大晦日特別幕間「今年最後の贅沢な夜」
「知っていますかお父様。常世ノ国では、年が明ける最初のお日様が出てくるを見る風習があるのだそうです」
年明けが近付いてきたある日のこと。そう言いだしたのは今年十歳になったカエシウス家の長女ティアだった。
鏡の前で父アルムに髪を梳かしてもらいながら得意気だ。
「へぇ、そうなのか。ティアは物知りだな」
「実はこの前シラツユさんに教えていただきました」
「シラツユに?」
「はい! 常世ノ国には奥深い文化が多く、シラツユさんのお話はとても興味深いものばかりでした!」
鏡に映るティアは満面の笑みを浮かべている。
髪を撫でると気持ちよさそうにアルムに体を預けてきた。
「例えば?」
「とある時期になると豆で外敵を退治するのだそうです。でもその豆は家の中に撒くと幸運の呼び水になるのだとか。面白いですよね」
「豆……? そんな変わった行事まであるのか……」
何で豆なんだろう……? というアルムの疑問はさておき。
ティアは最初に話していた年明けの日の出というものに興味を持ったようだった。
「年が明けた最初のお日様を拝むことで、新しい一年の幸運や健康を祈る風習らしいのです。私これにチャレンジしようと思いまして」
「ティアはいつも早起きだから全然間に合うんじゃないか? きっと見れるよ」
「え……あ……そっか……。えっと……えっと……」
ティアは何故か少し困ったように落ち着きがなくなり始める。
アルムを話さないようにアルムの服をぎゅっと掴みながら、えっと、と何か考えているようだった。
「わ、私これでも朝が弱いんです……!」
「いや、ティアはいつも朝ちゃんと起きるじゃないか」
アルムの記憶が正しければ、ティアは毎朝きちっと起きるタイプだ。
使用人達の話によれば必ず身だしなみを入念に行ってからアルムとミスティに挨拶しにいくらしい。
「そ、そんなことありません! お寝坊します!」
「いや、毎日可愛く身だしなみして、おはようって言ってくれるだろ? ティアは偉いな、って俺はいつも思ってるよ」
「え、偉い……えへへ……お父様が褒めて下さった……! 違うそうではありません! う、うう……! えっと……うう……。あ、そうです! 年明けだけ朝が弱くなってしまうんです!」
「そんなことあるのか?」
「あるんです! その、新年のめでたさで気が緩んでしまうといいますか! なので誰かに起こしていただかないと! その、なので……!」
ティアは手をもじもじとさせながら、ちらっとアルムを見上げる。
「今年は……お父様とお母様と、ティアとカルミナ四人一緒で寝るとか……駄目でしょうか……? 家族みんなで新しい年のお日様を見られればと思ったのですが……」
「ああ、いいな。ミスティに聞いてみないとわからないけど、そうしようか」
「本当ですか!?」
ティアの表情がぱぁっ、と明るくなる。それこそお日様のように。
「うん、それくらいはな。常世ノ国の風習をやるのもいいと思うよ」
「やったぁ! あ……ち、違いますよ! お父様やお母様と一緒に寝る口実を探していたわけではありませんからね! ティアはもう十歳です! 立派な淑女です! そんな子供っぽいこと思うわけありませんから!」
「あー……ティアの嘘つけないとこは俺に似たなあ……」
「何故梳かしたばかりの髪をそんな風に撫でるんですかお父様!? 責任をとってもう一度お願いしますよ!?」
「わかったわかった」
綺麗に梳かしたばかりのティアの髪はアルムが撫でたせいで少し乱れる。
だが、もう一度アルムにやってもらえるのが嬉しいのか鏡の中に映るティアの表情は先程よりもにこやかだった。
◆
「ふふ、何だか楽しくなってきちゃいましたね。このまま夜更かししちゃいますか?」
「だ、駄目ですよお母様! お日様を見ないといけませんから!」
「あら、そうだったわねティア」
年明けの前日……アルムとミスティの寝室に家族全員が集まった。
ティアはミスティにそんなこと言いながらも興奮しているのか、普段よりもわかりやすく目が爛々としている。
対して、妹のカルミアはすでに眠そうだった。
「カルミナ、ほらベッドにお入りなさい」
「うん……」
「あ……」
ミスティがカルミナを抱き上げ、ベッドに寝かせたのを見てティアは口を紡ぐ。
何か言いたそうにしているようだが、ティアは何も言わないまま羨ましそうに抱き上げられているカルミナをじっと見ていた。
ミスティがそんなティアを見ると、アルムに目配せした。
「ティア」
「はい……わっ!?」
アルムはティアを抱き上げながらベッドの中に。
そこにはミスティが待っていて、ティアは最後にベッドに入ってきたアルムと挟まれるようにして寝ることになった。
「今日はティアが真ん中だ」
「い、いいんですか?」
「ああ、今日のことを提案してくれたのはティアだからな」
「ありがとうございます……! あ、でも……やっぱり……」
ティアは満面の笑みから一変して、申し訳なさそうにミスティのほうを見る。
「お母様に悪いです……これではティアがお父様とお母様がくっつくのを邪魔してしまっているではありませんか」
「ティ、ティア?」
「お母様はいつも仰ってるんです。お父様ともっとくっつき――」
「ティア! 寝ましょ! ね! 夜更かしするとお日様が見れなくなっちゃうわ!」
こうして、常世ノ国の風習を口実にしたティアの作戦は大成功。
甘えるのが少し恥ずかしくなってきた十歳のお年頃。
彼女は見事、家族全員でベッドに入る時間を手に入れた。いつもより暖かくて、いつもより狭くなったベッドが何だかこそばゆい。
「お父様。お母様。来年もよろしくお願いしますね」
「私達のほうこそ、よろしくねティア」
「来年も家族みんな健康に過ごせるといいな」
「はい!!」
ティアは自分にとって今年一番贅沢な夜を過ごしながら眠りにつく。
アルムとミスティもその寝顔を見守りながら、ティアの頬にキスをしてそのまま来年に向けて瞼を閉じた。
「寝る前にお休みのキスをしてもらえませんでした! もう一回! やり直しです!」
「した! したよ! ティアが寝る時にしたよ!」
「私は覚えていません! もう一回! もう一回!」
「ふふ、それじゃあ新年からもう一度みんなで寝ましょうか」
そんな幸福な夜を過ごした翌日の朝。
初日の出を無事拝んだアルム達は新年も全員で寝ることになりそうである。
いつもありがとうございます。らむなべです。
今年最後ということで特別な幕間をお届けします。
現在進行中の「ティル・ナ・ノーグの異人」の流れをぶった切る形にはなってしまいますが、ご容赦ください。読者の皆さんに挨拶したかったんです。
今年もありがとうございました!来年もらむなべをよろしくお願いします!




