愛情と
「‥‥どういうこと?」
ニコニコ笑っている新太を不機嫌そうに睨みながら千尋は問う。
一方の新太はそのどこか胡散臭い笑みをたたえて答えた。
「いやー。実はその女に俺の方も用があるんすよー。だから、今回は俺に任せてくれませんか?」
「どうして? 少なくともこの女の腕折らなければ気がすまないんだけど。」
その言葉に、観月は兄の胸に置いていた手で服を握りしめる。
それを見て千尋は一瞬幸せそうに微笑んだが次の瞬間には不機嫌な顔に戻り、新太を見つめる。
「‥‥先輩? 顔怖いっすよ? まー何というか‥‥。この女、俺のだーいじな子にたっくさん迷惑かけてたんすよね。だから、仕返してきな?」
「俺がそれを譲らなくてはいけない理由は?」
嗤いながら答える新太に千尋はあくまで無表情で返す。
困ったように新太は髪をぐしゃぐしゃにしながら答える。
「ほら、妹ちゃんも早く帰りたがってるみたいですし、先輩も早く二人っきりになりたいでしょう? 可愛い後輩が気を使ってると思って、ほら。‥‥というのは建前で。」
そう言うとスッと笑みを消し、新太は続ける。
「‥‥単純に俺、こいつ大っ嫌いなんですわ。だーいじな子に迷惑かけられただけじゃなくて自分勝手な偽善感情で動いて俺の楽しみも脅かして、皆のため誰かのため、っていいながら自分の言いように動くこの自己中な態度、反吐が出る。ともかく嫌いで嫌いでしかたないんですわ。‥‥だから、譲ってくれません?」
好きなだけ嬲ったらお返しするんで。
そういってタバコを吸い始めた新太に千尋は軽く目を見開く。
「‥‥君は、そういう奴だったんだ。」
「‥‥ダメっすか?」
「いや、むしろようやく理解できた。」
そういって千尋は緩く笑って観月を抱えたまま歩き出した。
「‥そいつ、好きにしていいよ。いらない。‥‥じゃあね、狭間君。」
「‥‥ありがとーございます。先輩。」
そういって、嗤いながら新太は怯えている人吉に向かって歩み出した。
ーーお互い、振り返ることなく。
「‥‥にい、さん。」
「なーにー? 観月。」
「‥‥、‥‥はな、してっ!!」
家に帰り、兄の部屋で観月は千尋に後ろから抱きしめられていた。
真っ赤になりながら慌てふためく観月を、愛おしそうに目を細めながら千尋は腕に力を込める。
「いやだ。」
「!? な、なんで!?」
「観月は、俺に触られんの嫌?」
そう悲しそうに顔を歪めて聞いてくる千尋に観月はうっ、と声を詰まらす。
「俺は観月に触られるの、凄い嬉しいのにな‥‥。」
そういってなおも続ける千尋に反射的に観月は叫んだ。
「い、嫌じゃない!! その、ただ、‥‥はずかしい、だけ。」
あまりの恥ずかしさに最後はごにょごにょと口ごもってしまい、後ろから自分を抱きしめていた兄の腕に顔を埋める。
「‥‥観月。」
名前を呼ばれて振り返ると、驚くほど近くに兄の顔があった。
「‥‥へ?」
「愛してるよ。」
夕陽が差し込む部屋で、二つの影が重なった。




