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星空のビーチコーミング  作者: 上高田志郎
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 三日月のような形をした港からはシルクハットのような形をした島がいつもと変わらず浮かんでいるようにみえていた。巨人の忘れ物とかそんな言い伝えなどない。港の人間からもたいして関心を持たれていない島だ。側面の崖は、それこそ巨人が手で拾うことをためらう程度にはギザギザに荒れていた。いつもと違うのは、帽子のてっぺんになにかが建っていることだ。港からでもはっきり確認できた。

 船をだして島に近づいてみたところ、島に建てられていたのは櫓であることが分かった。冗談で作ったにしてはかなりしっかりとしていた。あんな櫓をわざわざ建てて、あそこにつめてる人間がいるはずがない。港の連中は、自分たちがあまりにも島に無関心だっただけで、ひょっとしたら何年も前から建ってたのかもしれないなどど言っている。ようやくのことで、建ちはじめから観察していたという者を見つけたが、いつのまにか土台が組みあがって、いつのまにやら屋根がついたと言う。その間、動いているものは何一つ見なかった。鳥が巣を作るように櫓を作ったんじゃないかと言うのだからのんきなものだ。その期間わずか一週間。誰に話すでもなく、ただ感心しながら楽しみにしていたという。毎朝驚くべき速さで建設されていたという。

 よそからマスコミが取り上げにきたのは出来上がってからのことで、住民は新聞やテレビ局がみな好意的に取り上げにきたものとばかり思っていて、新聞やテレビ局のほうは集まっている地元住民が島に勝手なことをされて怒っているのだと思っていた

「環境問題の観点から…?」

「問題ないね。あるわけないでしょ」

「税金の無駄使いでは?」

「役所が作ってんのかい? 初耳だぜ!」

「不思議だとはおもわないんですか?」

「無駄だと思うよ。でももう建っちゃったんだから」

「あれは櫓ということですが、誰か見張りをする人が? なんのために?」

「誰もあんなとこいかないよ、だいたい何を見張るっていうんだ? 何のためだって、こっちが聞きたいぐらいだよ」

 マスコミの人間は誰もが人生で初めて訪れたこの港の住人と自分たちがあまりにも違うことにとまどっていたが、それは島の人間たちからみても同じことだった。言葉が通じる、同じ国の人間だからこそ、あまりの違いに薄気味悪くなったぐらいである。誰かが勝手に建てはじめておきながら、そのことにまるで無関心なのだから。

 島の住民の多くは漁で生計を立てている。彼らが言うにはここで取れる魚はあんな櫓が立てられたぐらいでどうにかなるようなヤワなものではないということらしい。実際、漁と櫓はまったく関係がないのだが、苦肉の策で記者たちは関連づけようとしたのだ。漁師生活ウン十年、命がけの武勇伝を語るものの、そのどれもがあまりにも田舎のほら吹きおじさんといった類のものだった。彼らは最終的には言うことを聞かない魚は素手でブン殴るしかなく、暴れる魚に関してはゴルフクラブやバットでひっぱたくことにしているらしい。環境問題や税金の無駄使いかと取材しにきたらとんでもない世界があったもので、そんなことを報道でもしたら港の住人たちが動物愛護団体から突撃されることは間違いなしだ。ことの真意はともかく、最近は冗談でも剣呑な雰囲気が漂うならばさけるほうがよい。田舎のほら吹きおじさんを矢面に立たすのは忍びない。しかし港の人間は集まってきてはそれぞれがどれくらい魚をぶん殴ってやったかを語り合い、お互いに嘘をつくなと言って怒鳴りあっていた。漁師にとっては、魚をぶんなぐるのはそんなにめずらしいことではないらしい。ここの魚はとびきちデカくてたいへんうまいというのが彼らの話のオチだった。


 報道陣たちとしては当初の目論見からは少しずれたとはいえ、この櫓が奇妙なことは変わらなかった。あの櫓、立派なつくりはどう考えても人手がかっている。しかしいくら調べようとしても調べようがない。この港、トンポ港は結局のところ、誰からも忘れられていたといってもいいぐらいだった。今までさんざんほっといて今さら何をというのが市長のインタビューからもみてとれた。

「この櫓を建てるにあたって、どこから資金が出たのか、どういった経緯があったのかお答えする義務はありません。議会で可決なんてしていません。こんなものを建てるかどうかなんてわざわざ議会で話し合うと思いますか? 我々はノータッチですよ。みなさんはどうしても私たちの議会を未開発の部族の集まりにしたいらしいですな。とにかく、あの櫓に関しては誰がどんな目的でどうやって建てたのかは分かりませんし、私たちも無理に調べようとは思いません。ほっとけばいいんですよあんなもの。隠してなんかいませんよ。あんまりしつこく言われると、もし知っていたとしても、絶対に教えたくない気持ちに傾いてきましてね。とにかく私たちは、全住民、誰もあの櫓を問題にはしていません。以上でいいですか。かんべんしてくださいよまったく。」

 報道陣たちはこの工事を引き受けたのはいったいどこの事業者だと血相を変えて調べてはみたが手がかりはつかめなかった。三日四日たつと血相を変えるのがバカらしくなってきたというのもある。  

 どうもこの港の住人たちは人を喰ったところがおおいにある。

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