攫われたニート妹
今回はほんのちょびっとだけ暴力表現があります。
フワフワとした、足場のないような感覚から、醒めていくのを観月は感じた。
辺りを見回しても、何も見えない。
ーー暗い、部屋?
いや、違う。
目元にあたる異物の感触に眉をひそめる。
目を、覆われている。
何かの布で。
「‥‥気がついた? 大丈夫よ。すぐに助けてあげるからね。」
知らない女の人の声。
自分は、一体どこにいるのか分からなくて、怖くてたまらなかった。
とにかく、動かなくてはと体を動かす。
しかしーー
「ーーーーー!? いやぁ!!!」
体は、何かで縛られて、身動きができないようにされていた。
一気にパニックになって大暴れする。
よほど強く縛られているのか、ギシギシと食い込んでかなりの激痛が観月を襲う。
「ーーいっ!!」
「悪く思わないで、貴方のためなのよ。」
触れられて、思い出した。
確か、自分は、兄の部屋で寝転んでいた。
そこに、見知らぬ女の人がやってきてーー
「ーーーー!!」
ヒュウッと息を飲む。
そうか、私は、
「落ち着いて呼吸して!! 貴方過呼吸になっているわよ!?」
この人に、連れ攫われたのだ。
「ーーーに、さ。」
必死で呼吸をして、兄のことを尋ねる。
帰らなきゃ、兄さんの所に帰らなきゃ。
「‥‥あの犯罪者は、関係ないわ。私は、貴方をあの犯罪者から助けにきたの。貴方を、外の世界につれだすためにーー」
いま、なんて言った?
外の世界に、連れだす?
ーーいやだ。
「貴方どうしたの!? なんで、そんなに」
「かえして、帰してよぉ‥‥!!」
私は、あそこにいたいの。
あそこしか、私の居場所はないの。
兄さんに、逢いたい。
ボロボロと観月は涙を流す。
涙の水分は布に吸い込まれ、ヒタリと新たに嫌な感触を生み出す。
「なっ‥‥!?」
そういうと、その人は怒りに身を任せたのか、信じられないほどの強い力で私の肩を掴んだ。
「‥‥っ、いたい‥‥。」
痛い。
この人に、触られたくない。
兄さんにしか、触られたくない。
「さわら、ないで‥‥!」
「なんで分からないの!? あの男は危険なのよ!? あの男は‥‥!」
「観月に、触らないでくれる‥‥?」
「「!?」」
一番、聞きたかった声。
誰よりも、誰よりも望んでいたそれ。
「な、なんであなたが‥‥!?」
「邪魔。‥‥触るなっつったよね?」
ドゴッという音と共に、女の人が呻く声がした。
その音が、なぜか不快で首をかしげる。
「ぐうっ‥‥。」
呻く彼女を見向きもせず、兄は自分に話し掛けた。
「観月、大丈夫‥‥?」
布を取られて眩しさに目を瞬かせる。
目が慣れて、おそるおそる顔を上げた、その先には。
安心したように微笑む、兄の顔だった。
そして、次の瞬間、抱きしめられた。
「観月、よかった‥‥。」
本当に、安心したように呟いて、兄はその腕に力を込める。
「にい、さ‥‥。こわかっ‥‥。」
「大丈夫、大丈夫だよ‥‥。」
暖かなその体温は、ずっと観月が求めていたものだった。
「‥‥!!」
こちらを憎々しげに見つめる、人吉の視線を、気づくことなく。
千尋、こえぇ‥‥。




