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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第五部:忘却のオプタティオ
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270.四大の反応

 ベラルタ魔法学院では学年間の交流というのが非常に少ない。ベラルタ魔法学院の方針を聞いた際、同級生との繋がりが最も生き残りやすい事を即座に理解するからだ。

 魔法儀式(リチュア)という評価にもかかわる生徒同士の決闘。そのルールの一つに、上級生から下級生に魔法儀式(リチュア)は仕掛けられないというものがある。それはつまり、互いに魔法儀式(リチュア)を仕掛け合える同級生と戦う機会のほうが多くなる事を意味する。

 ならば、魔法儀式(リチュア)で高い評価を貰いたければ同級生の腕前こそ一番に気にしなければならない。同級生との繋がりとは、日々上がっていく同級生の腕前を自然に、そして近くで見定め続ける絶好の機会を作れるものなのだ。後から友情なり、家同士の繋がりなりが付いてくるのならば、それはそれで今後の財産になるだろう。

 入学直後という魔法の情報がほとんど漏れておらず、魔法儀式(リチュア)というシステムに慣れていない今こそが、新入生にとっては正確な情報をいかに手に入れて同級生との魔法儀式(リチュア)に勝利できるかを決める大切な時期なのだが……。

 何事にも例外というのは存在する。


「ロベリア・パルセトマと申します」

「ライラック・パルセトマと申します」

「次男が入ってくるって噂は聞いてましたが……」

「驚いた……双子だったのね」


 放課後の中庭。

 驚くルクスとエルミラの前でにこやかな表情を浮かべる紫髪の双子の兄妹が二人。

 パルセトマ家の長女ロベリア・パルセトマと次男ライラック・パルセトマは今年の新入生の中でも飛び抜けて優秀だった。筆記と実技、どちらも一位と二位を占拠するなど入学前から周囲に格の違いを知らしめている。

 その為、現状この双子に魔法儀式(リチュア)を仕掛ける新入生はいない。そしてこの二人もまた同級生が眼中に無い。

 入学時の実技の成績を見るとやはり上級貴族が上位に、下級貴族が下位にいる傾向があった。やはり家柄はそのまま才と実力に現れるのだと、二人は結論を下していた。

 ならば、自分達が付き合うに相応しい相手は上級生にこそいる。

 自分達は誇り高き四大貴族。同じ四大貴族こそが、自分達が付き合うべき相手であり、相手にとってもそうであるとこの双子は信じて疑わない。

 だからこそ、会いに来たルクス・オルリックの隣にいる赤い瞳をした少女にロベリアは不快感を持っていた。


「それで……わざわざ挨拶にきてくれたんですね?」

「はい、ルクス様の先日の事件でのご活躍も耳にしました。すぐにご挨拶したかったのですが、ガザスへの留学の件で二年全体が忙しそうでしたので」


 ロベリアは兄と過ごしていた時とは別人のような振舞いを見せている。

 相手はオルリック家の長男にして先のベラルタ封鎖事件の功労者。

 パルセトマ家にとっても間違いなく、人間関係を築く価値のある相手。

 ターゲットに近付くがてら、四大貴族の一つと友好を深めようと双子はルクスに接近したのだった。


「そうですね、空気がピリピリしていましたから」

「ルクス様は勿論、ガザスから推薦が?」

「ええ、まだ未熟な自分を選んで頂けるとはありがたいことです」

「また御謙遜を」


 しかし、態度と言葉の端々には本性が見え隠れしている事をルクスは察知している。

 その目はルクスとエルミラの二人と対面しているはずが、エルミラを見ていない。同じ西部の貴族という共通点があるにもかかわらずだ。

 ロベリアの声が向けられているのもルクスだけ。エルミラもそれには気付いており、興味が無いと語るその態度に一瞬だけ不満を覚えるが、心の中で苛立ちの声を呟くに抑える。

 同じ西部の貴族であるからこそ、ロードピス家の没落っぷりは他の地域の貴族よりも理解しているはず。見下し、益が無いと無視して当然の態度だと。


「こちらのエルミラ嬢も留学のメンバーに選ばれているので、共に得られるものを得てこようと思います」

「あら、エルミラさんも優秀な方なのですね」

「……どうも。パルセトマ家の方にそう言って貰えると嬉しいわ」


 ルクスに話を振られて、ようやくロベリアはエルミラのほうをちらっと見た。

 中身の無いその声はぞんざいで、エルミラを歯牙にもかけていない。

 こちらを見るその目をエルミラは幼少の頃から知っていた。

 格上と格下の明確な線引きをする不遜な目。相手を見下さなければいけない決まり事でもあるかのような一番嫌いな目だった。

 隣の兄であるライラックは糸目で表情も読み取りにくいが、小さく、それでいてしっかりとルクスのほうにしか顔が向いていない。どうやら兄妹揃って同じ考えのようだ。


(――典型的なあれって感じね)


 目の前でため息の一つでもついてやりたかったが、それは心象を悪くしてしまう。

 自分のではなく、ルクスの。

 ルクスは目の前の双子と同じく四大貴族で地位ある家の出だ。自分の苛立ちを晴らすために、付き合いのある人間に問題があるだの、あーだこーだルクスが言われるのは本意ではない。


「ルクス、私先に行ってるわ」

「え?」

「それでは失礼」


 ルクスにそう告げて、エルミラはその場を去るべく足早に立ち去ろうとする。 

 目の前の大嫌いな貴族から逃げるようで癪だが、この場にいるよりはいいだろうと思っての事だった。


「ええ、さようなら。エルミラさん」

「お会いできて光栄でした」


 鼻で笑いたくなるようなロベリアとライラックの台詞がエルミラに届く。

 白々しいその台詞は丁寧ではあるが、エルミラには早くどこかに行け、と突き放しているようにしか聞こえなかった。


「それなら僕もここで失礼します。お話はまた今度」

「え」

「え?」


 その瞬間だけ、エルミラとロベリアの息が合った。ライラックも少し驚いたようで、読み取りにくい表情に何か動きがあったのがわかる。

 そんな双子の反応を意にも介さず、ルクスはロベリアの横をすり抜けるようにして、エルミラの背中に追いついた。


「ちょ、いいの?」

「何がだい?」

「ほら、だから……」

「る、ルクス様! もう少しお話を……」


 ロベリアは慌ててルクスを引き止めようとするも。


「失礼。今は友人と一緒にいるのでまた後日に」

「……っ」

「行こう。エルミラ」

「え、う、うん……」


 今度は、ルクスが双子を突き放すように言い放ち、ロベリアは何も言えなくなった。

 エルミラの名前を呼ぶその声が、この場で話すことはもう無いと、暗に二人に語っていた。


「ちっ……!」

「聞こえますよ」

「わかってるわよ」


 ついしてしまったロベリアの舌打ちをライラックが諭すも、ロベリアの不満気な表情は戻らない。

 ルクス・オルリックは今明確に、パルセトマ家よりロードピス家との時間を選んだ。

 ロベリアの苛立ちは加速する。指令のターゲットに近付くついでに挨拶しておこうと思っただけのはずが、こんな屈辱的な扱いをされるとは。


「あんな没落に現を抜かしてるって事かしら」

「ロードピス家は昔は名家でしたよ」

「昔は、でしょ」


 ロベリアは、昔は、の部分を強調する。

 騙され騙され、また騙され。妻にも騙されていた無能なロードピス家の現当主。

 今のロードピス家の惨状を知っているがゆえに。


「さて……あの平民の話にまでいけませんでしたね」

「いいじゃない。もう一人四大貴族はいるわけだし。あんた見張ってたんでしょ? ストーカーばりに」

「お兄様と呼びなさい。それと兄をストーカー呼ばわりするんじゃない。指令ゆえ仕方なくです」

「はいはいライラック。そんで? どこなの? スノラの噂の中心人物だもの、あの平民の話も聞きやすそうじゃない?」

「図書館だ」




 図書館の閉鎖は一時的に解けている。『シャーフの怪奇通路』が無くなりはしたものの未だ地下は封鎖されたままだ。

 図書館はシャボリーという管理人を失い、荒れ放題……というわけにはならなかった。図書館を利用しているのは魔法使いの卵、そして貴族。管理人がいなくなったくらいで本を粗末に扱ったり、館内でやりたい放題する人間などこの学院には存在しない。

 今は新しい本こそ入ってこないが、その貯蔵量は王都にも負けていないのがベラルタ魔法学院の図書館だ。図書館を利用したい人間は大勢おり、その利用したい人間の当たり前のマナーによって図書館は変わらぬ平穏を保ち続けていた。

 後任が到着するのはガザスの短期留学後。それまでこの図書館は問題なく、生徒に本を読ませ続けるだろう。

 それを証明するかのように、図書館の外観に設置されている大きな時計が、変わらぬ日常を刻んでいた。


「まぁ、次男の方が入学されるという噂は聞いておりましたが……」

「ロベリア・パルセトマと申します」

「ライラック・パルセトマと申します」


 ライラックの言った通り、図書館にミスティはいた。

 双子である事への反応は概ねルクスやエルミラと同じ。パルセトマ家は万が一のため、双子が生まれた事を隠していたので当然の反応だ。隠していたのでむしろ驚いてくれたほうが安心というもの。


「お会いできて光栄です。ミスティ様……ああ、なんて可憐な……」

「噂には聞いておりましたが……申し訳ありません、月並みではありますがお美しい……」

「うふふ、御兄妹(ごきょうだい)揃ってお世辞がお上手ですのね」


 誓って、ロベリアとライラックの言葉はお世辞ではなかった。

 二人はミスティに話しかける前、何があるわけでもなく立ち止まっていた。

 今ここで何をしていたかとその時に問われれば、図書館で何かを探して辺りを見回す、そんなありふれたミスティの姿に見惚れてしまった事を白状するだろう。

 並外れた可憐な美貌に淑女の微笑み、その仕草に至るまで。誰かが美少女を思い描けば、それは目の前の少女こそ相応しい。

 この人がいるだけで空気が温かく、そして清涼に変わるようだ。

 四大貴族の頂点カエシウス家。十歳で血統魔法を扱うに至った才女。

 そんな肩書までもがこの完成された美に付いてきているかと思うと、人は平等でない事を改めて感じさせた。


「ミスティ様は何をなさっていたのですか? 本を探しているようには見えませんでしたが」

「え?」

「その、失礼ながら本棚よりも通路を見ているようだったので……」

「ああ……」


 ロベリアからすれば世間話がてらの質問だった。

 しかし、そんな何気ない質問をされたミスティのほうは少し返答に困っているかのような間がある。

 何故かなどロベリアとライラックが知る由もないが、ミスティの頬は少し染まっており、そんな姿も二人を魅了する。


「いえ、何かいい本は無いかと探していただけですよ。そ、それより……わざわざ私を探しに来られたという事は何かお話が?」


 ミスティは露骨に話を変えたが、二人にとってはそれすらもどうでもよかった。

 何とか本来の目的を思い出し、関連していてかつ個人的にも聞きたかった噂についてをロベリアは話題に出す。


「その……ミーハーで申し訳ないのですが……スノラの事件の事をお聞きしたくて……嫌な思いをさせてしまうようでしたらここに謝罪を……!」

「いえ、私個人としては受け入れている出来事ですので大丈夫ですよ。確かに……カエシウス家としては苦い出来事でしたが」


 スノラでのクーデターの内容は北部以外にも伝わっている。

 グレイシャ・トランス・カエシウスが起こしたクーデター。招待した貴族を全て氷漬けにして人質にした凶悪な事件はその場にいたベラルタ魔法学院の生徒の妨害によって食い止められたという事実。

 しかし、その事件の最後を妙な結末を語る者がいる。

 その場に居合わせたアルムという平民がグレイシャを倒した、のだと。

 アルムという平民がクーデターを止めた一員だったという噂は、ルクスの父クオルカも肯定した。恐らくは当時、何らかの方法で役に立ったことは本当なのだろう。

 だが、グレイシャを倒したというのは飛躍しすぎている。

 大方、事実と願望丸出しの噂がごっちゃになって流れてきているのだろうとロベリアは考えていた。平民が魔法使いの卵に混じって何かをやっていたのなら……成る程、話題性はある。

 カエシウス家の長女グレイシャを倒すなど、普通の魔法使いですら無理な話だ。それを平民がなど有り得るはずがない

 有り得ない……そう思いつつも、真偽を確かめたくなるのが噂というもの。

今回自分達のターゲットでもあるアルムの事を聞くついでに、その冷静に考えれば有り得ない結末ついての真偽を確認しようとしていた。

 まぁ、返ってくる答えはわかっているのだが――。


「本当ですよ」


 アルムという平民がミスティ様のお姉様を倒したという噂をお聞きしまして。

 そんな質問をロベリアがした瞬間、ミスティからはロベリアにとって予想外の答えが返ってきた。

 そんな答えが返ってくる事はロベリアもライラックも予想していない。


「え、いや……」

「全て事実です」

「や、やっぱり聞かれて嫌な思いをされましたか? 本当の事を――」

「本当です。グレイシャお姉様を倒したのはアルムです」


 相手が四大貴族とはいえ、流石に魔法生命の事についてはどこまで知っているのかわからないので情報を伏せる。

 そのせいか、あえて情報を出さないよう、短く答えるミスティ。


「いや、だって、平民が――」

「確かに彼は平民ですが、魔法使いになるべく日々を過ごしていらっしゃいますよ。私やあなた方と同じように」


 平民が自分達と同じ。

 ロベリアの態度が一瞬崩れる。


「庇護しているからってそんな持ち上げる必要はありませんよ! 本当のことを教えてください!」

「ですから、事実です。これ以上何を教えればよいのでしょうか?」


 ライラックのほうも驚きを隠せていない。

 二人は今回聞かされていたアルムの推薦を噂を真に受けた他国の女王のお遊びかと思っていた。

 しかし、スノラの噂がミスティの言う通り真実だとすれば――ガザスが推薦するのも頷けてしまう。

 いや、そんな事は有り得ないと、よぎった考えを捨ててライラックは自分の常識を信じ続ける。


「私達を……馬鹿にしているんですか?」

「とんでもありません。私はただ事実をお答えしただけですわ」


 どれだけ尋ねても事実と繰り返すミスティに先程ルクスにあしらわれた苛立ちが想起させたのかロベリアの声が荒くなる。


「そうやって実際は大したことない平民を持ち上げて……理解ある貴族の顔をしているって事ですか?」

「仰る意味がわかりかねますが……」

「確かにこの学院に入れたのは凄いでしょう。それは認めますとも。ですけど、それ以降はあなたやルクス様が平民を庇護して生まれた噂でしょう? そうでなきゃ平民にそんな噂が立つわけがない。周りに凄い方がいれば一緒にいる人も凄く見えちゃうものですものね。平民に魔法の才能は無い……そんなの常識なんですから!」


 真偽を確かめる、から、ただ平民の功績を否定する、に目的が変わってしまっているロベリア。

 声に冷静さを欠くロベリアとは対照的に、どこまでもミスティは冷静に事実だけを答えていく。


「噂ではなく、事実ですよ。彼が彼自身の力で勝ち取ったものです」

「そうやって……!」


 何かに気付いたように、ロベリアの言葉が一瞬途切れた。

 そして納得したかのように数度頷く。


「ああ、なるほどなるほど……」

「どうされました?」

「そんなに持ち上げるって……その平民、もしかして顔でもいいんです?」

「……」

「わかりますよ、平民でも顔がいいのはいますもんね……功績を無理矢理くっ付けて傍に置いても何も言われないようにしてるとかしてます?」


 その言葉が、最後だった。

 ミスティは可愛らしく小首を傾げたかと思うと。


「それ以上、私の前であの方を侮辱するのであれば……カエシウス家次期当主として、その言葉をカエシウス家への宣戦布告とみなします」

 

 誰もが見惚れる微笑み。絵画のような美しい佇まい。完成された少女像を保ったまま、恐ろしいほど自然な声色でミスティ・トランス・カエシウスはロベリアとライラックの二人にそう言い放った。

 一瞬、ロベリアとライラックも何を言われたかわかっていないようで、理解したのは数秒後だった。

 最初に美しさを感じた微笑みは怒りによるものにしか見えず、二人は気圧されて一歩下がる。


「彼はカエシウス家の恩人、そして私の大切な方……」


 言いながら、ミスティは自身の小指に嵌められた指輪を抱きしめるように、もう片方の手で優しく包み込む。

 その時だけ空気が柔らかくなり、向かい合うロベリアとライラックは自分達に呼吸を許されているような錯覚すら覚えた。


「私とあなた方では価値観が違いますから私の考えを押し付けようとは思いません、しかし、私が何を言っても彼を認められないという事であれば、私の目の届かないところでお願いしてもよいでしょうか? 私は……恩人を目の前で侮辱されて、涼しい顔をできるほど大人ではありませんので」


 指令をこなすため、ターゲットの情報を集めようという邪な考えは確かにあった。

 けど違う。

 同じ四大貴族として繋がろうとしただけだった。

 珍しい平民を庇護する秘密の遊びを共有したと思っただけだった。

 それが、それが……。

 まさかとは思う。まさかとは思うが本当に。

 アルムという平民には本当に――カエシウス家にここまで言わせる力があるという事なのか――?


「も、申し訳……ありません……」


 もう、春になるはずなのに空気が冷たい。

 後ろに氷の柱でも立てられているのかと思うほどに。

 自然と、謝罪の言葉がロベリアの口から出てきていた。


「あなた方の気持ちもわからなくはありません。常識や認識が変わることを認めがたい方も大勢いらっしゃるでしょうから」


 そう言って、二人の横をすり抜けてミスティは図書館の出口のほうに歩いていく。


「それでは私はこれで失礼致します」


 ルクスの時のように、その背中を呼び止めようとすることすら出来ない。


「いらっしゃらなかったですね……はぁ……」


 背中のほうから聞こえるミスティのため息すら、今の二人にとっては恐怖でしかないものだった。

 ミスティが去ってようやく、二人は動けるようになる。

 息苦しさからも解放されてロベリアは大きく息を吐いた。


「考えてみれば……相手が平民とか言っておきながらこんな風に情報を聞こうとしてるって……少なからず何かあるって思ってたようなもんじゃない」

「……そうかもしれませんね」


 頭が冷えたのか、自分達が指令をこなす為にと慎重になっていた事に気付く。

 入学前、ロベリアとライラックは四大貴族パルセトマ家の人間として、国王カルセシスから秘密裏に仕事を任されていた。魔法生命に襲撃されたベラルタの様子を報告する目として。

 そんな目として選ばれた二人に入学してすぐ、側近のラモーナから指令が下った。

 その指令は、アルムをガザスに行けなくなる程度の怪我を負わせる事。具体的には、治癒魔法ですぐ復帰できない状態にできればいいというものだった。

 普通ならばそんな怪我を負わせれば、二人に非難の目や疑いが向けられる事は避けられない。

 しかし、ベラルタ魔法学院の魔法儀式(リチュア)を使えばそんな怪我を負わせても過失で処理できる。魔法戦に熱くなって、というのはよくある事でもある。

 だからこそ、この指令は二人に下された。報告の為に渡されていた通信用の魔石もある(通信先は制限されている代物だが)ため、実行も早いと踏んでの事だろう。


「うちらしくなかったわ」

「接触しますか?」

「ええ、情報収集とかやめやめ。それに、ミスティ様があれだけ言うって……それだけで実力があるかの判断は充分でしょ。そりゃうちは家名主義だから認められないけど……認めるしかなさそうだし」


 四大貴族カエシウス家の次女ミスティにあそこまで言わせることこそ、アルムという平民が普通ではない証拠。これ以上は本当に、平民だから大したことない、と自分が思いたいがための蛇足になる。

 もうこれ以上情報は必要無いとロベリアは決意する。

 指令を果たせば、パルセトマ家が今以上に国王の信頼を……いや、家名ではなく、ロベリア・パルセトマとライラック・パルセトマの二人が個人として優れた魔法使いになると認められる近道になる。


「やるわよライラック」

「お兄様と呼んで欲しいですねぇ」


 ロベリアとライラック。

 パルセトマ家の為、そして自分の為。二人はアルムを狙うべく動く。

いつも読んでくださってありがとうございます。

長くてごめんなさい。分けられなかったんです……。こんな時もあると笑って許してくだせえ……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の感覚はだいぶ主人公サイドに寄ってしまってますが、普通の貴族の反応はまさに双子の通りなんですよね あり得ないという常識はとても強固なものですし、実力も秘匿されて知らないわけですし 仮に…
[良い点] ルクスとミスティ大人だなぁ 世界の常識である知識と、世界はその常識通りであるという経験を積んできたんでしょうね。この薄紫系人類達は。 常識から物事を判断するのは普通だし故に信じられないのも…
[気になる点] この双子達も、ルクスやフロリア達のようになっていのだろうか… というか、ネロエラは何処?。ネロエラ成分が足りなくなってきた…(笑)
感想一覧
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