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【書籍化】白の平民魔法使い【完結】   作者: らむなべ
第二部:二人の平民
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117.攻略会議

「とはいえ大百足の動きを踏まえたとしても問題が四つある」

「結構あるわね」

「【原初の巨神(ベルグリシ)】の時は本当に状況が噛み合ってたんだ」


 言いながらアルムは指を一本立てる。


「一つは単純に時間だ。あの虫はでかい、というより長すぎる(・・・・)

俺の魔法は威力を上げるのに時間がかかる。皆と違って変換の効率が悪いのを色々やって補ってるからな。【原初の巨神(ベルグリシ)】は突っ込んでくるだけだったから何とかなったが、今回は明確に攻撃してくる。俺が魔法を構築する時間が欲しい」

「時間稼ぎ……誰がやるかよね」


 一瞬、しん、と部屋が静まり返る。

 あの大百足を相手に時間稼ぎなど誰が志願できようか。【原初の巨神(ベルグリシ)】に立ち向かったアルムもそうだが、あのクラスの魔法に真正面からぶつかるのはほとんど自殺志願に近い。

 そう誰もがが思った矢先、


「私ですね」


 一番にミスティが名乗りを上げた。


「ミスティ……」

「私の血統魔法なら広範囲をカバーできますし、機動力もこの中では高いほうですから時間稼ぎには適任かと。

それに魔法には自信がありますからね」


 誰もが一瞬躊躇った中、ミスティは当然のようにそう言ってのけた。

 魔法に自信があるのは当然。

 自身で言うように、確かに時間稼ぎとして最も相応しいのかもしれない。

 だが、それでもあの大百足と戦う事を一番に選べるのは、ミスティという強い精神力を持った少女だからこそだった。


「いいのか? 一番危険な役目だと思う」

「そうですか? あくまで時間稼ぎですから死に物狂いで倒さなければいけないというわけでもありませんし……逃げながら戦えば何とかなると思いますわ……それに」


 ミスティは横のアルムを見る。

 アルムもミスティを見ていて、二人の目は自然と合った。


「アルムが倒してくださるんでしょう?」

「ああ、任せろ」

「ならお任せしますわ。こちらはお任せください」


 互いの言葉に一切の淀みも無い。

 聞く方が聞く方なら答える方も答える方。

 軽く交わしたように見えるその約束は二人にとって本気そのものだった。

 そんな二人を見て、がしがしと髪をかきながら心底嫌そうにため息をつくヴァン。

 そして、座り込んでいたシラツユが立ち上がった。


「やりたくはないが……時間稼ぎなら俺もだな。一番機動力があるから色々カバーしやすいだろう」

「私も……! 一度負けていて頼り無いかもしれませんが……白い龍であの百足を誘導しやすくなるかもしれません……!」

「大丈夫か、シラツユ」

「はい……! やらせてください……!」


 シラツユのその目には自死を懇願していた絶望は無かった。

 心を泥の中から掬い上げられ、今度こそと決意に満ちた表情でシラツユはアルムの声に応える。

 シラツユの様子を見て頷くと、アルムは二本目の指を立てた。


「そこで二つ目。これはさっき言った湖から引き離す必要があるって話だ。やつは霊脈と繋がってる。霊脈に繋がってるって事は一度に汲み上げられる量が限られているにしてもほとんど魔力が無限に近いって事だ。

原初の巨神(ベルグリシ)】の時もそうだったが、自立した魔法は魔力があれば核があってもなくてもある程度再生できる。

流石に無限の魔力を持ってるやつと勝負は出来ない。俺の魔法は一度撃ったら体がぼろぼろになる。二撃目は撃てないから確実に決める為にも霊脈に繋がっている状態は何とかしたい」

「あー……あの状態になっちゃうんだ……」


 ベネッタは【原初の巨神(ベルグリシ)】襲撃後、アルムの体を治していた時の事を思い出す。

 ぼろぼろで服の下が血塗れの姿は自分が撃った魔法の反動とは思えないほどの怪我だった。

 連日、治癒魔法をかけたのは記憶に新しい。

 今回も頑張ろう、とベネッタの中で妙な決意が生まれたのだった。


「それは僕がやろう。やつの言う接続がどんな状態かはわからないけど……いざとなれば霊脈部分ごと【雷光の巨人(アルビオン)】で破壊する」

「私もいくわ。さっきの戦いじゃ出てこなかったけど、あいつには仲間の魔法使いがいる。

マキビとヴァレノが多分あそこを守ってるでしょ。なら最低でも一対一に持ち込んで勝ちに行かないと」


 名乗りを上げたのはルクスとエルミラ。

 どちらも破壊力のある魔法を持つ二人な上にすでに敵の魔法使いとも遭遇している二人だった。

 

「そうか、二人はあいつの仲間とも会ってるのか。ヴァレノってのはどんなやつなんだ?」

「転移魔法を使う。属性は多分闇だね」

「……転移魔法か。珍しいな」

「興味持たないの」

「すまん」


 見透かされ、高速で謝るアルム。

 エルミラの言う通り、敵の魔法使いの魔法に興味を持っている場合ではない。


「確かに護衛以外にやる事もないから霊脈を守ってると見て間違いないか……ならマキビだけじゃなく、もう一人とも遭遇してる二人が適任だな。ルクス、エルミラ、任せた」

「任された」

「マキビには一回逃げられてるしね。決着つけましょ」


 ルクスとエルミラは互いの顔を見合って小さく笑う。

 友人だからというだけでなく、背中を任せるに相応しい相手だと互いが思ってるからこそだ。


「ルクスとエルミラが霊脈の方に行くなら百足を誘導する俺達は迅速さが求められる。

だが、百足が必ず俺達の策に乗ってくるとは限らない。霊脈に関しては状況に応じて俺とミスティ、そんでシラツユが破壊しにいく展開も視野に入れるぞ」

「責任は重々わかっておりますわ」

「はい!」


 ヴァンの声にミスティとシラツユは頷く。

 アルムは三本目の指を立てた。


「三つ目。これは俺の問題というよりはミレルの問題だ。ミレルの人達の避難誘導。

今ミレルの人達は町の外、少なくともミレル湖から一番遠い居住区まで逃げてるはずだ。だが、ただ逃げろとだけ言われて逃げてると精神的にきつい。いつまで追われるかわからない立場ってのは辛い。

不安で町に戻ってこないとも限らない。ミレルの人達には悪いが、町を戦場にせざるを得ないからそうならない為にも円滑に誘導する誰かが必要だ」

「当然俺だな」


 当然、これにはラーディスが名乗りを挙げた。

 ミレルの領主の息子。

 住民からの支持も厚く、間違いなく適任だ。


「ああ、ラーディスは町の人達からの信頼がある。一緒に避難するだけでも住民達の不安を取り除けるだろう」

「だが、如何せん人数が多いし、万が一に備えて一塊で逃げるのは避けたい。せめて二手に分かれて逃げたいぞ」


 ラーディスがそう言うと、おずおずと手を挙げる人物が一人。


「ボク、かな……? 戦闘じゃ役に立たないからそれぐらいしかできないと思う」

「そんな不安そうな貴族が来たらもっと不安がるんじゃない?」

「うっ……! そう言われると……」


 エルミラに言われてぐうの音も出ないベネッタ。

 だが、一人真剣な眼差しでベネッタを見ている男がいた。


「いや、僕はむしろベネッタくんが適任だと思う」

「え? る、る、ルクスくん……?」


 思わぬ人物からの援護にベネッタの声が少しどもる。

 しかし、ルクスの表情は至って真剣だった。


「町中の人達があの湖畔から逃げたんだ。全員無傷だなんて事は絶対にない。逃げる時に慌てて怪我してる人だっているはずだ。そんな中で怪我を治せる人がいるってのは僕達が思ってるよりはるかに安心できる材料だと思う。

足を怪我している人を治せば全体が逃げるスピードだって上がる。戦うだけの僕達よりはるかに適任じゃないかな」

「確かに。目の前で怪我治せるってのは大きいわよね」


 この中で信仰属性は二人。ベネッタとシラツユだけだ。

 シラツユが大百足の相手をして時間稼ぎするならば、必然ミレルの人々に治癒を施せるのはベネッタ一人となる。

 ルクスは自信の無いベネッタを後押ししたわけではない。

 今不安を抱えているミレルの人々の状況を考えた時、本当にベネッタが適任だと

思ったのだった。


「ベネッタ、頼めるか?」


 真っ直ぐなアルムの視線。

 そこにはルクス同様、仕方なくなんて気持ちは一欠けらだって無い。

 友人が信頼を置いてくれている。

 それは何より、ベネッタにとって嬉しかった。


「ベネッタ、もっと自信持ちなさい。そんなんじゃ逆にミレルの人らに励まされかねないわよ?」


 にっ、と口角を指で上げ、ベネッタに笑うよう見せるエルミラ。

 自信が急にわき上がったわけではない。

 だが、友人の期待に応えられずにここにいる意味は多分ない。

 ベネッタはエルミラに習うように自分の口角を指で無理矢理上げ、先程まで浮かべていた弱気な表情をどこかへ捨て去った。


「任せて、アルムくん」

「任せたぞ、ベネッタ」

「うん」


 今度は自然に笑うことができた。

 そして、アルムは四本目の指を立てる。


「そして四つ目だが――」


 ラーディスの部屋で行われていた作戦会議。

 この時話した全員の役割を果たす為、夜明けとともにアルム達はミレルの町へ散っていったのだった。

いつも読んでくださりありがとうございます。

今回のアルム達の動きと、大百足がミレル湖にいる状態でアルムの魔法を撃ちこめなかったのはこういった理由があったというお話でした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 助詞、副詞、かかりの使い方を丁寧に。折角面白いお話なのに、読んでいてひっかかるところが多いように思います、。
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