第02話
二人は愛犬が喋れるようになったことに開いた口が塞がらなかったが、何度か深呼吸を繰り返して落ち着く事に成功した。
「ソルが喋れるようになっているのには驚いた……。よし、ソル! 聞きたい事があるんやけどいいか?」
『はい、ご主人。何でもどうぞ!』
ソルは二人と会話ができるようになったことが何より嬉しく、その表情は緩みっぱなしだ。尻尾は相変わらず激しく右へ左へとぶんぶん振られていた。
「ソルは俺たちとは違うところで気がついたのか?」
二人が起きてすぐはソルは傍に居なかったのだ。こうして二人と話せるのを喜んでいるこの様子を見ると、近くに潜んで顔を出すタイミングを見計らっていたとは考えにくい。二人が気が付いた時点で、声を掛けてきそうなものである。
『違うのです! ボクもご主人たちと同じく此処で気が付いたのです』
「じゃあさっきまで居なかったのはどうしてなんだ?」
『ボクもご主人達が気が付かれるのを待ちたかったのです! でも、あっちの方からピリピリしてる感じがしたのです。どうしても気になったから見に行ってたのです』
そう話すとソルの尻尾がだらっと力なく垂れて動かなくなった。ソルとしては自分が離れている間に大好きな主人達が気が付いてしまったのだ。二人の話声が聞こえてきたので慌てて戻ってきたが、二人を警戒させてしまった。
大好きな主人達が自分の方へ怖々とした目線を向けていたのを思い出し、申し訳なさと悲しさで胸がいっぱいになった。
「ソル君、ピリピリした感じって? 見に行ってどうだったのかな」
『はい、奥様。視線を感じるというか……こう、毛が逆立つ感じがしたのです。あっちへ藪を抜けて少し歩くと、ボクぐらいの大きさの人間がいたのです』
「ヒトがいたって!? ソル、そこまで案内してくれないか!」
「えぇそうね。ソル君、案内頼めるかしら? 今の状況を聞けるかもしれないわ」
人間がいるかもしれないと聞いて気が逸る二人に迫られ、ソルは少しだけちびってしまった。もう三歳――人間の年齢に換算すると二十台後半――になって身体は大人になったとはいえ、どちらかといえば小心者な性格は変わらない。
ソルは二人の勢いに押されるようにして頷いた。
『わ、わかったのです! ご案内するのです!』
そしてソルは先ほど出てきた草薮の方へ小走りに向かっていく。ソルにとっては小走りでも、そこは人間と犬の違いで結構早い。二人はソルを藪で見失わないよう慌てて追いかけた。
――藪をかきわけながら少し走ること数分、ソルが止まって伏せながら二人に注意を促す。
『ご主人達、姿勢を低くするのです! あの先に小さい人間がいるのです』
二人は言われた通り姿勢を低くしながらソルの隣へ並んだ。どうやら今いる場所は低い丘の上のようで、ソルが視線を向ける先は今いる場所からだと丁度見下ろす位置になっており、そこは六畳分ぐらいの広さで藪がなく開けた場所になっていた。
その開けた場所には犬小屋ぐらいの大きさの木造家屋が一戸立っており、その周囲には綺麗に割られた薪が散らばっていた。その薪はこうして見ている間にも順調に増え続けていった。その原因となる人物へと二人は目を向ける。
(あれが人間……なのか? 確かに人の形はしているけど、あの姿はまるでゲームで良く見るゴブリンみたいやな)
そう、ソルが気になる人物は大きさは人間なら三歳ぐらいの身長で肌が緑色なのだ。眉間には小さい角みたいなものが生えており、その黄色い両目は鋭く薪を注視している。4本指の両手が持つ小ぶりの斧を振るって薪を割る瞬間までその視線が逸れることはない。
「確かに人の形はしてるけど、人間ではないな……家に住んで薪も割ったりしてるから知能はありそうやけど」
「……そうね、初めてみるわ。話は通じるのかしら?」
「分からん。でも、この先また誰かに会えるとも限らないし、危険がなさそうなら声を掛けてみたいとは思うんやけど……斧を持ってるしな」
これがタクマ一人だけであったらなら、警戒はしてもすぐに話すことを決意しただろう。しかし愛する妻まで危険に晒すわけにはいかないのだ、どうしても慎重になる。
「ソルがピリピリする感じを受けるのはあの人からか?」
『はい、ご主人。あの小さい人間からピリピリした感じがするのです』
「ソル君、それは嫌な感じなの? 怖そうなのかな?」
『いいえ、奥様。怖い感じはしないのです!』
「そうか……少し、様子を見てみようか」
「そうね、それがいいわね」
そうして二人と一匹は、その人物の観察を続けることにした。柔らかく風がそよぐ中、薪を割る小気味良い音が一定のリズムを奏でる。不思議とその音を聞いている内に、タクマはこれまで張りつめていた糸が解れていくように感じた。――そして必要な分の薪が用意できたのか、その人物は斧を犬小屋のような家に立て掛け、薪をロープのようなもので縛り始めた。片づけを終えると薪を割っていた丸太へ腰かけ、自然な動作で二人と一匹が隠れている方へと視線を向け、声を出した。
「そろそろ出てきたらどうかね、そこの二人。犬っころもな」
「うわ!」
「きゃ!」
突然声を掛けられるとは思っていなかった二人は驚いた声を出してしまった。もう隠れる意味がなくなった二人は顔を見合わせ、恐る恐る立ち上がった。ソルは声こそ出さなかったものの、その瞳は大きく見開かれ、尻尾は丸まっている。
「……気付かれてたんですね」
「当たり前じゃろう、わしを甘く見るんでないわ」
『びっくりなのです、凄いのです!」
「なんじゃ、犬っころは喋れるのか」
『はい、なのです!』
「なら話は早い。全員、今すぐここを立ち去れ。わしに構うな」
その人物はまるで人と関わるのが心底嫌そうに言い放った。しかしこれには二人とも焦った。何せこの世界で初めて出会った人物なのだ。その姿は人間と大きく異なっていても、こうして会話ができるのだ。現状を把握するためにも聞きたいことがいっぱいある。それに、この先またいつ話ができる人物と出会えるかも分からないのだ。
「待って下さい! 俺達は此処が何処かもわからないんです。お忙しいところお邪魔したのは大変申し訳ないのですが、何とかお話聞かせて頂けないでしょうか」
「お願いします! その代わりに、私たちに出来る事があればお手伝いしますから!」
『お願いするのです!』
二人と一匹は頭を下げお願いする。それを見ながらその人物はまるで過去を思い出すかのように目を細める。暫しの静寂の後、その人物はその願いを聞き入れた。
「……良かろう、わしに分かる事なら何でも答えよう。但し、お主らにも働いてもらうぞ。」
その言葉にひとまず話を聞くことは出来そうだと、二人は胸を撫で下ろす。ソルも主人達の願いを聞き入られて嬉しいのか、尻尾がゆるやかに揺れている。
「分かりました! ありがとうございます」
「ありがとうございます、お爺さん」
「お爺……わしはまだそんな年寄りじゃないわい! 呼ぶなら、ガリドと呼べ」
「ガリドさんですね、よろしくお願いします。俺はタクマ、こっちが妻の恵子。そして愛犬のソルです」
「恵子です。ガリドさん、よろしくお願いしますね」
『ソルなのです!』
「ふん、お主たちの名前になぞ興味ないわい! ひとまず、突っ立っとらんとこっちへ来て座らんかい」
ガリドに従い、二人と一匹は丸太に座っているガリドの近くへ腰を下ろす。近くでガリドをよく見てみると、その身に着けた服――袈裟がけに巻いたスカーフのようなローブ――がまるでシルクの様にきめ細かく、上品な物であることが予想できた。そしてガリドの近くへ腰を下ろすと、タクマはあることに気付いた。
(あれ、ガリドさんの身体がぼんやり淡く光ってるように見えるな)
タクマが自分の周囲へ視線を向けて目を凝らしているのを見て、ガリドは内心感心した。
(ほう、それとなくこれが見えておるか。こっちのお嬢ちゃんはよりはっきりと見えておるようじゃの。犬っころは……ふむ、見えはせずとも感じることはできる、か)
ガリドは二人と一匹に対して興味が湧いてきたことを自覚した。しかしそれを表情にはおくびも出さず話を切り出した。
「それで、わしに何が聞きたいんじゃ?」
「実は……俺達、ここが何処だか良くわかって居ないんです。気が付いたらこの草原に居て。ガリドさん、ここは何処なんでしょうか?」
タクマはマップを使ってここがソレイユ草原であることは確認しているが、そもそも今までマップなんてものが使えた事はない為、その情報が正しい物を示しているかもわからないのだ。それを確認するためにも問いかけた。
「なんじゃ、そんなものマップを見れば分かるじゃろう。そんな事を聞きたかったのか?」
「え、ガリドさんもマップが見えるんですか!?」
「えぇい、いきなり大声を出すな。やかましい」
「す、すみません」
タクマが驚くのも無理はない。ガリドの口から当たり前のようにマップという単語が出てきたのだ。ということは、ガリドの視界にも――
「ガリドさん、もしかしてメニューも見えるんですか?」
「何を当たり前の事をさっきから言っておるんじゃ。この世界のヒューマノイドは例外なくメニューが見える。まぁ多くのものは見えてもマップを使うのが精々じゃがな」
「ヒューマノイド? タクちゃん、わかる?」
恵子は聞き覚えのない単語に首を傾げる。その仕草に癒されながらもタクマは推測する。
「う~ん。人間だけってわけじゃなさそうだから……。人型の生物、ってところかな?」
「うむ、ほぼ正解じゃ。このイリスに住まうヒューマノイドは種族こそ様々じゃが、いずれもその身にクリスタルを宿しておる。そしてこの世界にはレイが満たされておる。メニューは自らのクリスタルを用いてレイへ干渉し、世界の理を知る術の一つ、と言われておる。しかし人の形をしておいてもその身に穢れたクリスタルを持つ存在がおる。そやつらはヒューマノイドとは呼ばず、総じてクリーチャーと呼ばれておる。クリーチャーはレイへの干渉はできるが、穢れたクリスタルでは世界の理を知ることは出来ぬためメニューを持たぬ」
「ちょ、ちょっとまって、ガリドさん! タクちゃん、私ついていけないんだけど……」
「あ~うん、大丈夫。俺もだ! ガリドさん、ご迷惑おかけしますが、一つずつ確認させて貰っても宜しいですか?」
「ふむ……どうやら、その方が良さそうじゃの」
――それから小一時間程をかけて、ガリドと名乗ったゴブリンらしき人物からこの世界について話を聞いた。
この世界はイリスと呼ばれ、火神、水神、風神、土神、空神と呼ばれる五柱の神々が存在し、神を頂点とする神国がそれぞれの大陸の大半を治めている。人々はこれらの神々を全て同格の主神とする五行教会を信奉しているが、他宗教へ排他的というわけではない。五行教会が主神として認めていない神が治めている大陸や、神に治められていない大陸も存在しており、大陸間の交流も活発。世界各地には五行教会の傘下のであるプロビデンス機構が存在している。今いるカエルム大陸のソレイユ草原には空神が治めるカエルム神国の聖都があり、そこには五行教会総本山やプロビデンス機構本部が設置されている。この大陸の6割もの広大な面積を誇るソレイユ草原全てと四方を囲む山脈の北側と東側がカエルム神国の領土となっており、山脈の西側をフレメア王国、南側をドロワース帝国が治めている。三国間は嘗ての長き戦乱の時代を経て現在は不可侵条約を結んでおり、相互通商条約を通じて今現在は平和に交流が結ばれている。
五行教会は世界の救済を原則とし政治には一切関与しない。その為、神国においては政治的には神の代行として王が統治を行っている。また、教会は世界を傘下のプロビデンス機構によって蛮族などの外敵、レイバーストと呼ばれるレイの暴走による災害への対処や、住民からの様々な依頼を請け負ったりしている。プロビデンス機構に所属する構成員は神の代行者として人々を救うエージェントと呼ばれる。エージェントになると人頭税は免除され、各国の移動もほぼ制限無く可能になる。エージェントにはレイを操る素養があれば信者でなくても誰でもなれる。信者でないエージェントは便宜上ワーカーと呼ばれるが待遇に差はない。
レイ。それは世界中を満たす神の力の触媒となるエネルギーであり、身にクリスタルを宿す生物であれば人であろうと獣であろうと知覚する事が出来る。また、澄んだクリスタルを宿す人型生物は総じてヒューマノイドと呼ばれ、獣であれば聖獣と呼ばれる。対して、穢れたクリスタルを宿す人型生物はクリーチャーと呼ばれ、獣であれば魔獣と呼ばれる。クリスタルを持たずレイへ干渉できる生物はその姿形を問わず蛮族と呼ばれ、中でも力の強いものは魔族と呼ばれる。レイを通じて神々の力を借り受けると多大な力を行使することが出来る。ヒューマノイド、聖獣は澄んだクリスタルを持つことにより、レイの存在する世界の断りを知る術――メニュー――の恩恵を得られる。その身に宿すクリスタルの純度によってメニューの持つ機能は変化するが、基本的には地理を把握する術――マップ――と、その宿主の軌跡を参照する術――アチーブメント――は例外なく共通して持つことが知られている。ある程度クリスタルの純度が高いものであれば、己について深くを知る術――ステータス――も行使できるようになる。
「――大体この世界について基本的なお話は理解できました。ガリドさん、ご親切にありがとうございます」
タクマは頭の中で聞いた内容を整理して今後について考えながらそう感謝を述べた。
「ガリドさん、ありがとうございます」
恵子も続けてガリドに感謝した。ソルは話の途中で眠くなったのか、恵子の膝に頭を乗せて背中を優しく撫でて貰いながら寝ている。
「ふん、これぐらい構わんわい。その代わり、お主らの世界がどんなものか話せ」
ガリドはその目をまるで真実を見極めんとするかのように、眼光を鋭くして二人を見据えながら言った。
「「え……?」」
タクマ達は顔を見合わせた。ガリドが自分たちに対して特に疑うような事もなくこの世界について教えてくれていたことから、何かしらの事情があると察してくれていたのだろうとは思っていた。しかし、まさかこの世界へ外から来た事まで分かっているとは思わなかったのだ。何せガリドから話を聞くまでは、自分たちもマップでこの世界がイリスという世界だと知っていたとはいえ、地球ではないとの確信を持っていなかったのだから。
――ひとまずタクマ達はそれから三十分程かけてイリスへ来る前の世界、地球についての話をした。ガリドはそれらを真剣な面持ちで時折相槌を打ちつつ、質問を挟みながら話を聞いた。
「ガリドさん、どうして俺達がこの世界から違うところから来たとお分かりになったんですか?」
「ふん、これでもわしは世界の真理を追究した事がある。年老いて隠居した身とはいえ、まだこの目は腐っておらんわい。お主たちはクリスタルを持たぬのは見て分かる。なのに、メニューを行使することが出来るという。これだけ知れば、異世界人という事ぐらいすぐ分かるわい」
「……なるほど。ということは、俺達以外にも異世界人が居るということでしょうか」
タクマはある希望を内心抱きながらガリドに問うた。
「そうじゃ。異世界人などお主らの世界では知らぬが、この世界では珍しくもない。異世界人の国があるくらいじゃ」
「そうなんですか! なら、元の世界に戻る方法もあるんですか!?」
ガリドに異世界人の国があると聞き、恵子が思わず身を乗り出して尋ねた。
「様々な世界から異世界人がこのイリスに渡って来ておるが、わしの知る限りイリスから異世界へ渡ったという話は残念じゃがきかぬの。であるからこそ、彼の者たちも国を作ってこの世界での居場所を作ったのじゃろう。すまぬの」
「やはり、そうですか……。いえ、お伺い出来て助かりました」
ガリドが苦渋に満ちた表情で答えるのを見て、恵子はすっかり肩を落としてしまった。異世界人が集まって国を作ってこの世界に居場所を作る。それは、この世界から元の世界への帰還の手段を見つけられず、この世界へ骨を埋める覚悟の証であるからだろう。そんな恵子の肩を抱きながらタクマはガリドに異世界人の国について訊いた。
「ガリドさん、その異世界人の国はどちらにあるんですか? 帰る手段が無くても俺達の同郷が居るかもしれません。行ってみようと思います」
「異世界人の国――ノイン議会はこの大陸の南西の島にある。行くには聖都プロメアから魔導船に乗るしかあるまいが、魔導船に乗船して各国を渡るには聖都にあるプロビデンス機構本部にてエージェントへ登録せねばならん。ひとまずは聖都へ向かうのが良かろう。元より身元の保証のない異世界人がこの世界で自由に動くためには、プロビデンス機構のエージェントになる以外に道は無いがな」
「エージェントですか……俺達に務まるのかどうか」
ガリドの言葉を聞き二人は先行きがある程度決まりはしたものの不安は消えなかった。何しろガリドの話では危険な仕事だと思われるエージェントにならねば行動の自由が効かないと言うのだ。二人共地球ではスポーツの経験はあれど武道には縁が無かった。とても務まるとは思えない。
(もしエージェントになるのを避けられないのだとしても、恵子ちゃんを危険な目には遭わせられない。俺が一人で何とかしないと)
タクマの何よりの懸念は人一倍優しく、誰よりも愛しい妻である恵子の身の安全だ。何に代えても守る必要がある――例え、自らの命を懸けてでも。勿論、愛犬のソルも大事な家族だ。この手で守り抜かねばならない。タクマ達が思い悩んでいるのをみてガリドは鼻を鳴らしながら言った。
「ふん、いらぬ心配じゃ。異世界人であるお主たちには人並みよりはレイを操る力がある。その扱い方を学べなそれなりにはやっていけるじゃろう」
その言葉にまず真っ先に反応したのは意外にも恵子だった。
「力、ですか? それを学べば、この世界で私達の誰も失わずにすみますか?」
「恵子ちゃん……」
「タクちゃん、きっと今、自分一人で私達を守ろうと考えてたでしょ? 言いの、答えなくても。私には分かる。でもね、私は只タクちゃんに守られて、一人傷つくタクちゃんを見てるだけなんて嫌。私もタクちゃん達を守りたい。守れる力が欲しい。……ううん、私達は皆で力を合わせて支え合わないといけないと思うの。だからガリドさん、力の扱い方について、教えてください! お願いします」
「……うん。そうだね。ありがとう、恵子ちゃん。ガリドさん、お願いします!」
二人はお互いの想いを交わし合い、家族の力でこの先へ進むことを改めて決意し、ガリドへ頭を下げた。
「ふん! 二人で勝手に話を進めおって。……絶対は無い。じゃが、お主達自身が己を律することが出来れば、困難を乗り越える力を身に付ける事が出来るじゃろう。ここまで世話も焼いたんじゃ、ついでに手ほどきもしてやろう! その代わり、もっと詳しくお主たちの世界について教えてもらうぞ」
ガリドは遠い昔を懐かしむような表情を一瞬見せたが、頭を下げていた二人は気づくことが無かった。またしかめっ面に戻ったガリドは二人に手ほどきすることを了承した。
「「ありがとうございます!」」
二人はガリドに初めに出会えた事に感謝した。見た目はゴブリンの様で最初はおっかなびっくりだったが、話を聞いている内にその博識ぶりと頭の回転の早さへ敬意を抱いていた。また、口では悪態をつきながらも親切に接してくれるガリドには親近感も湧いていた。
「まずはその前に、そろそろ昼じゃ。飯にするぞ。お主達も手伝って貰うぞ! おい、犬っころ。起きんか! お主もじゃ」
ガリドは空を見上げて昼が近い事を確認してそう言った。
『は、はいなのです!』
ソルが慌てて身を起こして返事をする。
「いいか、まずは――」
そうしてガリドの指示の下、タクマ達は昼の支度を行った。目覚めてから初めて口にする食事に、いつしかタクマ達は涙を流しながら黙々と食事を続けた。