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アイリスの空  作者: Tandk
第一章
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第03話

「東門に向ったぞ! 通信兵、東門の守備隊に警告しろ! 絶対に逃がすな!」

 そこは例え車両数台が横に並んだとしても、道行く人々に尚圧迫感を感じさせないであろう大通り。街の東門から西門へと一直線に街を横断するこの大通りは、日中であれば通り沿いには屋台や出店が所狭しと立ち並び、明日の野望あるいは希望に胸を躍らせる人々で、田舎から来た者が見れば祭りかと錯覚してしまうような賑わいを見せていただろう。

 しかし夜も更け誰もが寝静まり、街の主要な個所に設置された街灯を除けば大通りといえどその大部分は月明かりでしか視界を得る事は出来ない。その月明かりさえも月が数多の雲に呑み込まれているとなっては、ヒューマノイドの中では最も夜目が効くと言われる獣人種であったとしても、その暗闇に紛れ疾走する人物の挙動を余すところなく観察する事など不可能というものだ。

 そう、例えその人物が街の治安を担う衛兵隊に追われていたとしても、衛兵隊の持つ光は二百メートル以上先を音もなく走り続けるその背中に届く事もない。この街の衛兵隊はその治安能力の高さから住民だけでなく、この街を治める者からも高く評価されているのだ。その彼らをもってしても、光が届かず夜目も効かないとなれば、その人物が一直線に東門へ逃走しようと疾走しながらも、虎視眈々とあるタイミングを狙っていることには気付けなかったのだ。

「ど、何処にいった!?」

 そしてそのタイミングは不意に訪れた。それは、追いかけていた衛兵隊から見れば突然のタイミング。その人物との距離がなかなか狭まらない事に苛立ちを覚えながらも、このまま東門へ到達しても先に連絡した東門の守備隊が待ち構えており挟み撃ちは確実であった事から、衛兵隊は追尾の手を緩める事だけは無かった。しかしその人物は――突然、衛兵隊の前から忽然と姿を消したのだ。彼らが唖然としてしまうのも無理はない。いち早く気を取り戻した隊員が隊長に報告する。

「隊長! 奴がいません!」

「えぇい! 見ればわかるわ! 晶術兵一人を軸に、三人ずつのチームに別れて付近を虱潰しに探せ! この街の中では転移を使う事はできん! レイの痕跡一つも見逃すな!」

「は!」

 隊員たちが指示を受け散らばっていき、隊長以外には通信兵以外の隊員は居なくなった。

「くそ! なんだってこんなときに!」

 その場に残っている隊長と呼ばれた人物は苛立ちを抑えきれなかった。なぜなら、数日後には昇格試験が控えていたのだ。試験には当然これまでの実績や評価も含まれる。そんな時に、この一件で捕縛できずに取り逃がしたともなればマイナス評価になるのはまず間違いない。その対象がここ最近街で良く噂されている盗賊、黒犬ともなれば尚更だ。

 黒犬――その盗賊の名はそれまでこの街で聞く事もなかった。少なくとも黒犬を知る人物はあの事件が起きるまでは、この街には誰一人として居なかったであろう。隊長もこの街の治安を担う衛兵隊を率いる身として犯罪は勿論、日常的に発生する事件には常に目を光らせている。大体犯罪や事件を起こす物は事前に何かしら情報に上がっているのが常なのだ。それなのに、この闇を疾走し衛兵隊の手から幾度も逃れ続けるこの怪盗の正体には、皆目見当もつかなかった。

 全身を黒を基調とした布と皮の装備で身を包み、夜闇に映るのは青く光るその眼光。まるで猫科動物のように闇の中でも光るその両目は、月明かりすらない中でもまるで全てが見渡せているかのように暗闇の中でも疾走する事を可能にしている。時に衛兵隊より放たれる捕縛武器ですら、暗闇の中でも飛来する軌道を見切って危なげなく避けて見せるのだ。人並みどころか獣人種以上に夜目が効くのは間違いない。

 しかし黒犬はおそらく獣人種では無いと思われている。なぜなら、獣人種であれば体の一部に獣性の特徴が例外なく現れるものなのだ。狼人種や猫人種であれば耳や口や爪や尻尾に。鳥人種であれば手や羽や足に。海人種であれば呼吸器や下半身に。だが、黒犬にはそれがない。頭部を布で目を除いて隠しているとはいえ、いずれかの獣人種であれば隠してもどうしても輪郭で分かるものなのだ。なのに、それがない――それは、黒犬はヒト種であることを自ずと示していた。

 なのになぜ、黒犬と呼ばれるのか?それは衛兵隊に追われる際に、一度だけ街灯の光が届きその姿を多くの者が見た事があったのだ。彼らが一瞬ではあるがその目に見たのは、それまで闇と同化し見えなかった盗賊がまるで犬のように四足で建物の屋根の上を駆け抜けていく姿であった。これが女性的なシルエットでしなかやかさを感じる動きであったなら、猫を連想する者も多く居ただろう。しかし、その盗賊の動きはシンプルゆえに豪快で男性的と言えた。ちなみに、狼とならないのはこの盗賊が一度も攻勢に出たことが無く、ひたすら逃げ続けている為である。まるで、尻尾を巻いて逃げる犬のように見えたのだ。

 いずれにせよ、隊長にとってはこの黒犬の出現は彼の未来に影を差す存在でしかない。長年一般兵として上司のしごきにも耐えようやく隊長に任ぜられたのだ。苦労して隊長になった彼はその職務を全うすべく、この数年は彼の前任者と比べても遜色ないほどの成果を挙げていたのだ。それが認められ、昇格試験というさらに上に行けるチャンスに恵まれたのだ。それを通達された時の彼の興奮はかつてない程であった。だからこそ、彼がまだ隊長である内に、上に行いけるチャンスを掴み取るその寸前に突如現れた街を騒がす盗賊には並々ならぬ思いがある。

「通信兵! 各チームから十分ごとに定期報告をさせろ! 緊急通信はすぐ俺に回せ!」

「は! 各チームへ定期報告について伝達、緊急通信は隊長へすぐに回線を開きます!」

 黒犬に賭ける思いが人一倍強いからこそ、隊長はこの時判断を誤ってしまっていた。本来チームに周囲を隈なく探させている状況下では指揮官は下手に動かず、全体を俯瞰せねばならないのだ。だが何度も彼らの包囲網から何事もないかのようにするりと逃れられ、何度も苦渋を舐めさせられてきた。ならばこそ、隊長は自身の手で黒犬を追い詰めようと遂に自ら動く事にしたのだ。

「俺は奴の逃げ道を先回りする! 奴が逃げるにはどうしても東門を突破せねばならん! そこへ行くにはこの包囲網に用意した穴を通るしかあるまい。そう何度も簡単に抜けれると思うなよ!」

「お待ちください、隊長! 各チームへの指揮はどうされますか?」

「構わん! 報告に異常がない限りは配置の変更は無い! 何かあれば俺から連絡する」

「承知致しました。お気を付けて」

「ふん! 必ず捕らえてくれるわ」

 通信兵と話を終えた直後、隊長の身体からスパークのように緑の閃光が幾つも瞬き始め、数瞬もしない内に一足飛びで数十メートル先を駆け抜けていた。こうして、黒犬と呼ばれる正体不明の盗賊と、この街の治安を第一線で率いてきた男との接触が初めて実現する事となる。たとえそれが、意図的に仕組まれたものだとしても。


 街のあちこちに散らばって捜索をしている衛兵隊を避け、彼らは裏通りを右へ左へ迷うことなく東門に向けて駆け抜けていた。

「――ふう、ようやく撒けたかな? ったく、あのおっさん相変わらずしつこいな」

 走りながら肩を竦めるという器用な真似をしながら、全身を黒で統一された格好をしている人物が溜息をつく。

『仕方がないのです、ご主人! ダンカンさんもお仕事なのです!』

 こちらも全身が黒い毛で覆われている犬が、その人物の隣を散歩でもするかのように軽やかに並走しながら言葉を返す。

「ま、それもそっか。まぁおっさんが真面目だからこそ、いつも逃げるのは簡単なんだけどな。お手本みたいな追跡だし」

『ご主人の言うとおりなのです。ただ、ダンカンさん達が真面目に訓練に励んでいるからこそ、衛兵隊の皆さんも精鋭揃いだと思うのです』

 その言葉に思い浮かぶのは普段衛兵隊の訓練上で見る、あの鬼気迫る形相をした隊長と一糸乱れぬ動きを見せる鍛え上げられた兵達の動き。それは彼らがこの国唯一の都市であり、百万を優に超える国民のほぼ全てが暮らすマンモス都市――聖都プロメアを守るその誇りが、鍛錬一つとっても全身全霊を賭けて取り組ませるのだ。その姿を知るからこそ、彼ら衛兵隊はこの街で暮らし住民達から尊敬され、若者からは憧れを抱かれているのだ。

「うん、それもそうだな。イレギュラーに弱い面はあっても、あの練度は素直に尊敬するな。実際、俺以外にはおっさんが取り逃がした奴なんて居ないわけだし」

 そう、歴代最高と言われる今の隊長が衛兵隊を率いるようになってから、この街で事件を起こしたものを誰一人として取り逃がした事が無いのだ。だからこそ、今もこうして逃げおおせている自分が、この街で今一番の話題となっているのだ。いつまであの隊長から逃げ続けられるのか、と。一部の者はそれで賭けまでしているのだ。それは無論、住民たちはいつか必ず隊長がその盗賊を捕らえる事を疑う者はいない事を示しているのだが。

(皆には悪いけど、このままなら今日もいつも通り東門まで行けば余裕で逃げられるな)

 東門――それは有事以外は決して閉ざされることのないこの街の玄関である。このマンモス都市を支える資源を運び込む為に、夜もこの東門だけは人と車両がひっきりなしに往来している。この東門が閉ざされる唯一の条件、それはこの街が――ひいてはこの国そのものが攻め込まれる時、戦の時だけである。それがたとえここ最近話題の盗賊が逃げ道としていても、その門を閉ざすことは国が動く事を示す。たかだか盗賊一人に対して国が動く事は威信に関わるのだ。だからこそ、この門が今日も閉ざされることはない事は確定している。勿論、その周囲には守備隊が配置され今も逃げてくる盗賊を待ち構えているだろうが。それは、大した問題ではない。

(守備隊も衛兵隊並に精鋭部隊だったら、簡単ではなかったかもしれないけど、な)

 そんな事を考えていた次の瞬間、駆け抜けているその路地全体を揺るがすような大音声が鳴り響いた。

「今日で終わりだ! 黒犬!」

 まるでその声に萎縮されるように路地に面している窓に嵌められたガラスが震えて独特の高音を発する。しかし、まだその声を発した人物は路地の先に居るのか、足音はすれど姿はまだ見えない。常人ならば、だが。

「は!? ――おっさんか! まずい、結合しろ!」

『はいなのです!』

 直後、全身が黒い毛をしている犬の姿がまるで夜の闇に溶けるように溶けていき、その影が隣を走る人物へと纏わりつき――突如、収束した。その人物はこれまでと変わらぬように前向かって疾走する。その青く光る両目の軌跡を閃光のように闇の中に残しながら。

 その両目で前方を見据える。先ほどは見えなかった声を発した人物が今度はハッキリと闇の中でも見える。

 二メートルはあるであろうその筋肉に支えられた巨躯に、紺色に染められた皮鎧を黒の装束の上から身につけ、その足元には軍靴によく似た漆黒のブーツ。その左腕には時計のような形をした装置を付けている。その身につけている皮鎧の左胸にはこの街の衛兵隊である事を示す、鞘に納められたままの剣と盾が交差するように描かれている。そして何よりも特徴的なのは、皮鎧の上からでもわかる張りつめた筋肉――ではなく、頭部にある。正しくはその人相。その視線で獲物を射殺すかのような鋭い眼光。その獰猛に笑う口から覗くのは容易く骨をも噛み砕きそうな太く鋭い牙。少なくとも、人間ではない。その顔は王者のような風格をしているが白と銀の斑な毛に覆われている。顔の両側にあるべき耳は頭頂部から生えており、これも毛に覆われている。おそらく後ろから見えれば、その下半身からは雄々しくも優雅な尻尾が生えているであろう。

 ダンカン・レガリア――この街で知らぬものはいない、誇りある衛兵隊を率いる隊長。獣人と呼ばれる者たちの中でも特に希少な、その頑健な肉体は他の獣人種では傷をつける事すら適わぬと言われ、獣人種は例外を除いて晶術を扱えない中、その只一つの例外である豹人種。更にはその豹人種の中でも特に晶術を扱う力が強く、全身を白銀の毛で覆われている唯一の血族、白銀豹人種レガリア。その圧倒的な身体能力と獣人種とは思えない晶力。それらを無駄にしない弛まぬ研鑽が、彼をこの街では知らぬものは居ない実力者へと押し上げていた。

「逃がさんぞ、黒犬」

 ダンカンは自らへ疾走してくる盗賊へと鋭く目を向けながら、その身にレイを急速に集めて凝縮させ、自らが最も得意とする晶術を発動させる。

「我と契約せし晶霊達よ、その身を持ってわが敵を阻め! 契約領域形成(コントラクト・フィールド)!」

 ダンカンが声高に詠唱したその瞬間、彼を中心として意思を持ったレイが周囲を駆け抜け――四方を半透明の空色に輝く壁が、その内側を隔離するようにして形成された。それは上空にも壁があり、恐らく地中にも同様に形成されているのであろう。立方体のように形成された壁の一辺はおよそ三百メートル。この晶術こそが、彼が今まで誰も取り逃がした事のない主な理由の一つである。しかも彼がレイを集めて凝縮させ始めてから晶術を発動させる迄の時間は、僅か瞬き一つの間に行われた。それだけでも、彼の晶術が非常に高い技術を持つことを窺わせる。

 四方を囲まれた事に気づいた黒犬と呼ばれた盗賊は、これまでの余裕が一切のない表情をして焦りを覚える。

「まずいな、晶術行使するって事は……おっさん、今日は本気だな。それも、全力で来る気か」

 ダンカンのみが扱える固有晶術、契約領域形成(コントラクト・フィールド)。それは、その立方体に形成された領域から出るにはダンカンが解除しない限りは如何なる者も外へ出る事は出来ないのだ。更によく見れば、領域内の建造物の表面全ても淡く紺色の膜がある。領域の外へ出る事は愚か、建造物の屋内にすら出入りする事もできないのだ。この晶術が持つ能力は衛兵隊であるダンカンにとっては非常に強力である。しかしその能力故に、住民の行動をも一時的とはいえ制限する事になる。その為、彼は自らが前に出ざるを得ない場合を除いて、この晶術を使う事は滅多に無いのだ。その彼が、今回は自らが前に出てこの晶術を発動させた。それはそのまま、彼が住民への行動を制限してしまうとしても、対象を捕らえる事に全力を尽くす決意をした事を指し示す。

(ご主人、このままだと逃げ切れないのです! ダンカンさんの結界を越えて跳べないのです!)

(そうだな……かといって、結界を破る為にレイを使って痕跡を残すのもまずい。あのおっさんならレイの痕跡さえあれば、簡単に俺に辿りつくだろうしな)

 黒犬は心の中で言葉を交わしながらもダンカンに向け疾走し、必死にこの状況の打開策を考える。しかし足を止めるわけにもいかない。足が止まれば、ダンカン相手では大きな隙となるからだ。彼我の距離は既に二百メートルを切っている。獣人種であるダンカンの目にも既に黒犬の姿が夜でもはっきりとみえているだろう。もはや一刻の猶予もない。

(――仕方ない、アレを使うか)

(ご主人、奥様の承諾なく使うのはリスクがあるのでは!?)

(ぐ、それは分かってる! でも本気のダンカン相手でこの状況、仕方ないだろう! 時間も惜しい! すぐやるぞ)

(ご主人、一応僕は止めたのです! では、次元跳躍――発動なのです!)

 ダンカンがその腰を落とし、向かってくる黒犬へ向けて自らの肉体を持って制圧せんと、周囲の緑色の閃光のように瞬くレイを身に纏いながら身構える。今にも両者が激突するかのように接近したその瞬間――黒犬はその両目の放つ青い光を残して、姿を消した。ダンカンに黒犬が疾走して起こした風が吹き付ける。

「なに!? この街で転移を使うだと!? ばかな! ……いや、今のは転移以外には考えられない。しかし何故だ。この街では空間転移が使えないよう領域設定されているはず」

 ダンカンはその目で見たものが信じられぬと驚愕したものの、すぐに気持ちを落ち着け冷静に考えを張り巡らせる。対象が方法はどうあれ目の前で転移した以上、現実を受け入れ対処していくのが務めだからだ。ひとまず、維持していた契約領域形成(コントラクト・フィールド)から得られる情報を脳内で整理する。黒犬がレイを残すことを嫌った理由、それはダンカンの使う契約領域形成(コントラクト・フィールド)内ではレイの痕跡から晶術を行使した者の、レイへ干渉した際のクリスタルが放つ特有の波動特徴などの詳細な情報すら、事細かに認識できてしまう事だ。

「ふむ……この波動はこの街で感じた事の無い者のようだな。しかし、レイへの干渉プロセスはまるで初心者だ。なのになぜ転移を使えたのだ?」

 脳内で整理した次々と表示される情報を一つ一つ丹念に調べていく。しかし調べれば調べる程、街の領域設定を無視して空間転移と呼ばれる晶術を使えたのか、謎が深まるばかりだ。空間転移を行うにはその特異性からレイを操作する技術は非常に高いものを要求される。ダンカン自身も非常に高い水準で晶術を修めている為、空間転移を使う事はできる。しかしその習得には特別な才を持つと言われたダンカンでさえ、幾月もの時間が掛かったのだ。一般的な水準の晶術師であれば、年単位の研鑽が必要になるであろう。空間転移が使える者が、レイの操作技術が稚拙なわけがないのだ。目の前で起きた事象と、自らが観測した情報。その間に矛盾が生じダンカンを悩ませる。――と、その時。ダンカンは姿を消す直前に黒犬がしていたとある仕草に気が付く。

「もしや、ホームストーンか!? あれならば、確かにこの街中においても転移ができる!」

 ホームストーンと呼ばれる五百円玉サイズの小さなクリスタルの欠片。それはその身にクリスタルを宿すあらゆる生物が、その心身を休める場所を見定めた際に生じる固有アイテム(ユニークアイテム)だ。ホームストーンを握りながら胸――正確にはクリスタル付近――に手を近づけ念じると、自身がホームと決めた場所に誰でも空間転移する事ができるのだ。街中においてもその利便性、安全性からむしろ使用が推奨されている。

「しかしあれを使うには移動しない事が制約の筈。だが、黒犬の奴も確かに胸に手を握りしめながら当てていた。稚拙なレイの操作とはいえ、何かしら細工をして発動したのであろう」

 ダンカンは黒犬の仕草から確信を覚えながら推測を重ねる。となると、彼が取るべき今後の行動方針は決まりだ。

「通信兵! 散っている各チームに民宿を総当たりで調べさせろ! 対象はこの五分以内にホームストーンで戻った者だ! 少しでも怪しいものは拘束せよ!」

 彼は腕につけている時計型の晶化学によって作られた無線連絡機を通じて指示を飛ばす。そして彼自身は通信兵と合流すべく来た道を戻り始める。

「奴のクリスタルの波動は覚えた。必ず引きずり出してやる!」

 ――今晩で必ず決着をつけると固く誓って。


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