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市が管理している島への巡回船はとぎれることなく人があふれていた。二日続けて船から人が落ちたのを受けて船を追加することにした。それでも乗客はあふれそうだった。この新しい事業にハンマースはかかりっきりだ。よその町から人が大勢やってきて悪くない収入になっている。
ここが稼ぎ時と目を付けたのは漁が苦手な漁師の子供たちで、勝手に船を出しては小銭を集めていっぱしの顔をぶらさげるようになった。ハンマースは容赦なくそんな連中を取り締まり続けてどんどん柄が悪くなった。今ではすっかり港の男たちから睨まれているが、本人は他人事のように堂々としたものだ。
「市長、キリがありません。ただ取り締まるだけじゃなくもっと厳しくいきましょう。それがだめなら奴らの上がりの何パーか貰うんです。それなら客を乗せてもいい」
「そりゃさすがに荒れるだろう」
「そんときゃそんときです。」ハンマースは気負ってるわけでもなく平然と答えた。
「まぁ君はそれが本業じゃないんだから、島の調査をするのが第一だぞ」
「島に上陸されるのは時間の問題だと思ってましたが!」
予報では今週一週間は雨とのことだったが、あくまで広い範囲の予報である。港は山がすぐ近くにあるため天気が変わりやすい。巡回船は海面をまるで舗装された道路のように軽快に走っていた。ハンマースは何回か巡回船に乗ってみた。調査半分、好奇心半分といったところだ。
雨だ雨だと騒ぎ立てるからこちらも雨のつもりで予定を立てるとからかうように一日晴れときたものだ。港の連中は昔からの知り合いのように笑顔で晴れを喜び洗濯物がいっせいにベランダに並ぶ。ハンマースはそれが面白くない。最近、生活のこまごまとしたことが必ず逆を取られているのはなぜだろう? そんな時もあるさというが、こうも長いと心が荒れる。一か月も続けば薬の世話になる一歩手前だ。
市長も最初はあまり心配していなかったが、ここ最近のハンマースの顔をみると心配したほうがよさそうな気がしてきた。
「ハンマース、今夜船に乗らないか? 夜の島に行ってみようぜ?」
「市長、どうせ俺は雨男ですから、ひどい雨が降って船がひっくり返るだけですよ。まだ死にたくないから嫌です」
「天気予報見るぶんにゃ雨はもう終わりらしいぞ。だいじょぶだろ」
「だから、それがあてにならんのです」だからをひときわだみ声で発音した。上司への返答としてはありえないはずで、それぐらいのつつましさはもちあわせていたはずだった。
市長はハンマースが天気予報にそこまで腹を立てるのを不思議に思いながら続けた「港からはたいした距離じゃないし、危なくなったらすぐ引き返す、酒でも飲んでゆっくりしようや」
「あまり気が乗らないな」
そうは言ってもハンマースも酒は嫌いじゃない。だんだんと自分の金じゃないなら悪くないと思えてきた。他人の金で飲む酒がとことん気に入らない時もあれば、他人の金で無性に酒が飲みたくなるときもあるものだ。しかし、一度強く断った後でやっぱりというのは恰好がつかない。
「もちろんユボットとあの机も呼んでおこう」市長はハンマースがくるものとして話をすすめていた。
「待ってくださいよ、やっぱりちょっと」
「ま、少しのんびりしようぜ! 最近は新しい仕事でバタバタしてた! 以前ならこの時期はもっとのんびりやってたとこだ。今さら俺たちカネカネって人生じゃないだろ?」
「それはそうですが、どうもムカつくことが多くてね」ハンマースは市長にぞんざいな口をきくのに抵抗がなくなりつつあった。




