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そもそも、あの櫓が建っている浮島はこの星が誕生し、この港に生命が誕生したころから存在していたはずだ。きっと大きさは今よりもっと大きかったことだろう。人類誕生からというのは言い過ぎか。生命が人類になるまででもすさまじい時間が流れている。港の人間は長い歴史の中であの浮島を決して征服しようなどとは思わなかった。神聖な場所として崇めているということはなくて、正直にいってあまり魅力を感じていなかったのだ。手をかける費用と労力を考えたらリターンが少ないとういのが理由だろう。自分たちがこびとにでもなって霜柱をながめたらあんな感じだろう、と言った者がいた。そして、この港の人間たちは、全体的にめんどくさがりやが多数を占めている。
浮島を目指すなら船だ。船が港を出てから数分で浮島に接近する。近い。島の外周は崖だ。これなら島の住人達もわざわざ上陸しようとは思わない崖ではある。風がひどいときはフケが落ちるみたいに落石があるらしい。船を近づけるのに一苦労というか命がけだ。
いったい過去にどれだけの人間が上陸をしたのか。
最後に上陸をしたという噂の人物は、今も現役で漁師を続けているペンタクとうい老人だ。歳は70だが、今どきこれぐらいの歳では老人と呼べないかもしれない。若々しさがまぶしいぐらいである。体は小さいながらも、肌ツヤは高級家具そのものだ。彼の体でいい机や椅子が作れそうなぐらいに日に焼けた逞しい体は、崖を登ったという説得力が確かにあった。
「そんなにたいしたあれじゃないんだよぉ! ほんとさ! たぶん、俺の前にも誰かが何度か登ってるんだなあれは。見た目はすごいんだけど、一か所、人が登れるところがあるんだ。それも、はっきり誰でも登れるように、整備されてると言っていい、整備されてるよあれは絶対。」
「整備? まさか、そんな?」
「いや、間違いない。俺が思うに、この港の人間の誰かは、あるいは何人かは、ちょくちょくあの島に行ってるはずだ。内緒でな。過去のことは分からんが。そうとしか考えらんねぇ。ひょっとしたら今でも行ってるやつがいるのかもしれん」
「島には、何かあったんですか? がけを登って何かあったんですか?」
「それが何にもないのよ。今でこそおかしなものが建ってるけどさ、俺が行ったときは何にもねぇんだから。たいして広くもないしよ。もう二度と行かなくていいわあれなら」
「景色がきれいでしょ」
「そりゃきれいだけど、それだけでわざわざあんなところいかんでもいいさ。すぐあきるよ」
「あなたが行ったとき、何か、今の櫓を建てるための設備だったり、資材はなかったんですか?」
「あるならすぐに分かる筈さ。隠す場所もないあの島はいったん上陸しちまえば台地は広々となだらかで、建物たてるには申し分ないよ」
「いったい、なんであんなとこに櫓を建てたんだと思います」
「知らん。それにまだ、あれが櫓と決まったわけではないと思う。遠くから見てるだけで、実際に行ってないんだから。あれはまだ完成してない、なにかほかの建物の途中なんじゃないか」
それはもっともな意見だった。港の人間でここまで冷静に物事を見ることができるのは貴重である。しかし、だからといってあの建物がこの先いったい何になるのかは彼でもわからなかった。
あの建物が櫓ではないのなら、いったいあれはなんだろう? 誰かが最初に櫓といったために港の人間はその意見に引っ張られていたが、それは何者かが画策しているのか?
この噂はすぐに港の住人に知れ渡ることになった。




