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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 雨はずっと降り続けていた。港の人間は何日前から降り始めていたか思い出すことができないほどだ。雨足が強くないのがかえって恨めしい。

 漁は普段と変わらない。

 港は祭りが近づいていた。毎年のことなので慣れたものである。

「祭りにあの島がからんでないってのも不思議ですね。普通はからんできそうなもんだが」ハンマースは言った。

「この祭りは歴史が浅いんだよ。ハンマースはこの港に着て何年になる?」市長は爪を切りながらハンマースに尋ねた。

「もう十年になりますか。」十年と簡単に言うが、今さら後悔しても始まらない。ハンマースはこの十年があまりにも単調で情熱がないことに最近驚き始めていた。

「あの祭りもただ騒ぐんじゃなくってなんか注目を集めるようなものがあればいいんだが」

 市長がやる気を出すのはよくない知らせだった。市長のやる気を上手になだめるのがハンマースの第一の仕事でもあった。市庁舎は祭りが近づいて人の出入りが多くなっている。この時期は珍しく電話も鳴りっぱなしだ。

「まぁ、何か特別なことをやるっても来年の祭りでしょう。ちゃんとやるには準備が必要ですから。急いでやっても絶対失敗しますよ。アイデア募集とかしてみますか?なんなら今年の祭りで」

「バカ言ってんじゃないよ!そんなたいそうな話じゃなくってさ!俺たちゃ祭りを運営する側なんだからこれぐらいビシっとやらないでどうする。そんな一年後なんて情けないこと言ってるようじゃダメだぜ!」

 市長の言葉は怒気にまみれていた。だいたいこんな普通の日常会話でいきなり興奮する人間をハンマースは軽蔑していたが、仕事だからしょうがない。年寄りだからしょうがないと耐えてきた。こういった上の世代が使う「ビシ」だとか「ちゃんと」いうのはどうにかならないものだろうかと常々考えてはいるのだが。

 しかし、人間は同じ時間を共有していると影響しあうことは避けられないらしい。ハンマースはたびたびそのことに気づくと心の底からうんざりした。

「なにか奇抜なものでもあればいいんだが、いざ考えると陳腐なものしかでてこない。よその祭りで面白いのはいっぱいあるんだけど、マネするのはダサい。」

 市長の目の色と声はすでにいつもと違っている。

 市長は自分の変化に気付いていない。ハンマースは自分も気付かないうちに周りからこんなふうに見られていたらたまらないと思った。この事態に周りの同僚まったく関心を示さない。いつものことだと思われているのかもしれなかった。

 市長の人格の中には余人には理解できない部分がある。誰にでもあると言われればそれまでだが、やっかいなのはその部分が時として凶暴に目覚めることだ。これはまったく予想がつかない。これだけ一緒にいてなお理解に苦しむ所である。本人はそういう部分が露出することを夢にも恥だとは思っていない。老い先短い者の特権とも言えるが、こういう個性は若いころから変化しないのかもしれない。

 ハンマースは市庁舎で自分が一番常識があると思っていたが、それによって他人を非常識あつかいしないようには気をつけていた。市長に対しても大人が子供をあやすような態度にだけはならないようにしていた。このことは、いつもやってしまった後に思い出していたのだが。

「島のことなら気合い入ってたのにな。あれ以外の仕事もきっちり頼むよ!」

「普通、ああいう島って地元の人の信仰の対象というか聖地みたいになるはずなのに」

 ハンマースは市長の言葉を相手にしないで勝手につぶやいていた。

「ここは普通じゃないからな。昔の人もなかなか頭がよかったんだろう。同じ時代にあらゆる土地で神様と結びつこうとしてたってのにそんなそぶりがないんだからな!」

「はたして、頭がよかったのかどうか」

「うん。ただのんきに遊んでいたんだろう。とにかく、祭りの件は今月じゅうに案をいくつか出すこと。多ければ多いほどいい」

 いくつアイデアを出しても市長は感心しないだろうということをハンマースは知っていた。それよりも、何か突発的に驚くものや不安なことでもあればこの件は忘れてしまうのだ。思い出したときはきっと熱が冷めている。今までもそうだったから、ハンマースは今回もそれに期待することにした。

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