表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第三部:初雪のフォークロア
219/1050

199.西部から届けます

 アルムとミスティの意識が途絶えた後、ノルドによってその場の貴族達に説明がなされた。

 カエシウス家はミレルでの一件を知らされており、マナリルがまだ魔法生命の存在を公にしたくないという事情を把握していた為、紅葉(もみじ)についての説明はこの場では省かれる事となる。

 結果、ミスティ・トランス・カエシウスが当主になる事をよしとせずにグレイシャ・トランス・カエシウスがクーデターを起こしていた事だけがノルドから語られた。

 ノルドは自分が娘であるグレイシャにいいように利用されて補佐貴族達に指示を出していた事、当主継承式を早く行ったのはここに貴族を集めて血統魔法で凍らせて人質にする為だった事などを赤裸々に話し、その場に居合わせた貴族達に謝罪する事になる。

 その後はクオルカ・オルリックの指示によって王都と連絡をとり、マキビからの情報ですでに近くまで駆け付けていた宮廷魔法使いファニア・アルキュロス率いる魔法使い部隊によってトランス城及びカエシウス家の面々、集まった貴族達、そして直接関わったアルム達は調査される事となった。

 アルム達は再び、マナリルで起きた魔法生命の事件に関わった重要参考人として、王都に拘束される事となるのだった。


 ノルドの口から語られたグレイシャのクーデターは敵国であるカンパトーレの魔法使いまで使って行われたという事ですぐにマナリル中の貴族達に伝わり、貴族界隈を震撼させる事となる。

 そしてもう一つ……ノルドの口から語られたもう一つの話が貴族界隈に広まる事となった。

 それはグレイシャを倒したアルムの存在。全てを見ていたノルドの口から、ミスティを守りながら戦ったアルムの勇猛さが語られ、そして城の氷が溶けた事で少し遅れて舞踏会場に駆け付けたルクス達に感謝の言葉が送られた。

 脅されていたとはいえ首謀者であるグレイシャの手助けをしていたノルドの言葉であった事、凍ったままでその場にいた貴族達にはその実感が無かった事、そしてやはり平民が自分達を差し置いて賛辞される事をよく思わない連中によって少し内容を薄められたものの、アルムの名前と平民がグレイシャのクーデターを止めたという事実だけは揺ぎ無く広まる事となる。

 その場にいた四大貴族の当主であるクオルカ・オルリックが後に噂について肯定した事もあって、数か月前にあった魔法学院に入った平民の噂は再熱し、アルムという平民の名前を今度こそ貴族達は記憶に残す事になるのだった。






「マリツィアです」


 マナリル西部パルセトマ領。

 牧草の香りと牛の鳴き声が聞こえる村で褐色に風に揺れる桃色の髪を持ち、白いワンピースを着た女性が一人で小屋の壁に背中を預けて立っていた。その女性は左手に三つ付けている指輪の内の一つに向けてマリツィアと名乗る。その指輪に付く宝石のセンターストーンはマナリルでは手に入りにくい通信用の魔石だった。


『はいよ。こちら"ルトゥーラ"』

「あら、ルトゥーラさん? "王様"はどうされました?」


 聞こえてきた男の声が待っていた声と違っていたからかマリツィアは首を傾げる。


『王は『女王陛下(クイーン)』を労いに行ってる。今は俺様が応対を任されてるんだよ』

(わたくし)としたことがタイミングを間違えてしまったようですわね……」

『うるせー、悪趣味女! とっとと報告しろや!』


 通信先の男の反応に、マリツィアは満足そうにくすくすと笑う。

 次の報告はもっといい反応をしてくれるだろうなと思いながら。


「グレイシャが敗れました」

『は?』

「敗れました。何回名前を呼んでも(わたくし)に変化が無いので、紅葉(もみじ)も一緒に死んだと思われます」

『誰がやった? 妹か?』

「それは帰ってから御確認下さいませ。恐らく(わたくし)が言っても信じて頂けないでしょうから。ミスティ様に贈った"記録用魔石"は事前にグレイシャに見抜かれて取り上げられてしまいましたが……グレイシャのティアラに付けておいた魔石はしっかりと相手の姿を映しておりましたから」


 そう、今言った所で信じるはずがない。

 自分も戦ったアルムという名前の平民。その平民がまさかグレイシャを倒してしまうなどと。

 マリツィアはアルムと別れた時のことを思い出す。敵の自分に褒められてありがとうなんて生真面目なのかどこか抜けているのか。面白い男の子だなと思った。

 ダブラマに戻った後、通信先の相手が今度はどんなリアクションをとってくれるのかも少しだけ気になっている。


『……なあ、お前ちゃんと魔石回収したんだろうな?』

「おほほ、あんな怪物の戦いの場所に赴くなんて(わたくし)にはとてもとても……」

『この……てんめえ……記録用がどんだけ貴重か……! まぁ、仕方ねえ……! グレイシャを倒せる奴の記録だ……まぁ……仕方ねえ……!』


 通信用に魔石からは仕方ないと言いつつも未練たらたらなのがわかるルトゥーラの声が聞こえてくる。その反応もマリツィアにとってはツボだったようで楽しそうに笑っていた。


「それでそちらは?」

『……協力者のおかげで『女王陛下(クイーン)』が速攻で出張って倒した。"メドゥーサ"って名乗る超絶美女だったが……中身は怪物だったぞ。目合せたら石になって死ぬとか何の冗談だありゃあ……『女王陛下(クイーン)』がいなかった町二つはあれにやられてる』

「『女王陛下(クイーン)』と目を合わせるのは実質不可能でしょうからね。協力者の方はどうなさっていますか?」

『早く自分の核を破壊しろってさ。あいつらに対して情報が少なすぎる今、そんな事できるわけないけどな。でも俺様達を殺す事に怯えてる』

「私達を殺す、でしょうか?」

『元々そういう生き物だったからいつそういう衝動が起きるかわかんないんだと。人間は好きだけど人間を殺す生き物だから早くやれって。それと……多分だが、お仲間にびびってる』

「お仲間に……」


 マリツィアの表情が真剣なものに変わる。

 グレイシャの計画にマリツィアが協力していた理由。それは未だ謎に包まれた魔法生命の存在を調べる為だった。元々マナリルは敵国の為どうでもよく、紅葉(もみじ)とその仲間から情報を引っ張り出す為にマリツィアはずっとマナリルとカンパトーレに滞在していたのである。


『その様子……掴めたのか?』


 マリツィアの様子を察したのかルトゥーラも真剣な声色だった。


「掴めたというほど正確な情報ではございませんが……やはり、あの魔法生命達は私達を滅ぼす気ではありますが、私達の国を滅ぼすのが目的ではありません。間違いなく別の目的がございます」

『じゃああの"メドゥーサ"とかいう女が攻めてきたのもその前準備か?』

「それはわかりませんが……カンパトーレに滞在した時、紅葉(もみじ)が"大嶽(おおたけ)"と呼ばれていた魔法生命の宿主としていた会話を耳にしました」

「おーい! 嬢ちゃん!」


 会話がまだ途中という時、マリツィアはその声のするほうに目をやる。

 声の方に目を向けると、がっしりとした体つきの中年の男がマリツィアに向かって大きく手を振っていた。中年の男の傍らには立派な馬と馬車がある。


「ありがとうございます! おじ様!」

「なーに! こっちこそ何日も牛たちの世話手伝って貰って助かった! 長旅になるんだろう!? 馬車に干し肉やらチーズやらのっけたから気が向いたら食っとくれー!」

「まぁ! 本当ですの? 道中ありがたく頂きますわ!」


 中年の男のほうに歩きながら、マリツィアは気付かれないように口に手を当てる振りをしながら、通信相手のルトゥーラに手に入れた情報を手短に話す。


「不可解なワードはダブラマに"アポピス"。マナリルに"大蛇(おろち)"。どちらの名称も詳細は不明ですが……もしかすれば、マナリルと争っている場合では無いのかもしれません」


 通信は終わった。

 マリツィア・リオネッタは今回の事件の顛末を見届けて、祖国ダブラマに帰還する。

いつも読んでくださってありがとうございます。

第三部本編は後二話となります。本編後は要望があった魔法の設定と後日談的な番外をいくつか書こうと思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アルムの功績がやっと世に知れ渡って来ましたね。 それによってまた色々波乱が起きそうな予感がします。 今回の話しで少しカンパトーレ側の事が見えてきました。 ここまで、色々敵対している国や組織…
[一言] カンパトーレとの共闘戦闘ルートくるのか? でも、一時的に呑み込むことはできても、「こっちを襲撃してきた落とし前はちゃんとつけろやオルァ」という人も一定の割合ではいそうよね。 魔法生物は東洋…
[一言] 今回の件でノルドもアルムを認めるだろうし ミスティとアルムの仲を阻む物はアルムの鈍感力だけだなw 肝心のアルム強敵っていう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ