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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 ユボットは、この円柱が、ほとんどこの前のレースの一周分の大きさであると気付いていた。このことは、今はまだ説明がつかないが、やがて誰もが納得のいく説明を得られるだろうと思った。そんな予感がしたのだ。

 島に上陸した人々は、あの日のレースで駆け抜けた机や馬と比べると、ほとんど停止しているぐらいの速度で島を歩いていた。すぐそこの緑の塔を目指してだ。塔とよぶほどの高さではないが、集まった人々は、これがまだ成長することが分かっているのか、期待しているのか、嬉しそうに予言めいたことを言い合っていた。ユボットはそういう心理に逆らいたくなるのが常で、こいつの成長は案外ここまでなのかもしれんと思ってみた。

 いよいよ行列が緑色の塔に触れるところまで来ると、見上げながら声を上げてなでさすっていく。やはり、これはめでたいことなのだろう。まるで赤ん坊でもうまれたかのように、集まった人々の顔に憎しみなどありようがない。それでもわずかに恐れを浮かべているものもいた。しかしそれは限りない尊敬の果てのことであった。人々は近づいてみて、予想をはるかに超えた大きさに驚きの声をあげた。

 人間は高いものを見ると登ってみたくなるものだし、倒れた時のことを想像するものだ。それは無理からぬことである。ただ、この緑の円柱は円周ぐるっと1マイルはある。安定も安定だ。上に上がったら、緑の大地でさぞ気持ちのよいことだろう。ここにいる誰もがこの緑の正体を知っていた。信じられないことではあるが、自分の台所にあったものはこんなに大きいものではなかったはずだ。

 ユボットは巡礼者のように列に並び、もう何周もしていた。「すごいねぇ、すごいねぇ」と主婦は感動しながら帰って行った。以前この主婦と飲み屋であったことがあるが、その時と様子がずいぶん違うので、それだけでユボットはこの緑の円柱をますます尊敬してしまった。混雑はひどくなっているようだった。

 後ろから肩を優しくたたかれて、振り向くと市長が笑って立っていた。

「おはようございます」ユボットは穏やかにあいさつしたが、最初たたかれたときはその手触りから勝手に女だと思ったぐらいだった。

「たいへんなことになったな。予想してたか、これ?」ほかの者と同じように撫でてから空を見上げて首をひねった。これ以上言葉がない、そんな表情だった。

「なにがなんだかわかりませんが、レースとは無関係とは思えませんね」

「そうだ、わしもそう思う。説明を求められると困るが、このことに気づいているのはわしらだけだろう」

「いや、港の人間でもそれぐらいは思ってるやつらはいるでしょう、ただし、冗談の一つとして」

「わしらは真剣だな。この先どうなると思う?」

「もちろん、まだ成長するでしょう」

「そうか、やっぱりそう思うか。これ、どうみても絶対アスパラだよな」

「もうにおいがそうですからね。これアスパラだと思います」

 ユボットは酒が残っているから頭も体も重かった。昼が近くなっても回復はなかなか近づいてこないのだ。しんどくなってアスパラに背中をあずけて座り込んだ。

「ぐあいでも悪いのか?」心配そうに市長がたずねた。

「いえ、飲み過ぎです」目をつぶったままユボットは答えて、市長はまた会おうと言って去って行った。巡礼に集まった人々もユボットのことを叩き起こしたりはしなかった。こういう場所にこういう人はつきものだといわんばかりである。大勢の足音や話し声、物がぶつかる音、そんなものが最高の眠り歌になる時がある。ユボットにとっては初めてのことではなかった。心優しい誰かが、ユボットに心地よい布をかけてくれた。我ながらまるで死体のようだとユボットは思った。

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