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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 斜面を駆け下りて、息を切らしながら浮かんだ思いはただただ己の運動不足だった。港に戻ったハンマースは自分がこのまま倒れて死んでしまうのではないかと思った。どこを目指すべきか混乱した頭で向かった先はいつもの居酒屋だ。

「ユボットは来てる? 机がみつかった!」

「いいや、今日は来てない。そうか見つかったか!どこにいた?」

「あの山の斜面で縄で縛られてる。鍬でもスコップでもないか?縄を切りたいんだ」

「ここにはないけど誰かしら貸してくれるだろう。あいつ元気か?」

「まったく反応がない」

「水でもぶっかけてよくふいてやれ」

「前にもこんなことが?」

 親父は分からんという顔をして仕事に戻ってしまった。ハンマースは慌てて外に出ると店の中から親父の声が届いた。「角の床屋がいいスコップ持ってるぞ!この前土いじくってるの見た!」振り返らずに手を挙げて走り出し、すれ違うたびに机が見つかった報告をした。みんな笑って喜んでいたが、訳が分からないといった顔をしている者もいた。港の連中もだいぶ知らない顔が増えてきたのだ。

 スコップを借りて山に戻る道すがら、こんなにも坂道を呪ったことはない。走るどころかスコップを杖にして山道を登り続けた。足元にはやたらに蟹が目に付いた。蟻の巣でもほじくったようだが、蟹に巣があっただろうか? ハンマースは港に住んでいながら自然の生き物にはまったく無知だった。道端に咲いている花の名前もひん曲がっている太い木の種類も知らない。こんどカメラを構えてみてようやく興味が出てきたところだ。後で図書館で調べてみよう。

 足元の蟹に気をつけながら何度も縄をスコップで叩いた。一本切断するたびに張っていた力は弱くなった。「さあ帰るぞ」ハンマースは初めて机を抱え、そこはかとない誇らしさといっしょに再び斜面を下りて行った。こんなに激しく体を動かしたのは久しぶりだった。その夜、久しぶりにハンマースは夢を見た。夜の森の中で机が月明かりを浴びながら、開けた引き出しからゲロのように蟹を吐き出しているところを。

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