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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 山の斜面から見る夕焼けは港を染めつくしていた。どこにも逃げ場のない天からの偉大な抱擁は、夜に入る前の束の間のねぎらいだった。一日の中に一年がある。夕日を秋とみるなら、春は朝で昼は夏、夜は冬。いつか、秋というものがこの世から完全に消えてなくなる日がくるだろうか。秋にまつわる言葉、文化、文明、誰も知らない日が来れば、当然誰も思い出すこともできない。

 夕日もまた、何かに引っ張られてでもいるかのように地平線に降りていった。おかまいなしに港は賑やかだった。アスパラは伸びるときは一日一階分ぐらい伸びている時もあった。全世界が無邪気に喜んで見守っていた。いつか三人が交わした会話は予想というより願望だった。アスパラの成長があるていどの高さで止まってくれたら、いい笑い話で済んだのだから。アスパラは今やすっかり山を越えていた。もはや三人の出る幕はなさそうだった。人類の新しい文化文明を作り上げていく島とアスパラを、三人は生活の中でときたま野良犬のように眺めていた。

 そんなある日のこと、作業服のお供を引き連れて大物ヅラした黒服の男がやってきてアスパラに穴を開けた。大勢のカメラのストロボの光は遠くから見ると花火のようだった。すさまじい数の人間が湧いていた。木や石をけずるときほどのけたたましい音はしなかった。連中は、この作業は自分たちが思っている以上にうまく運びそうなことを瞬時に理解して、初めて少年のような笑顔を見せた。三人は、その様子をベンチに座って眺めていた。「なんと無邪気なことよ」ハンマースが上品ぶった声で言った。

「まったくだ。どうしようもないやつらだ」市長はそういいながらも嬉しそうだった。ユボットは相変わらず両手で顔をこすっていた。目や鼻が取れてしまわないか心配になる勢いである。黒服の男と周りの連中は今回の成果を出し惜しみせず報道陣に分け与えていた。カメラを持った男たちの群れが押しあいながら写真を撮っている、その混乱からそっと離れて、連中はいまにも三人に話しかけてきそうな、話を聞いてもらいたそうな、小学生の新学期の休み時間そのままに近づいてきた。三人は相手にしなかった。連中はカートを止めて噂話を始めた主婦のように三人を値踏みしながら去って行った。

「バカなことを考えるもんだ。そのうちあそこの穴がドアになって自動ドアになる。階段がエレベーターになってエスカレーターになる。最後はパスワードが指紋認証とかになるんでしょう。愚かなことだ。愚かの極みだ。愚かの誕生、愚かの進化をこれから見なきゃいかんとはな。」ハンマースはいくらかしゃべりすぎかとは思ったが、これぐらい言っておきたい気がした。そうして言い終わったとき、どうしようみないくらい恥ずかしくなって、自分は二度とこんなふうにこんなことを話すのはよそうと思った。

「しかし誰でも考えそうなことだ。俺でも考えたぐらいだからな。もう次に何が始まるか分かった。」とユボット。

「好きにやらせりゃいいさ。連中、自信があるんだろう」市長は顎で連中をさしたが、その態度には侮蔑など微塵も感じられなかった。ハンマースの目には、市長の動作が牛や馬と変わらないように見えてきた。老いが極まってくると人間らしさが消えて動物のようになるのだろうか? 

 連中はもはや事後連絡の書面すら市に送ってくることはなくなっていた。「ま、このままじゃ終わらんだろ、きっと。まだわしらの出番じゃない」市長は眠るように目を閉じてほんとうに眠ってしまった。ユボットもとっくにいびきをかいていた。

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