白の平民魔法使い再書籍化記念ss「五人の会話」
時系列は八部と九部の間。
二年生から三年生になる少し前のお話。
「何か冬と春の合間ってさ……だるくない?」
「どしたの急にー?」
「あったかくなるのか寒いのかどっちつかずな感じがするじゃない?」
そんなことを言いながらミスティの家にあるソファを占領する不届き者。
制服姿でだらける姿は果たして恋人ルクスに見られてもいいか微妙なところだ。
ダブラマでの決戦が記憶に新しい中、アルム達は二年生の登校期間を終えて、たむろ場にしているミスティの家に集まって話している。
進路とかではなく、普段と同じどうでもいい世間話に花を咲かせていた。
花を咲かすというより雑草が生えるに近いどうでもよさだ。
「私はそもそも寒いのがそれなりに得意ですから思ったことがありませんね」
「何着るとか考えるの面倒にならない?」
「貴族たる者、気温ではなくその場に合わせた服装で参じますから」
ミスティはそんなことを言いながら首を傾げる。
季節と季節の間の気温の変化という共通だと思っていた話題に首を傾げられたのが衝撃だったのか、エルミラとベネッタは慄いた。
「今、あんたとの間に改めて格差を感じたわ……!」
「お嬢様だー……!」
「お二人共? 貴族ならば当然なんですよ?」
女性貴族であればドレスを着るのが基本。
外や会場が寒かろうが暑かろうが変わらない。
「ボクは外行きのドレスとかほとんど着たことないからなー、ミスティのとこでやった当主継承式の時とかは着せてもらったけどー……」
「今は杖ついてるからなおさらよね」
「でもちょっとはわかるんだよー。アルムくん達が今こっちに帰ってきてるとか」
「逆にこわ。見えないものが見えてるじゃない」
「それがボクの新しい目なのだー!」
ダブラマとの決戦で目を失ったベネッタはまぶたを閉じながらピースサイン。
そのまぶたの裏には血統魔法による魔法の目が生み出されており、人間の眼球でとは少し違う視界が映っている。
――それは不可能とされた魔法による臓器の生成なのでは?
魔法業界に革命をもたらす技術を成功させていることにベネッタは気付かない。
「じゃあ私が何やってるかもわかる?」
「わかるよー」
「ほーう?」
ベネッタの前にエルミラがしゃがみこむ。
「行くわよ。ベネッタのばーか」
「耳は正常ですけどー!?」
「ああ、口パクするつもりだったのについ声が出ちゃったわ。」
「棒読み! おちょくってるねー!?」
「ソンナコトナイワヨー」
からかわれて不服なのか、ベネッタは杖をぶんぶんとエルミラに振り下ろす。
しかし、エルミラはそれを華麗に躱して雑に拍手を送り続けた。
身体能力はエルミラのほうが遥かに上なので、ベネッタには捉えられない。
「エルミラの馬鹿ー! ミスティ! いじめられたー!」
「よしよし、私の胸にどうぞ」
ミスティが手を大きく広げると、ベネッタの涙が引っ込む。
「うーん……ミスティの胸かー……」
「何でがっかりしました?」
「ぶふっ! あっはっはっはっは!!」
「エルミラ? 笑い過ぎでは?」
共に死地を乗り切った三人の間に遠慮などというものは存在しない。
一年生の時にかろうじてあった初々しさは一体どこへやら。今となっては懐かしいものである。
それはそれとしてミスティは容赦なく、二人の頭に拳を振り下ろした。
ベネッタのへなちょこ杖とは違って、空を切る鋭い拳が炸裂する。
「全く……人の好意を無下にするのは褒められたものではありませんよ」
「ミスティごめんなさいー……」
「あなたは笑い過ぎですエルミラ」
「アルムがいれば殴られなかったのに……」
エルミラとベネッタは頭にこぶを作りながらソファに座らされる。
この場所はミスティの家……自由な二人も主には逆らえない。
「ただいま。俺が何だって?」
「何でエルミラとベネッタはそんなに姿勢がいいんだい?」
鍵を開けていた扉が開いて、遅れてアルムとルクスが到着する。
二人の持っている袋には、ミスティの家になかった茶菓子が入っていた。
買い物に同行していたミスティの使用人であるラナは、二人の後ろを小走りしながらキッチンのほうへと向かっていった。
「申し訳ありませんミスティ様……! この失態、ラナは腕一本で――」
「料理できなくなっちゃうからやめて?」
「そうでした! すぐにご用意いたしますので!」
ルクスはエルミラの隣に、アルムはミスティが空けたソファのスペースに座る。
自然と、というよりもほとんど定位置になっているので茶化すこともない。
「今、ちょっと話してたのよ」
「エ、エルミラ!?」
「春と冬の間ってどっちつかずで服とか面倒じゃない? ってさ」
「ああ、そっちですか……」
確かに最初はそういう話だった、とミスティは安堵する。
エルミラがこっちを見てにやついているのを見るに、わざとだ。
頭に落ちてきた拳骨の仕返しといったところだろう。
「そっちって?」
「い、いえ! お気になさらず!」
基本的には五人だが、女子だけでしか話せない話題も当然ある。
アルムとルクスが帰ってきた今、先程の話を掘り返すのは羞恥が勝った。
「服か……うーん、あんまり……。その場に合わせたものを着るからなあ」
「うわ、ミスティと言ってること一緒。流石同じ四大貴族」
「ミスティ殿と比べると流石にだけど……それでも、着心地のいい服を優先したりはするかな。ドレスじゃないからね」
「そっか、男の人はちょっと余裕があるんだねー」
「うん、ドレスじゃないからね。アルムは……」
四人の視線が集まる中、アルムはおもむろに自分の着る制服に手をかける。
「これが……一番、着心地のいい服だからわからん……」
「ま、まぁ、あんたはそうよね……」
「そっか! そうだったー!」
「学院の制服は僕達にとっても高価なものではあるから……」
アルムは平民。制服以上の服など持っているはずもない。
ベラルタ魔法学院の制服はそれはもう上等な品質なのだ。
本来、どっかの誰かが毎回血塗れのボロボロにして駄目にしない限りは一生ものの服である。
冬と春の間の話は、ラナが並べた茶菓子と新しい紅茶を淹れてきてくれたことによって何となく終わっていった。友人との雑談は大体そんな風に結論とかどうでもよく終わっていくことも多い。
他の三人が別の話で盛り上がり始めると、ミスティはアルムに手招きをして、顔を近付けるアルムにこっそりと耳打ちした。
「その制服、アルムに似合っていますよ」
「……」
「アルム?」
ミスティに言われて、アルムは目をぱちぱちとさせる。
かと思えば、次の瞬間には柔らかい笑みに変わっていた。
「何か、ミスティと会った時のことを思い出した」
「ふふ、実は私もです」
二人が最初に話したのも制服のことだった。
これだけは五人のではなく、二人だけの記憶。
「何か二人で話してる……しかも小声で……やらしいわ……」
「ミスティって素でそういうとこあるよねー。」
「やらし……!? わ、私達は健全です!!」
「落ち着いて! それも何かどうかと思うよ僕は!」
顔を近付けて会話するアルムとミスティを見て、エルミラがからかい始める。
こんな風に繰り返し続く話の数々が、アルムにとっては何よりも心地よかった。
いつもありがとうございます。らむなべです。
タイトルにもある通り、「白の平民魔法使い」再書籍化決定しました!わー!パチパチパチ!
出版社こそ違いますが、再び舞い戻りましたこの作品!読者の皆さんのおかげです!ありがとうございます!
まだ多くは話せませんが、近い内に続報をお届けします!これからもらむなべ及び「白の平民魔法使い」をよろしくお願いします!!




