欠陥製品と快楽主義者の関係
今回はあの快楽主義者君です。
新キャラ登場します。
ーーとある日、とあるカフェ。
カラン、と音が鳴って扉が開いた。
新太は振り返って入ってきた人間を確認する。
入ってきたのは、若い女性だった。
染めたのであろう茶色の髪に日本人特有の黒い瞳、長い髪をバレッタで止め、紺色のパンツスーツを着た彼女はゆっくりとこちらに近付いてくる。
「おひさー。氷井野さん。」
「狭間君も久しぶりね。こうやって顔を合わすのは何年ぶりかしら。」
穏やかな言葉とは裏腹に、無表情で答えながら目の前の椅子に彼女、氷井野昌子は腰掛けた。
「まーつってもスカイプとかラインとかメールで会話してる分あまり久しぶり感ないけどねー。で、最近どう? 面白いネタある?」
「それはこっちのセリフよ。‥‥あんたの方はどうなのよ。」
一気に砕けた口調になった氷井野に新太は笑みを深めた。
ーー先に言っておくと、二人は恋人では無い。
その昔、高校の同級生であっただけだ。
しかし、二人にはある共通点があった。それはーー
「相変わらずかなー? あ、でも前言ってた先輩が超面白い。」
「こっちは変わらず。ポコポコポコポコどーでもいいことばっかり。‥‥あんたみたいに周りに興味持つこと、できないわ。」
狭間新太は自分が面白ければそれ以外全てがいい。
氷井野昌子は自分以外の全てがどうでもいい。
彼女は何処か足りなくて、新太は何処か壊れていた。
それを、二人は敏感にかぎ取り、今に至るまでお互いを観察し合う関係を築いてきたのだ。
「ふーん‥‥。そこまで執着してるのね‥‥。」
「そーそー。あの先輩凄すぎ。」
「じゃあ‥‥と、電話。」
「いいよ、出て。」
「それじゃ、遠慮無く‥‥‥‥。だから、それは突っ込むなって‥‥。あのねぇ、先輩のいうことは聞きなさいよ‥‥。だとしても‥‥。‥‥もう良いわ。そんなに調べたいなら編集長から許可を取りなさい!!」
「‥‥大変そうだね。」
「ええ、見苦しいとこをごめんなさい。」
氷井野昌子はとある週刊誌を発行している編集局に勤めている。
何かしらのトラブルか? と新太は眉をひそめると彼女は何処かすすけた笑みを浮かべる。
「ふ、ふふ‥‥。あの偽善者後輩‥‥。二年前の新婚旅行の轢き逃げとこの前の飛び込み自殺おかしいから調べさせろって五月蠅いのよ。‥‥自殺の方はあんたが関わっていたわよね。」
「ああ‥‥。」
頼んだコーヒーを啜りながら新太は苦笑する。
新婚旅行って多分‥‥。
「ま、あれは触っちゃいけない類いのモノだから編集長も却下するでしょう。」
「へー。そんなのあるんだ。」
「まあ、ね。‥‥あれは、関わったら、ダメよ。」
一歩間違えたら死ぬ。
そう言い捨てて氷井野はコーヒーを一気に飲み干した。
それを見て新太は喉を震わせる。ああ、やっぱり彼女は面白い。
「でも、興味ないんでしょ?」
その後輩にも。
そう尋ねると彼女は眉をひそめて息を吐いた。
「そうね、死んでもきっと次の日には忘れているわ。あーあ‥‥。あんたみたく、何かを面白いって感覚、死ぬまで味わえないのかしら‥‥。」
「じゃ、味合わせてあげようか?」
人の生き死にすらもどうでも良いと思う自分には、そんなものは与えられないのだろう、と自嘲する彼女に新太はポツリと呟いていた。
「‥‥は?」
「いやー。ほらさ、俺の側に居たら味わえるかもよ?」
「それは、」
ニッコリ笑ってそういう新太に彼女は目を細めて聞き返す。
「愛の告白っていうやつかしら? 趣味悪いわね。」
「結構本気だったんだけどな-。あ、でも‥‥」
「いいわよ。」
「いやなら、って、いいの?」
「あんたの耳は節穴なのかしら。」
「いや、いいならラッキー。」
二人は恋人なんてものではない。
二人は、鏡合わせのようにそっくりで、そして正反対なのだ。
恋人なんてモノよりも深く、そして強く互いを嫌い合い、そして求め合っている。
「じゃ、これからどーする?」
「そうねぇ‥‥今更デートなんかで喜ぶ年でもないし‥‥。」
「んーじゃあ、」
俺の家にでも来る?
「‥‥いいわね。」
妖しく笑う新太に彼女は無表情で言葉を返した。
先輩よりも一歩先にリア充になりましたねーこいつ。
新キャラさんはとても書くのが難しかったけど楽しかったです。
また出したいなぁ‥‥。