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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第四部:天泣の雷光
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223.放埓の呟き

「伝令は日の出とともに王都に出発したまえ! 第一、第二寮それと病院付近に警備の憲兵を回せ! 人が足りない? 主要区域付近以外で増員した巡回を警備に回して対応したまえ」

「第三から第五までの寮はどうしましょう?」

「二年と三年は不在で寮長しかいない。人が足りないなら尚更警備を回す理由は無いから無視だ。学院内にある第六寮も同じく人を回す必要は無い」

「了解しました!」

「不審な人物、物はとにかく見逃すな! 魔法に伴う可能性のある光にも注意しろ! とにかく変化があれば情報を共有! 油断しないでくれたまえよ、敵はベラルタ内部にいる!」

「はい!」


 ベラルタの街に憲兵達を引き連れながら指示を下すオウグスの姿があった。生徒に被害が出た事で魔法使いの対応事案となった為、ベラルタでは憲兵の指揮権がオウグスに移ったのだ。

 全員が明かりを持ち、一塊になって歩く憲兵達の姿は暗雲と夜闇に対抗するかのようだった。指示が出るに連れてその明かりはベラルタの街に散り散りになっていく。


「こちらです!」


 憲兵達が散り散りになり、引き連れる憲兵も少なくなった頃。

 歩く通りの先で、手を振る憲兵と待機する二人の憲兵がいた。

 オウグス達はその場所に向かって足を速める。

 憲兵が指差す先には血の跡が生々しく残っていた。


「ここか」

「はい、病院付近を巡回していた憲兵がフロリア・マーマシーと名乗る生徒から報告を貰っております。被害を受けたベネッタ・ニードロスは病院で治療中との事です」

「この通りを巡回していた憲兵は?」


 オウグスが聞くとオウグスに報告していた憲兵の後ろから二人が前に出る。


「はっ! 自分達です!」

「変化は? 音、光、匂い、何でもいい」

「通りに壁がありました」

「壁?」

「はい、巡回していた所普段は壁の無い場所に壁が現れ……警戒していた所に馬車に乗ったフロリア殿とネロエラ殿が。フロリア殿とネロエラ殿が壁を越えていって少しした後にその壁は消えました。同じくその光景を見た馬車の御者も念の為待機させています」

「それ以外は? 戦闘の音は聞こえなかったのかい?」


 憲兵は首を横に振る。


「それが何も……」

「壁があった時間は?」

「正確にはわかりませんが、数分の短い間だったかと……」

「壁か……不自然さは残るけど潜むにも犯行の瞬間を隠すにも絶好の能力だねぇ……待てよ?」


 ふと、思い至る。


「ここ二日の子供の失踪事件、被害者の家族の証言が少し変だったね?」

「はい、二日前に失踪した九歳の男児の母親は家にいたはずなのにいつの間にか消えていたと、昨日失踪した七歳の女児も両親が就寝の挨拶後、部屋に戻っていったはずなのに、朝いなくなっていたと」

「考え過ぎかなぁ……?」


 壁と聞くと思い浮かぶのは地属性の魔法使いだが、まさか新しく作るだけでなくすでに作られた家の壁もどうこうできるのかと。だとすればいつの間にかという証言にも辻褄が合う。

 問題は……戦闘の音すら聞こえなかったという憲兵の話と、戦闘の跡が見えないこの現場。何故ここにあるのは凄惨さを見せつけるような血の跡だけなのか。

 嫌な予感がするといつもの余裕を持った表情は完全に消えた。


「……フロリア・マーマシーからの報告は?」

「怪我人を運んでいたので端的です。ですが、これだけ言えばオウグス殿ならわかると」

「言いたまえ」

「相手は怪物です、と」

「……っ。……そうかい、そういう事か」


 憲兵の指揮をしていなければ舌打ちをしていただろう。

 憲兵は平民。まだ情報公開がされていないがゆえにフロリアの報告が端的だったのだとすぐにわかってしまう。

 怪物。

 その意味が伝えるは魔法生命の存在。関わった関係者と一部の貴族にしか共有されていないマナリルの脅威。だとすれば、何を起こしたとしても不思議ではない。


「警戒度を上げるよぉ! 敵の魔法使いだけでなく、自立した魔法(・・・・・・)が入り込んだ可能性を頭に入れろ!」


 そんな事が有り得るのかと、驚く憲兵の問いすら許さないと言うかのように。


「危険を感じたらすぐに撤退! 出来ない場合は警笛をすぐに鳴らせ! いいかい? 今ベラルタには街に潜む事が出来るほど狡猾な【原初の巨神(ベルグリシ)】が入り込んだと思え!」


 去年ベラルタに訪れた危機。そして最大級の自立した魔法に例えて憲兵に危機を促す。

 何せオウグスでさえ魔法生命にはまだ出会った事が無い。

 どうかこの例えが、大袈裟であるようにとらしくない事を思いながら。


「引き続き、子供の捜索と子供の失踪についての調査は続けたまえ。今回の件と別件の可能性のほうが高いからね」

「わかりました」


 ベネッタが襲われた現場からも憲兵が指示された持ち場に散っていく。

 少なくとも、今夜憲兵達は眠る事が難しいだろう。


「それで……(わたくし)はどうしたほうがよろしいでしょうか?」


 憲兵が散って行った後、憲兵に混じってオウグスの手腕を観察していたマリツィアが声を上げる。

 マリツィアはダブラマと休戦になったとはいえ監視対象。夜はオウグスとヴァンのどちらかに監視されている。緊急事態に伴い、移動せざるを得なくなったオウグスが仕方なく付いてこさせていた。


「事態が事態だ。私とヴァンは君の監視を続けられる状態じゃなくなる可能性が高い。少なくとも今夜の君は好きに動けるだろうね」

「いいのですか? このままオウグス様に付いていくのも吝かではございませんが?」

「諸事情でね。私の血統魔法はマナリルの機密扱いだ。魔法を見せる可能性がある場合は人を付けてはいけない決まりがあってね。ダブラマの魔法使いである君なら尚更というやつさ」

「ちなみに、その魔法を覗き見するとどうなるんでしょう?」

「んふふふ! そうだねぇ、例外もあるけど、死んでもらうか……苦しんで死んでもらうかのどちらかになるねぇ」


 冗談のように聞こえるも、その中身が冗談じゃない事は一目瞭然だった。

 笑ってはいるものの、その表情は夜闇に似合う。


「まぁ恐い。それでは(わたくし)のようなか弱い魔法使いは退場するとしましょうか」


 その笑みを受けてマリツィアは芝居がかった声を上げる。わざとらしくスカートの裾を持ちあげながら一礼すると振り返ってオウグスに背を向けた。


「わかってはいると思うが……君が何かしたと判断した場合はわかっているね?」

「ええ勿論。(わたくし)の目的はただ一つ。一連の事件も(わたくし)の手によるものではありません。魔法生命の仕業であるならば情報のために過程を見送りたいと思ってはおりますものの……(わたくし)自身が何かするつもりなどございませんのでご安心を」


 信用されないとわかっている弁明をしつつ、マリツィアはどこかに向けて去って行く。


「少し、お節介を焼く事にはなるでしょうけど」


 オウグスには聞こえない距離まで来て、マリツィアはそう呟いた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

昨日はちょっと体調不良だったので更新無しでした。どこかで二回更新できるようにします。

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