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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 もとから港にいた人間は、このアスパラが生えだした冬のことを忘れないだろう。この年は確かにほかのどの冬よりも寒さが際立っていた。12月に雪が降った。1月も2月も3月も雪が降った。雪が二日と続けて降った時もあった。この港に住む人間にとって初めてのことだった。雪が降るだけで、港からは人間が消えた。雪が降るだけでこんなにも人が出歩かなくなるものなのだと誰もが感心した。少し目をはなしただけで雪の高さはくるぶしまできていた。雪は膝の高さまでつもってようやくやんだ。表面は焼きたての菓子のようになめらかだったが、それを喜ぶ子どもの数も港にはそれほど多くなかった。

 ユボットは夕方凍えながら図書館めざして歩いていた。こんな雪の日は閉まっていて当然のはずだった。ただそれを確認しにくのだという妙な高揚感に駆られて雪の中を歩いて行った。再び粉雪が舞い始めた。あまりにも音のない世界で、傘の上を雪が滑っていく音まで聞こえてくる。この雪でなにか商売でも始められないものかと考えてみたが、人類が生まれてこのかた誰も成功してないことをみると、いかに難しいかがよく分かった。ユボットは最初の一人になりたかった。どうせ金を稼ぐなら、人を騙したりただ楽してもうけるのではなくて、世の中で誰もやっていない、見つけていないやり方で驚かせてみたかったのだ。しかし、アスパラは自分があつかうにはあまりもデカすぎた。どれもこれも自分の手にあまるのだとユボットは思った。机はよく走ってくれた、怒りで満ち溢れた足取りで雪を踏みしめながら、あのレースを思い出した。

 雪がやんで、ユボットは顔をあげた。一段高くなった植木の向こう、そこだけ雪が乱れていた。この自然の芸術を乱したのも、また自然のものなのか。それなら人間だって自然のもののはずだ。ユボットはそれがなんなのか気になって少々の苦労も厭わず足を大きく上げた。鹿かもしれない。どこか明るい期待を胸にひとつふたつと大股でのぼった。あるいは子どもかもしれない。足跡とは呼べないような雪の崩れがずっと続いていて、ところどころきれいな棒をさしたような穴が点々とそのまま残っていた。「机だ!」声を出したユボットは体が熱くなるのを感じた。ここでつかまえなくては、あいつ今までどこで何をしてたんだ? しかし雪の固まりは行く手を阻んだ。とても走れるものではない。これは若かったとしても苦しい。ユボットは早くも息がきれていた。後を追っていくと、雪は腰の高さまできていた。これはあきらめなきゃならん。まるで海に入っているかのような気になったが、この雪も跡形もなく消える時がくるのだ。

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