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年末年始、港の人間がアスパラに飽きたころ、よその国からのアスパラもうではこれから未来永劫永遠に続くのではないかと思われた。とにかく金がよく動いた。誰一人、あの日のレースを思い出したりなんかしない。三人は別である。机は相変わらず消息不明だ。
「今回のアスパラで思ったんだ、次から次へと事件が起こる。もう何があっても驚かないというわけじゃないが、少し楽をしたくなってきた。体が追い付いてこない」
確かに市長ははっきり年寄りだった。髪はほとんど残っていなくて、わずかに残っていた髪も断崖に必死にしがみつく両手のようだった。
「俺は思うんだけど、机が初めて口をきいたときも今みたいに大騒ぎしたんじゃないかな? 今となっては当たり前だけど、アスパラも当たり前になる日は、我々が思っているより早くくるかもしれない」
ハンマースはユボットが真面目に話しているのがよく分かったので口をはさまなかったが、机が口をきくのは当たり前ではないのである。「報告ってほどのことじゃありませんが、お二人ともみればわかるように、あのアスパラ、成長してます。予想どおりでしたね」ハンマースは、あきらめたっぷりに吐き捨てた。二人とも「どうしようもないな」と言って同じように笑った。
「これからどうしようか」市長も手に余ると感じているのだろう。めずらしく弱気だった。
「なりゆきにまかせるしかないか。どうせひまなら机を探すってのは?」ユボットの意見にしてはいいアイデアだった。「それがいいですよ、それにしましょう」ハンマースも元気を出して言った。市長も賛成だった。「早く見つけないとまた騒ぎになるぞ」
「外の連中はあのレースのこと、なんか言ってきましたか?」ハンマースはそれだけが気がかりだったのだ。
「連中は何も言ってこないな。もともとこっちは金に関しては独り占めしようなんておもってないしさ。一度電話で話したが、金は振り込んでやるから文句があるなら言ってこいと言ってある。たぶん確認もしてないんじゃないか。今でははした金かもな」
「ダメな奴らだ」ユボットは自虐的に言った。表情には退屈さが浮かんでいた。
「どこまで伸びると思う?」ハンマースはユボットの軽口が聞きたくて話しを振った。「いや、アスパラさ。どこまで大きくなると思う?」
「そうだな。少なくとも港の連中はちょっとした山より大きくなってほしいと思ってそうだ。あまり考えたくないな。考えたところでしょうがないだろ、あんたは?」
「私はビルぐらいでいいと思うんだよな。いっても八階建てぐらい」
「まぁそんなもんだろ」穏やかに市長が同意した。
市庁舎の屋上に吹いてくる風の中にはアスパラの匂いが混ざっていて、やはり以前の風とは違かった。そういえば、ここしばらくは強い風も吹いていなかった。この港にしては珍しいことである。
「さて、どうなるかな」ユボットがつぶやいて二人は黙ったままだった。ひどく疲れてしまったかのように三人はしばらく港を、海を、アスパラを眺めていた。




