20
「祭りは何かいいアイデアがあったか?」市長は思い出したように叫んだが、周りの者は下手な芝居を見るのにはうんざりしていた。悲しいことに、今や市長は本気のときは芝居と思われ、芝居のときは本気と思われてた。
「それがまったく」ハンマースはつきあいが長いので、市長が今まさに思い出したことがよく分かっていた。
「まったくないのか! そりゃ困ったな」
その声の調子でまったく困っていないことはよく分かった。きっと、例年とまったく同じ内容の祭りが今年も行われるのだろう。伝統を守るとかではなくて、単純にめんどくさい人間が集まっているのだからしょうがない。あるいは、この港には、そういう力が強く働いているのかもしれない。ハンマースは、自分ひとりならともかく、この街全体にそういう傾向があるからしょうがないのだとあきらめた。
飽きてめんどくさがってしまってはだめじゃなかったのか? そう自分に言い聞かせ、なにか習慣にしなくてはと考えてみる。
もう何十年も前の少年の頃の夢だ。夜になって、学校の周りをうろついている。正確には、学校へ行くまでの道のりだ。学校へ行くまでのルートは何通りもある。毎日違うルートになるように、知らないところなどないように、徹底的に遊びつくしていたのだ。電柱の外灯が頼りないが、それでもないよりはましだった。暗闇への恐怖は今よりずっと深刻なものだった。影があらぬ方から伸びてきて、自分の影にさえおびえているのだ。近くを歩く人が頼もしく感じたかと思えば、この世で一番悪い人間に思え、ひょっとしたらこの世のものではないのではと思えてきて、突然逃げるように走り出す。自分のはく息が誇らしく感じられ耳をすます。ほんのわずかな物音にも心臓が打たれたような動機が走る。
それでも夜が好きなのだった。夢の中で、以前夢の中で歩いた道と道がつながっていくのが何よりも好きだった。夢の中の行動範囲が現実と同じように広がっていくと、その記憶が確かなうちにハンマースは夢の地図を書いたものだった。
「何かいい案はないものかねぇ」かつての怒気などどこ吹く風ときたものだ。
「ないですねぇ」
ハンマースは適当に相槌をして今日の朝の生まれたての夢を思い出そうとしていた。夢は信じられないほどの速さで腐っていく。
「金がかからなくて、安全で楽しい…」市長は酔っ払いの歌の用に口に出しながら考えていた。
「この際、募集なんかしてみますか?」やけくそでハンマースは言った。
「それだ! 悪くないんじゃないか? 俺たちだけで考えていてもらちがあかんよ。どうしても同じことになっちゃうからな。外からの視点というやつは必要かもしれんぞ」
周りの人間は誰も何も言わなかった。




