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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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7

 男は最近悪夢に悩まされなくなって頭がさえていると思った。

 一番最初に発言したものを見つけるのは無理がある。ほんとにそうだろうか? こんな小さい港街、やりようによっては簡単に突き止められるかもしれない。とにかくあせる必要はない。じっくり近づいて、確実に何かをつかんでやろう。

 男はそう誓って、それが当面の自分の人生のやりがいになりそうだったから、心の中では喜んでいた。

「どうだ? 最近は? 相変わらず夢は見るのか? え?」

「いや、最近は見ない。何が原因で変な夢を見ていたのか分からない以上、また、あの夢がやってくるかもしれない。すべて突然だ。見始めたのも、見なくなったのも。予兆、予感、そんなものはいっさいわからんからな」。

 暖かい紅茶を抱きしめるように、湯気ひとつ漏らさず体の中に押し込めるように飲み干して男はゆっくりと机にコップを置いた。

「いや、きっとどこかにヒントはあるよ」机は諭すように言った。

「なんだ、今日はずいぶんそっちがこだわるな。夢をありがたがるなとかいってたのはお前のほうじゃなかったか?」

「いや、実は俺も最近変な夢をみるんだよ」

「机も夢を見るのか! それも悪夢をか?」男は思わず笑ってしまった。

「いや、悪夢かどうかは分からんのだ。起きた時は、はっきりしてないんだからな。ただそれが、いつもと違う、今まで見たことがないたぐいだとは寝起きの感覚で分かるんだ」  

 机は真剣な様子だった。

「他にもこんなことを言ってるやつはいなかったか?」男は机に訊かれて思い出そうとしてみたが、まったく心あたりはなかった。そもそも、こんな夢の話を机以外としたことなんて一度もない。

「そっちの方が何か手がかりはないのか? なんてったってここは飲み屋だぜ、あんたの方がいろいろ話は入ってくるだろ」

「最近はまた、櫓の話さ。それも、あれはどうやら櫓じゃないらしい。だいたい、この町の住人は熱狂的すぎるんだ。どう考えたってまともじゃない。誰かひとりぐらい冷静な奴がいてもよさそうなもんだが、とにかくちょっと異常さ。ふつうはいろいろ反対意見が出るもんだろ。この前の橋の時だってそうさ。あれ、いるか?」

「そんなこと大声で言ったら、へし折られてから燃やされるぜ」男は自分が話題の先頭を走っていることを意識して満足のいく笑みがもれた。

「櫓と悪夢は関係がある?」机は声をひそめて男に尋ねた。

「わからん」

 話はそれきりだった。いろんな事柄がどれも関連していると考えるのは都合がよすぎる。実際は、ありとあらゆることがまったくなんの関連もなく、影響しあうことなく、多発的に勃発しているはずだ。

 関係ないか、関係ないだろう、関係ないはずさ。男は心の中で繰り返しつぶやきながら自分の寝床へと帰って行った。港はすっかり真っ暗で外灯の白さだけはバカみたいに明るい。たしか、星というのは自ら発光していなかったはずだ。あの光は反射だとかなんとかのはず。虫の音と自分の足音と波の音。

 月は自ら光っていないとは信じられないほど白く輝いていた。


 島の住人の朝は特別早いものではない。ただ、この日に限ってペンタクは早く目を覚ました。彼は浮島の風景がいつもと違うことに気づいた。しかしこれは、元に戻ったというほうが正しい。それで彼は特別騒ぎもせず、いつもどおりの仕事を物音に気をつけながら進めていた。どんな時でも、早朝、朝焼けというものは厳かな気分になるものだ。


 どうやら櫓が取り壊されたらしい。陽がしっかりと登ったころにはこの噂を確かめるべく港に集まってきた人、また人。彼らはそこに何をみたか。何も見なかった、櫓は跡形もなく消え去っていたのだ。しかし一瞥しただけで、誰もがすぐ元の仕事に戻っていった。

「驚いたな。誰か、取り壊されているところを見たやつはいるか?」返事は情熱のない否定だけだった。

「こりゃ、はっきり先手を取られてるな」ハンマースは舌打ち一つ、人垣の中に市長を探してみたがみつけることができなかった。早足から自然と加速して市庁舎まで全力で走っていた。

 いったいこれはどういうことだろう? ハンマースは走りながらいろいろ考えてみた。島の人間も誰もがこの問題を一瞬は考えてみたが、たいして考えなくてもいいことだとも気付いていた。櫓があろうがなかろうが、ガソリンの値段が下がるでもなし、魚がいつもより多かったり少なかったりするわけでもない。

 問題というのは、ある程度ヒントがなくてはだめだ。これではまったく興味が持てないではないか。

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