幕間 -個の命題-
魔法の原初は可能と不可能への挑戦だった。
不可能を可能に。
可能を不可能に。
世界が生み出した理に触れる。それが魔法の始まりだという。
曰く、火が不可能にしたのは、"生命の不死"。
曰く、地が可能にしたのは、"無との共生"。
曰く、水が不可能にしたのは、"大海の踏破"。
曰く、信仰が可能にしたのは、"言語の統一"。
曰く、光が不可能としたのは、"天体の観測"。
まだ血統魔法という名前すら無い頃、属性を確立させた魔法の創始者達は自身の魔法を世界に自立した魔法として残している。
私にはそのどれもが理解できない。何故可能にしたのか、何故不可能にしたのか。
私だけではない。後世の人間がいくら予想をしたところで答えに辿り着けるはずがない。彼らはもうとっくの昔に亡くなっていて、その真意に触れているのは今も残る自立した魔法だけなのだから。
しかし、何故目指したのかは私にも理解できる。
彼らはきっと探していたのだ、自分と言う個の命題を。
彼らはきっと知っていたのだ、自分が夢見る幻想を。
魔法の原初とはただの方法に過ぎない。彼らは魔法を追及して創始者となったわけではない。自分が目指すべき場所を目指した結果、魔法という新たな理を完成させる必要があっただけの事。
魔法使いとは本来、自身の在り方を損なわない者の事を指すのだと先人は私に教えてくれた。
傲慢だと笑うだろうか。美しくありたいと願う事を。
幻想だと笑うだろうか。歴史に埋もれた王国の再建を。
矮小だと笑うだろうか。……神に愛された妹を超えたいと思う事を。
そのどれもが私が私らしく在る為の、私が目指すべき個の命題。
全てを叶える為ならば私は生まれた国すら敵に回しましょう。同じ血の通う家族すらその手にかけましょう。未知の存在とも手を組みましょう。
躊躇い?
そんなものあるわけがない。
この国が在るだけで私は悲しい。
妹が生きているだけで私は苦しい。
悲しみも苦しみも――取り除こうと、乗り越えようとするのは人として当然の事。
悲しみに立ち向かう事を無駄だと笑う?
苦しみを取り除こうとする事を悪と蔑む?
誰にもそんな権利はありはしない。誰も私を止められない。
理想で終わる不可能を私は見事叶えてみせよう。
私の名はグレイシャ・トランス・カエシウス。
氷を統べるラフマーヌの新たな王にしてカエシウスの名を冠する者。
美しく在る為に、古き王国の王として君臨する為に。そして――ミスティを殺す為だけに、私は今日まで生きてきた。
ここで一区切りとなります。
読んでくださっている皆さんのおかげで第三部もついに終盤に突入します。
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