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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 船の灯りは大海原ではまったくたよりにならなそうだった。港を振り返ってみても灯りはとても小さくたよりなさげである。

「なんだか、すごいさびれた港みたいにみえる」ハンマースが力なく言った。

「実際そうなんだろう」ユボットが軽口をたたいて嘲った。「そんなことはない。ただ灯りがすくないだけさ。ここの港はなかなかのもんだよ」市長は満足げに二人を見た。

 船は暗闇の中を進んでいき港の灯りから遠ざかっていった。「もうちょっと街灯を増やしてもいいな」机の意見には誰も返事をしなかった。波は眠っているかのように穏やかだった。そんなことがあるのだろうか? 明るささえ解決できたら、そして、いつも波がこんなにも穏やかだったなら、夜の船はそうとう繁盛するかもしれない。ハンマースは風にあたりながらそんなことを考えている自分がすっかり別人になってしまったような気がした。

「いい港だよほんとに」市長のおだやかな独り言には心の中で全員が賛成していた。

「灯台を作るのはどうかな?」ユボットのアイデアに全員が声を合わせて同意した。

「いい事業になると思うよ」机は気をよくして見てきたように話に割り込んできた。

「完成するまで死ねんな」まったく老いの匂いがしない声で市長が笑った。「そういえば、このメンツで船に乗るのも久しぶりじゃないか?」

「いや、そもそもまだ二回目です」ハンマースはビールの二本目が終わりかけていた。

「俺の日記みたいなもんだな。三日も続かないというやつだ」ユボットが話した後は、またしても誰も何も言わなかった。船内は静かだが、不思議な信頼感のようなものがあって、誰も無理に口をひらこうとしなくてもおだやかに過ごすことができた。市長はどうやら、すっかり操縦が好きになってしまったらしい。飲んでもいないのに、酔っぱらったような唸り声が漏れ聞こえている。どうやら昔の歌らしいが、それがなんという歌なのかということは、誰も聞こうとは思わない。あるいはそれは、夜の船内に響く音楽として最高のものだったかもしれない。

 浮島は変わらずそこにあった。波が静かなぶん、どこか優雅に感じてしまうのだった。島の佇まいがどこか人間くさい。波が強くなるのも、弱くなるのも、絶えることなく繰り返すのも、誰かがネジでも巻いてるようだ。その誰かを考えてみたところで無駄なのだろう。すべて偶然の産物ということにしておくしかない。船は前に来たときと同じく、島を一周することにした。時間を変えて同じ行為をするというのは、どこか真剣な調査、実験をしている感じがするものだ。この程度のことで仕事をしているような気分になるところからして、いかに普段の仕事がお遊びに近いかわかりそうなものである。違う結果が現れそうな期待、何か立派な仕事をしている充実感が全員の表情に鮮やかに浮かんでいた。

 船はおだやかな波に揺られる木の葉のようであり、その動きは眠りを誘うものだった。船は港の方角から見て、島の完全に後ろへ回った。

「ああ!」全員が声を上げた。

 波がまったくない。そういう時間帯が存在するのだ。

「どうして? 波がやってこないぞ!」

「水たまりの上みたいだ!」それもこれが初めてということではなくて、今までに何度もあったのだろうと、三人は心の中ではじきだし、お互いの顔を見るだけでそれと知った。永遠ともいえるような果てしない時間の中に、目印のように波が止まる日がある。時は流れるものではなく、こんなふうにずっと止まっているものなのかもしれない。「嘘だろ!ほんとに止まってる! 揺れてもいない!」ユボットは床が破れんばかりにジャンプして両足を床に何度もたたきつけた。「市長、これなら船がつけられますよ!」ハンマースの絶叫、ユボットは船から飛び降りんばかりに体を乗り出した。あの老人に時間のことを尋ねなかったのは迂闊だったか? しかし…? あいつは隠していたのだ! どんな理由があって? おそらく、この島には定期的に誰かがやってきているに違いない…! そいつらは、波が完全に止まる日を知っているのだ。なにか規則的なものがあるに違いない。怒りと形勢逆転の手ごたえで手が震えんばかりのユボットは船内の机を振り返って言った。「おまえ、どう思う?」

「しかし、上陸の準備ができてないぞ」机の言葉に全員が最悪の展開を思い浮かべた。勢いと手ごたえが本物だからこそ、つまらないことで台無しにしたくなかったのだ。ありとあらゆる最悪のシナリオをそれぞれが心に描いていた。

「この収穫は逃げないよ。今日は帰ろう」机はまったく落ち着いていた!

「そりゃそうさ。逃げない逃げない、逃げませんよ。絶対だいじょうぶさ!」ハンマースの目は悔しさを浮かべたまま輝いていたので少し気がふれたみたいだった。気がふれている人ほど、自分に向かって言葉を投げかけるものだ。ユボットは黙ってみんなの言葉にうなずいていたが、今のハンマースに夜道で出会ったら誰もが人生の終わりを感じるだろうなと思った。

「秘密だぞ、まだ秘密だ。誰にも言うなよ」市長は大きく手を二回叩いた。これは市長の得意技だ。本人はここぞという時に使っているつもりらしい。ユボットとハンマースは雄叫びを上げて机を何度もひっぱたいた。

「ここまできて、また引き返すのか。俺たちはいよいよバカだな」ユボットは笑顔でハンマースに言った。

「どこに出したって恥ずかしくないバカさ」二人はハイタッチして雄叫びを上げた。いまや二人の間に壁はなく、なぜ最初からこういう関係になれなかったのか不思議に思うくらいだった。

 チームをまとめるのに必要なのは成功を体験することだ。失敗ばかりじゃやる気が失せるのも無理はない。市長はこの興奮を港の連中と早く共有したかった。

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