大迷宮は夢を見る
“スネックボトムは復活した。霊都からでさえも遠目にしてわかる夜の輝き。虹色が揺らぎ、ざわめき冒険者のこころを騒がせるスネックボトム。さて、英雄とは誰のことだったのだろう。勇者イクセスか。あるいは崩壊戦士リエントラントであったのか。それとも” スネックボトムの復活(イクセスの時代より)
私は、その後、霊都で強勢を誇る魔非法師ジルエルカさんの元に向かった。短い会話をした。
「先約があります」
「そうか。だが、魔道の道はいつでも、誰にでも開いている。特に才能ある人間に対しては」
ジルエルカさんがそう口にして悲しそうに笑うので私も静かに笑みを返した。結局、私は霊都の、栄達の、栄光の、そして未来の言うことには従わなかった。魔道の神髄には興味もあったけれど、どうしてだろう。それよりも前に優先した約束があったからかな。
「私は、どうすればいいでしょうか」
「己を振る舞わせるのだよ」
「己を振る舞わせる」
「魔道の道は何も一つだけとは限るまい。盗賊の道が一つだけとは限らないように」
「全ての道はミオツクシサへ」
「全ての道はミオツクシサへ」
私たちはそう言って笑い合った。
私がLLCへと向かったのはその後のことだ。
もちろん、ボスには相談した。私の結論は決まってはいたけれど問いかけて承諾を求めたのだ。ボスがいつものように、不敵な笑みを浮かべて口にした言葉が印象的だった。
「いいか。トウサ。お前が何を求めているかは聞かない。LLCは緩い縄で結ばれている。いつだってそうだ。仲間だ」
「ボス」
「それでLLC社章はどうする」
「持っていきます」
「そうか」
「ボス、私は別に…」
「言い訳はいいさ」
「言い訳では…」
「いいぜ、行け」
ボスがそう口にしてくれたとき、私は感極まってしまったことを告白する。
それから、私は、約束どおりスネックボトムに赴いた。少年マジックスは変わってしまったスネックボトムの変わらないあの場所で考え込んでいた。
「これは、ようこそ。恐ろしい盗人さん。ここに来たということは僕のマギストスの技を盗んで次はどのようなこの世の神秘を見せつけようというのかい」
このころのスネックボトムは大変革を遂げていた。綺麗に修復されつつある部屋たち、光蔦と光苔が生い茂る様々な色の明かりが地下通路を照らし渡し、怪物たちはより強力に、そして、面白い罠が沢山増えた。D層だというのに私は、かなり手間取ってしまったことを告白する。それなりに装備を整えてきたはずなのにだ。どうしてだろう。彼のもとに向かう部屋はいつの間にか厳重に隠されていた。なぜこんな風に元に戻すのかと私はたずねたのだけど、彼は「さあね」と肩をすくめるだけだった。
「僕は本当のところそうしたくないのさ。でもゲームに負けたから。できれば君たちに干渉もしたくなかったんだけどね。成り行きは恐ろしいね」
そうして彼はつぶやいたのだ。
「君があのときしたことも成り行きとしては仕方ないさ。だけどあれは使うべきではないものだね。盗賊が、ゴースト族の秘儀を継承するものが、滅失魔道なんて、ましてやマジックスの秘宝に、枝の力に頼るなんて似合わないのさ」
大マジックス、ミラー=ラーク。その部屋は輝く玉の色と動き回る仕掛けの音、そしてうなりをあげる薬品の音で満ちていた。掘り出された古ぼけた石が磨き上げられるようにその本質をあらわし始めていたのかもしれない。
「だけどね。そういう僕もね、実は創らなきゃならないものがある。ここさ。スネックボトムさ。もう一度、ここを輝かせなければいけないね。そうだね。もう一度、君たちが持って行った霊魂連結石から創らなきゃならないだろうね。思うにね、君はもうここにこなくてもよかったのさ。でも、ね、せっかくだから手伝ってくれるかな」
私はうなずいて、そうしてそれからしばらくの間、このマジックスとそして時折現れるヨギとトリスともに愉快な、それでいて悲壮なスネックボトムの復活を見ることになるのだけど、それはまた別の話し。




