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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第三部:初雪のフォークロア
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幕間 -人ならざる者-

 祈りから生まれた私は人として、何より優れた人として振舞った。

 仲睦まじい夫婦の下に降り立ち、愛らしくそして健やかに育った。玉のように美しい容姿は言うに及ばない。

 笛を持てば小鳥達の囀りすら霞み、琴を爪弾けば人の心を揺蕩わせ、舞い踊れば花のように、私に虜にならない者などいはしない。

 (わらべ)には字も教え、村人が怪我すれば薬草を用いて人を救い、病気となれば祈りを捧げる。

 人よりも人として、どんな者よりも高みにいたと私は自負する。どんな地で暮らそうとも敬われ、愛される自信があった。


 だが――その私が何故、追放されなければならなかった?


 栄華を誇った都での暮らし。

 私に相応しい地。相応しい地で暮らす私。

 当然の結果だった。私はどんな者よりも人らしく、人として優れていたのだから。

 だというのに……都の将すら琴の音で魅了したこの私が、何故正室を呪ったくらい(・・・・・・)で追放されなければならなかった?

 人は人を蔑むでしょう。

 人は人を恨むでしょう。

 人は人を殺すでしょう。

 人は――人を呪うでしょう。

 それが人だ。人という生き物だ。そうでないとは言わせない。貴様らの害心があったからこそ――私達"鬼"は魔から地に降り立ったのだから――!

 私達の存在こそが人間という生き物その証明。

 私の何が人ではなかった?

 人のするように騙し、殺し、呪った。ただそれだけだ。

 正室には私が相応しかっただけの事だ。正室にはあの女が相応しくなかっただけの事だ。

 優れた者が頂点に。それが生物の自明の理。

 人ならざる者にして最も人らしく、そして優れていた私こそがあの場所に相応しかったはずなのに。


 何故許されない? 人ならざる者というだけで。

 何故許される? 人であるというだけで。

 私はただ人という生き物らしく振舞っただけなのに、何故この私が追放されなければならなかった?

 私こそ最も都で暮らすに相応しい、人間だったというのに……ただ人でなかったというだけで!!


 ……眠りを経て、再び私は人の地に降り立った。

 魔を常とする異界。誰の仕業か神在らざる地。

 ここで再び私は私に相応しい都を求めよう。

 ここで出会いし、私の友。私の横に立つに相応しい人間と共に。

 今度こそ作ろう――理想の世界を!

 今度こそ! この地を都に変えてみせよう!

 今度こそ……今度こそ! 鬼無き里になどさせてなるものか――!


 ああ、グレイシャ。私に似た人。

 ああ、グレイシャ。私と同じ道を歩む者。

 かつて呼ばれた姫の名など惜しくはない。この地の王には我が友こそが相応しい。

 私達は共に生き方を穢された者。相応しくない者に生き方を踏みにじられた者。

 泡沫の夢?

 水面の月?

 笑うもよかろう。それもまた人間。

 だが、覚えておくといい――際限無き高みを目指すのもまた人間なのだ。

 私は変わるこの地と共に傍らで見よう。高みを目指す友の姿を。

 背中を私に重ね、かつての栄華を胸に抱き、この地で再び未来を目指す。


 我が名は"紅葉(もみじ)"。人の祈りによって生まれた第六天の鬼。人の隣に在りて人ならざる者。

 殺しましょう、不可能だと笑う者を。呪いましょう、未練だと阻む者を。

 国をここに。都をここに。私達に相応しい世界を此処に!

 私は私の過去と未来の為に必ず――グレイシャ(わがとも)を、この地の王にする――!

恒例の幕間をもってここで一区切りとなります。

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― 新着の感想 ―
ん?神在らざる地…?まさか
[良い点] 前々から思ってましたが、常世側は平安な感じですね。 百足といい、鬼女紅葉といい。 その内酒呑童子とか茨木童子とか鵺とか出てくるんですかね?(笑) なんというかファンタジーにこれらが出てくる…
[一言] 200話突破おめでとうございます。 この小説は部ごとに一気読みしているんですが気になって結構チラ見しちゃってます。 最近何故かアルムとアスタで名前ごっちゃになってる時があります。多分別のなろ…
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