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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第一部:色の無い魔法使い
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28.呼び出し

「誰だ?」

「うわーお、ひどいね!」


 アルムの悪気は無いが失礼な問いに少女は両手を広げ、芝居がかったリアクションをする。

 その表情に覚えられていなかった事への不快感があるわけではなかった。


「君そろそろ同じクラスの名前くらい覚えた方がいいよ……」

「すまない。話した事のある相手は覚えられるんだが、見かけただけではどうも顔と名前が一致しなくてな」


 頭を下げ、素直に謝罪するアルム。

 少女は面白がりながらしゃがんで目線を合わせた。


「いいよいいよ。ボクなんてここの二人に比べれば名前なんて無名もいいとこだしね!」


 少女の言う二人が誰を指すのかわかっているエルミラは面白くなさそうに突っ伏していた体を起こす。


「で、怪我してるから何なの? "ベネッタ・ニードロス"」


 ベネッタと呼ばれた少女は名前を呼ばれてにこっと笑う。

 その笑みはエルミラに向けられた。


「あ、ボクの事知ってたの? ありがとー!」


 そして嬉しそうに、ベネッタは机の向かい側から乗り出してエルミラに抱き着いた。


「ちょ、何してんの!?」

「ありがとうのハグー」

「そういうのいいから!」

「けちー」


 エルミラは抱き着いてくるベネッタを無理矢理引き離す。

 ちょっといい匂いがしたなんて事は口が裂けても言いたくない。


「ていうか、ニードロスってミスティのとこの貴族じゃなかったっけ?」

「ええ、けれどお会いした事がないのです」

「初めましてー! ベネッタ・ニードロスです!」

「ご丁寧にどうも。ミスティ・トランス・カエシウスです」


 二人は今更な自己紹介を終える。

 この国の貴族は広い領地を持つ貴族に限り、下でその仕事を補佐する貴族がつく。

 領主の手の届かない地方や小都市を管理する役割であり、領主の力が落ちた時に領主の座を狙えるポジションでもあるので虎視眈々と領主の座を狙う家も多い。

 ミスティの家はこの国の北方で最も領地を持つ貴族であり、下にいくつかの貴族が補佐についている。ニードロス家はその一つだった。


「アルムです」

「……エルミラ・ロードピス」

「ルクス・オルリック……って言っても僕はもう挨拶していたね」


 他の三人も自己紹介を終えるが、心なしかエルミラは少し嫌そうだ。


「それにしても自分のとこの貴族と会った事が無いって珍しいね」

「珍しいのか?」


 不思議そうに聞くアルム。

 本人はそもそも自分のところの貴族とはどういう意味だろう、という所から疑問ではあったが、とりあえず話の流れに任せる。

 まだアルムに貴族社会の事情を把握するのは難しい。


「ああ、少なくとも僕は顔合わせしてない家はないな」

「いえ、今の当主様とはお会いした事があるのですが、ご子息やご息女の話をされなかったのでまだいらっしゃらないのかと……」

「あー、私お父様に嫌われてるから」


 ベネッタの言葉に貴族の三人は微妙に雰囲気が変わる。

 自分の家の事情をぺらぺら話す事こそ珍しいが、両親との不仲など貴族に限らずありふれている。

 貴族の場合は当主を引き継ぐ際にごたごたするのが面倒だからと、表面上は問題ないように接している事は多いが、お腹の中には黒い感情を持つ者も少なくない。

 実際この三人の中にもそういった事情を抱えている者もいるわけで。

 だからこそ貴族である三人はその事情には踏み込もうとしなかった。


「何故だ?」


 貴族である三人は、という話だが。

 遠慮や躊躇なんてものはそこには無く。

 アルムは特に何か考えがあるわけでもなく、気になったという理由で聞き返していた。


「お父様の方針に従う気いっさい無いからー」

「なるほど、そういう事もあるのか」


 躊躇う様子もなく、ベネッタは普通に答えてくれる。

 本人にとっては本当にたいしたことのない話題のようで、ベネッタの表情に不快感や嫌悪感といったものはない。


「君という人は……」

「アルム……」


 呆れるルクスとミスティに加え、エルミラはアルムの頭を小突く。


「何をする?」

「本人の口から説明させんじゃないわよ!」

「いいっていいって。ボクは隠す気ないからさ」


 気遣いか本音か、ベネッタは気にしていない様子を見せる。

 そして、いつの間にか逸れに逸れた話をルクスが元に戻した。


「それで、ベネッタくん。怪我があるからどうしたんだい?」

「あ、そうそう! 話逸れちゃってたね。どこ怪我してるの?」

「足だ」

「どこどこー?」


 アルムは少し椅子を引き、怪我の位置を指で示す。

 ベネッタは向かい側の机から乗り出し、アルムの指差す場所を見る為に机の下を覗いた。

 それを隣で見ていたエルミラが呟く。


「構図が危なくない?」

「何がです?」

「なんでもありません」


 ミスティの疑問に答えられるはずもなく。

 自分の考えが邪だったことを認めながらエルミラは黙って成り行きを見守る。


「ここね?」

「ああ」

「オッケー」


 ベネッタは傷の場所を確認して首元から十字架を取り出す。

 そしてアルムの示すその場所に右手と一緒に押し当てた。


「……『治癒の加護(ヒール)』」


 ベネッタが口にすると共に十字架と手を中心に魔力が広がり、球体上に白く輝いた。


「痛みが消えた……」

「おお」

「まぁ」

「へー……」


 それを見た四人から素直な感嘆の声が上がる。

 実際に魔法を受けたアルムの表情は驚愕に染まっていく。


「はい終わり。傷は小さいけどちょっと深かったね」

「まさか……"信仰属性"か?」

「正解ー」

「しまった……! 傷跡を見ながらやってもらうべきだった……!

そうすればもう少しじっくり見れたのに……!」


 感情はすぐさま驚愕から後悔へ。

 後悔は初めて見る魔法をじっくり見れなかった事に対するものだった。


「薄々思ってたけど、変わってるねアルムくん」

「ああ、付き合ってると慣れるよ。それにしても、ばらしてしまっていいのか? 僕らも含めて君の属性がここにいる人にばれてしまったが……」


 雑談の間にも続々とクラスメイトは教室へと入ってきている。

 ここにはアルム達を除いても十人ほど。その全員にベネッタは自分の属性を明かしてしまったことになる。

 これは魔法儀式(リチュア)になった際にかなり不利になるが……。


「ああ、全然だいじょーぶ。ボクは魔法儀式(リチュア)で負けてもあんま関係ないから」


 関係ないとベネッタは言い切った。

 ベラルタ魔法学院の生徒である以上関係ないはずないのだが、そんな当然の疑問を聞かれる前にベネッタは続ける。


「ボクは"治癒魔法師"志望だからね、魔法儀式(リチュア)の戦績は大して影響しないから」

「ああ、そうなんだね」


 "治癒魔法師"とは、魔法使いの中でも治癒を専門とする魔法使いの事である。

 信仰属性を選んだ者の大半が治癒魔法師となり、万能ではないものの自身や他者を問わず、即座に癒せる彼らは重宝される。

 しかし、信仰属性になる者が少なく、今は人手不足が少し問題となっている。


「何はともあれ、ありがとう。全く痛みがなくなった」

「いやいや、こっちも練習だから。練習。気にしないで」

「それでも、ありがとう。そちらから声をかけてくれて助かった」

「ストレートだねー、照れる照れる」

「わかります……とてもわかりますよ……」


 頬をかいて照れるベネッタにうんうんとミスティは深く頷いた。

 エルミラは何かを考え込んでいるのか無言だった。


「おい、アルム」

「あ、ヴァン先生」


 そんな集まりの後ろから声がかかる。

 いつの間に教室に入ってきたのか、後ろにはヴァンが立っていた。ベネッタは机の向かい側にいたので気付いていたみたいだが。

 朝は教室の出入りは多いが、この時間に教師が直接来るのは珍しい。


「うわ、いつの間に」

「学院長の呼び出しだ。ついてこい」

「学院長……」

「何だその顔は。ほら来い」


 学院長というワードに少し抵抗があったが、アルムは渋々立ち上がる。

 どちらにせよ呼び出しを断るなんて選択肢は設けられていない。

 アルムが立ち上がると、ヴァンは隣にも目を向けた。


「あとお前らもだ。ミスティとエルミラ。二人もついてこい」

「わかりました」

「まぁ、私達が呼ばれるって事はそういうことだよね」


 ミスティとエルミラは予想していたようで特に驚きはない。

 用件は昨日の夜の出来事だろう。憲兵から学院に連絡がいくことくらいは予想できていた。

 三人は言われた通り、ヴァンについていく。


「……何か今日はこんなのばっかだな」

「ドンマイ!」


 気付けばこの机に座ってるのはルクス一人。

 慰めるように、ベネッタがルクスの肩をぽんぽんと叩いた。

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― 新着の感想 ―
信仰属性は何の神なんだろう。そして信仰する神が違っても属性や効力は同じになるのだろうか。
[一言] 出力できないなら、自己回復はできそう?
[一言] 読み始めたばかりだから先では直した問題なのかが分からないけど~ 何かキャラの見た目の説明なくない? 喋り方だけでキャラのイメージを作れないよ~ もしかしてこれから出るキャラも同じ? ないわそ…
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