる。


「君だよ少年。全ては君がどうしたいかなんだ。周りの声の示す先が……君の言う憧れなのかい?」


 憧れたのはもう本の中の魔法使いではなくなっていた。

 次に憧れたのは、自分を出来損ないと呼ぶ彼女――平民の無謀な憧れに十年間付き合ってくれた魔法使い。

 平民だからでも無い、貴族だからでも無い、ただアルムという子供の憧れに向き合ってくれた彼女。

 その声が、俺を立ち上がらせてくれた。


「本当になろうとしているのなら、この幸運を噛み締めるといい。私には、君に教えられる魔法がある」


 それは悪魔の誘惑のようにも、天使の救いのようにも思えた。


「たった一つだけ、私はその方法を知っている。遥か昔に切り捨てられた机上の空論。今でも欠陥とされる原初の魔法を」


 それでも、自分を立ち上がらせてくれたこの人を信じたくて。

 それとも手放したくなかったのだろうか。だから俺は、この関係に名前を求めていた。


「なら、あなたは師匠?」

「師匠?」


 困惑した表情で彼女は首を傾げたのをよく覚えている。

 そこで初めて人らしさを垣間見た気がした。


「本に書いてあった。何かを教えてくれる人は師匠と呼ぶらしい」


 偏った知識だったと思う。

 俺にはその時、何かを教えてくれる人の呼び名に先生という言葉があるのを知らなくて、知っていた言葉は本に出てくる魔法使いが言っていた師匠という言葉のほうだった。


「ふうん? なら確かに、私は君の師匠になるのかもしれないね」

「なら師匠……よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。出来損ないの私の弟子」

「それで……あなた誰ですか? 名前は?」


 順番が色々あべこでだとは思うが、その時は不思議に思わなかった。

 俺の質問にその人は悲しそうに微笑んで。


「名前を教える必要は無いだろう? 誰かなどすでに語る必要も無い。私は師匠。君の……師匠だ」


 そこが、俺の始まりだった。

 魔法を使い、使いこなせる為の最初の一歩は師匠との出会い。

 恐らくは一生忘れない日の――大切な記憶だった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

明日は更新お休みとなります。

悪鬼侵略編も終わり、次から第五部完結に向けて進んでいくかと思います。次の更新をお待ちくださいませ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出会い。 忘れないで。 [気になる点] 何故、師匠はここにいたんですかね。偶然? [一言] 更新ありがとうございます。
[良い点] お〜、この幕間はあの……フムフム こちらは、より詳細になっている気がしますね〜 さて、5部も楽しみです。
[良い点] 師匠の言葉で救われ、師匠の行動のおかげで魔法使いになれた。 アルムにとって大きな影響を与えている人物の1人。 1人と数えて良いのかどうかですが(笑) 師匠がいなければ、この物語は始まりま…
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