あの日見た灰のドレス7
いつもありがとうございます。
白の平民魔法使い番外編「あの日見た灰のドレス」これにて終了となります。
次の番外は二十七歳の時のベネッタがガザスを訪れた時のお話「ティル・ナ・ノーグの異人」となります。
気長にお待ちください。
「それで私はエルミラさんが言った通り、魔術学院で三年間ぶっちぎりの優等生になったというわけね」
「すごい話ですね……大魔法使いの原点みたいな!」
「あんまり持ち上げないで。私にとっては何もわかってなかった子供の頃の話なんだから」
他の取材よりも目一杯多くの時間を使ってシュニーカは過去を語り終えた。
エルミラは結局最後まで基礎訓練のやり方しか教えてくれなかった事、別れは結構あっさりしていてあれ以来再会はできていない事。
エルミラにとっては仕事で来ただけの一週間でも、シュニーカにとっては大切な時間だったという事を記者のアクティに話しきった。
「話す前にも言いましたけれど、記事にするならちゃんとエルミラさんの許可を取って下さいね」
「もちろんです! 貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!!」
「信用します。まぁ、許可を取らずに記事にするようでしたら……ふふ、ダンロード家の権力って結構凄いのよ?」
「すぐにでもエルミラ様にアポとりますので! 記事にした際は改めてご連絡も!」
「ええ、お願いね」
言外の脅迫に新人記者のアクティは震えあがる。
ダンロード家は決して横暴な貴族ではなく、むしろ市民からの印象もいいが……だからこそ一線を越えてくる相手には容赦しない。何よりエルミラは南部では恩人として一部の貴族に浸透していて、シュニーカだけでなく当主のディーマも決して許しはしないだろう。
「ともかく、その一週間がシュニーカ様の今を作ったもう半分ということですね」
「そういう事ね。一週間だけだったけど、エルミラさんには本当にお世話になったわ。今でも憧れの人だから……正直、対抗意識とかで煽られるのは迷惑なのよ」
「憧れというのは記事にしても……?」
「いいわよ。でも、記者さんとしてはつまらない答えなのかしらね」
「そんな事は! 今日はシュニーカ様が仰っていたように独占取材ですから! シュニーカ様の人となりを初めて記事にするのにつまらない事なんてありませんよ!」
アクティは、ふんふん、と小さく鼻を鳴らしながらメモをする。
あまりにも気持ちのいい受け答えに、シュニーカは初めて自分の記事を見るのが楽しみになった。
アクティの初々しさが、子供の頃の自分を想起させる。
それは流石に失礼かmとシュニーカはくすりと笑った。
「そういえば、海賊は結局どうなったんですか?」
「ああ、どうだったっけ……忘れちゃったけれど……。確か全員捕まって……えっと……エルミラさんが堂々と船首に立ちながら港に戻ってきたのは覚えているんだけど……」
「今の話を聞くと、容易に想像つきますね……」
「でしょ? かっこよかったんだから」
取材当初とは打って変わって、楽しそうに話すシュニーカ。
アクティもそれを感じ取っているのか、自然と笑顔が零れる。
まだ記事は書いていないというのに、新人記者としてこの取材は大成功という手応えがあった。
これだけ聞かせてもらえれば、記事を書くには十分だ。
「それじゃあ取材はこんなものでいいかしら。エルミラさんに許可取るの忘れないでね。東部にいるからちょっと遠いけれど」
「はい! 今日はありがとうございました!!」
アクティは深々と頭を下げる。後はエルミラのほうに許可を取りに行けばいいだけなのだが……ふと最後に気になった事をシュニーカに聞いてみようと思った。この質問は取材ではなく、純粋な疑問でしかないが。
「そういえば……エルミラ様とはその後お会いになったりはしたんですか?」
「……いいえ、それ以来会っていないわ。もちろんご活躍はお父様から聞いたり、噂で聞いたりしているけれど……エルミラ様は領地運営に子育てと本来お忙しい方だから南部になんて来る時間はないと思うから」
「それではシュニーカ様から赴かれては? これだけ尊敬している御方なんですから、成長した姿を見てもらいたいとは思わないんでしょうか?」
「それは、その……思うけど……ほら……」
そこまで言って、シュニーカは両手をもじもじさせる。
部屋の暖炉の火がばちっと弾けた。きっとシュニーカの頬が染まっているのは暖炉の火のせいではないだろう
天井を見たかと思えば俯いて、右を見たかと思えば左を見て。
落ち着かないシュニーカはやがて、恥ずかしそうに顔を上げた。
「だって会ったら……その、緊張しちゃってうまく話せなさそうなんだもの」
アクティは当然、九歳だったシュニーカと会ったことはない。
けれど、今見せた笑顔はきっとエルミラに憧れる少女のままだった。




