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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第三部:初雪のフォークロア
188/1050

171.開幕7

「ちょっと……ミスティ様見てなくていいの? そろそろ」

「わ、私も不安ではあるが……」


 ルクス達は一足先にトランス城から少し離れて送迎の馬車が並んだ門の前の広間へ。

 そこにフロリアを連れたネロエラが到着する。フロリアの手を引きながら口元を扇で隠し続けていて見ていて少し忙しい。

 広間にはいつからか降っていた雪が舞っており、先程広間で待っていた時よりも空気が冷たくなっていた。この様子なら明日にはスノラ一帯が雪化粧で白く染まるだろう。


「来た来た」

「ねぇ、どういう事なの? もうカエシウス家の方々が踊り始めてるわよ? フロアに二人だけの状況になる今こそ見ておかないと」


 当主継承式は予定通りに進行している。開場からオープニングを終え、カエシウス家も滞りなく入場し、先程までフロリアや他の貴族達が踊っていたフリーの時間も終わって今は主役であるカエシウス家が踊る時間だ。

 会場内では参加者が踊っていた時と曲がすでに変わっていて、今はノルドとグレイシャが会場内の視線を集めて踊っている。


「他の補佐貴族が感知魔法で見張ってくれているから大丈夫さ。それに……多分、意味が無い」

「意味が無いって……」

「とにかく。ルクス、揃ったんだから説明お願い。私だってルクスに言われなきゃ会場にいてミスティを見ていてあげるべきだと思うもの」

「うん、ボクもわからないというか……こんなとこいていいの?」

「僕の予想が合ってたら……むしろ会場にはいないほうがいい」

「なんで?」

「順を追って話すよ。ただこれは僕の推測が混じる。重要な部分がわかってるわけじゃないし、過程も違うかもしれないが……それでも今の状況からそう離れてはいないと思ってる」


 自信の無さそうな前置きを言ってはいるもの、自分の推測に何らかの確信があるようで危機感が表情に表れている。


「まず……僕達はもっと考えるべきだったかもしれない。何故当主継承式が行われるかを」

「何故って言われても……」

「カエシウス家は何故ミスティ殿が在学中に当主継承式をやろうと思ったんだろうか?」


 ルクスから問いが投げかけられる。


「私はやっぱりミレルの一件が大きいと思ったかしら。ほら、魔法使いの必要性って場所にとっては実感しにくい平民もいるじゃない? けど、ミレルの一件で少し不安になる人も出てきたと思う。でも解決した当事者のミスティがトップになったと知れば北部の平民は安心するだろうから」

「私とネロエラはカンパトーレへの威嚇だって話してたよね」

「あ、ああ……他国の動きが活発になる気配があるからそれを牽制する為かと……」

「ボクは強いミスティを早めにトップにしてカエシウス家の権威を上げる為だと思ってたけどー……」


 ルクスの問いに各々の考えを口にする。

 問いかけたルクスもさっきまではエルミラ達四人と同じような考えだと思っていた。


「皆が言うように平民へのアピール、他国への威嚇、カエシウス家の権威……どれをとっても納得できる答えだし、悪い言い方をすれば全てそれっぽい答えだ。誰が耳にしても妥当のように聞こえる。どの意見も明確に否定できるわけじゃないし、肯定できるわけでもない」

「どれも違うって事ー?」

「僕はそう思ってる」


 ルクスは頷く。推測を基に話しているとは思えないほど力強く。


「違う質問をしよう」

「ちょっと――」

「ミスティ殿を含めた多くの貴族を……手っ取り早く集める方法は何だろう?」


 ルクスが思う何故当主継承式が行われたかという理由をルクスは問い掛けにして口にした。

 言われて、四人は固まった。少し回りくどいと口を開きかけたエルミラも。


「ま、待ってくれ……ルクス・オルリック……」

「なんだいネロエラ」

「ま、まさか今回の継承式はただ貴族を集める為だけに開かれたと言いたいのか?」


 口を隠した扇の裏から信じられないと言いたげなネロエラの震えた声が聞こえてくる。


「あくまで最悪を考えた推測だよ。確証があるわけじゃない。今まで起きた一連の出来事を悪い意味でつなぎ続けて、さっきノルド様と話した時に浮かび上がった考えだ。ただ後ろ向きな妄想だと言われても反論はできない」

「つまり、当たってるなら最悪なわけだ……」


 エルミラは忌々しそうに呟く。

 重ねて推測だと前置くルクスだが、ルクス自身本当にそんなわけないと思ってるならこんな風に集めて話すはずがない。ある程度ルクス本人は有り得ると思うに値する話という事だ。


「ちなみにフロリア、北部に残ってた補佐貴族の動きとかはわかるかい?」

「えっと……北部に残る補佐貴族同士で家に招いたり、誰がミスティ様を狙っているのか探ろうと手紙を送り合うのを繰り返していたらしいよ。普段ほとんど交流しない家でも手紙のやり取りがあったくらいで、大きな動きは何もないって話だけど……」

「だろうね。北部にいる補佐貴族達はそうするくらいしか出来ない。下手に動けば他の家から疑いの目を向けられて密告をされるリスクが高い。例え犯人じゃなくてもカエシウス家から睨まれるなんて補佐貴族からすればデメリットにも程がある。だから誰も動かずに手紙を送り合ってた……それしかできなかった。

動きらしい動きが出来るのはベラルタに子供が通っている七家くらい。その中でもトラスメギア家とチオン家は王都に出向中だったから動けない。そしてニードロス家のベネッタくんは知らされてすらいなかったから実質四家……いや、多分ペントラ家も知らされてなかったと考えたほうがいいかな。実際に動いていたのは。マーマシー家、タンズーク家、クトラメル家の三つ……それだけで大きな動きが起きるわけがないから王都から腕利きが飛んでくる事態にもまずならない」

「どういう……意味?」

「何故ドース・ペントラとコリンがいないのかまで僕もわからないけど……ミスティ殿が狙われてるっていう伝令が補佐貴族にいった理由は単純だ。ただ……補佐貴族の目をカエシウス家に向けられたくなかった。ただそれだけだった」


 ルクスの言葉に衝撃を受けていたのはネロエラとフロリアだった。数日前にはカエシウス家と自分達の家の為にベネッタの命すらも狙った二人。

 カエシウス家の伝令に従って帰郷期間の時からミスティがベラルタの町を出るまでの二か月近い間……学院にいる補佐貴族の家の者を見張り、動きを調査し、ミスティに手が及ばないように時間を割き続けた。


「何を……言ってる……?」

「だから君達は消去法で断定する事しかできなかった……いや、そうする道しか無かったんだ。調べても確固たる証拠が出るはずもない。……だって、ミスティ殿を狙ってる家なんて無かったんだから」


 その時間が全て無駄。

 犯人などいるはずがなかったのだと、ルクスは語る。


「ま、待ってよ……あなたは伝令に使われた書状を見てないから補佐貴族達に届いた伝令が何者かの偽装だったと言いたいのかもしれないけど……私達に来たのは間違いなくカエシウス家からの伝令だったよ。私達だって馬鹿じゃないもの。ネロエラも言ったけど、マーマシー家だってシーリングスタンプを確認して筆跡の確認もした。間違いなくカエシウス家の伝令だったよあれは」


 フロリアが言うも、ルクスの表情は変わらない。


「うん、そこは疑ってないよ。君達の家が確認したんなら間違いなく補佐貴族達に送られた書状はカエシウス家からのものだったんだろう」

「だ、だったらあなたの話はおかしいわよ。そんな意味のない伝令を補佐貴族全員に送って何の意味があるっていうの?」


 ルクスの言葉を聞いて、何かに気付いたようにベネッタの顔が青褪める。

 会場から出た外の空気は冷たかった。それでも決して、ベネッタが青褪めたのは寒さのせいなどではない。


「ねぇ、ルクスくんの話だと……まるでカエシウス家が何かしようとしてるみたいに聞こえるんだけどー……」


 当主継承式はただ貴族を集める為。

 補佐貴族への伝令が補佐貴族の目をカエシウス家から逸らす為。

 ルクスが話したこの二つの話が事実だとすれば、カエシウスが裏で何かをしようとしているとしか思えない。


「そうだよ」

「……え?」

「恐らくだが……カエシウス家はすでに掌握されている」

「は!?」


 信じられないとエルミラが声を上げる。

 それはルクスも同じだった。マナリル一の貴族カエシウス家がすでに何者かに掌握されているなどと誰だって信じたくない。

 

「自分だって半信半疑だ。けど、さっきのノルド様の安心した顔がどうしても離れない」


 先程のノルドとの会話。

 あれさえ無ければルクスもこんな考えにはならなかった。

 平民だからとアルムを会場に入れないような固い頭の持ち主だったとしたら、何故嫌味を込めて当てつけのように言った若造の言葉に何の反応を示さない?

 そして何より、何故安心した? 平民がここにいようといまいと……本来ならどちらでもいいはずなのに。


「確証は無い。けれど……ノルド様が平民だからという理由でアルムを追い出すような人間では無いと仮定した時、ミスティ殿のような貴族としての責務を重視する立派な人間であると仮定した時……アルムを追い出した意味は大きく変わってくる」

「……ここから逃がした?」


 エルミラの呟きにルクスは頷く。


「それが僕がカエシウス家が掌握されていると考えたきっかけだ。平民だからと理由を付けてアルムを逃がしたのだとしたら、逃がす理由は何だ? そう考えた時、カエシウス家はすでに掌握されているとしか思えなかった。そして掌握されていると仮定した場合……今までの僕の被害妄想のような悪い推測は現実味を帯びてしまう」

「カエシウス家を利用して何かしようとしてる勢力が……当主継承式を開かせた?」

「そ、それは確かに最悪ね……」

「違う」


 フロリアはルクスが仮定した状況を最悪だと評するが、ルクスはそれを否定する。


「それだけならまだ最悪じゃない」

お待たせしました。まさか二日更新できないとは思えず……。

明日明後日は普通に更新できますのでよろしければお待ちください。明後日の更新で一区切りとなります。

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― 新着の感想 ―
もしかしてルクスくんは小説家になろうを読んでたりしますか? そうでなければ有能すぎるだろ最高だな
[良い点] ルクス君がいなければ皆大変な事になってましたね。 序盤で主人公に突っかかる親友枠の彼。 主人公やれるんじゃ無いかな? と、思い始めました(笑) どうしても貴族主体になるとアルムの影が薄くな…
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