プロローグ
そこは四方を白色の壁で囲まれた部屋。天井は無く、虹色に輝く空が見える。
その部屋には一人、静かに佇むものがいた。その視線は虹色の空の彼方を見据えていた。
「……そう、この子達が渡るのね。……えぇ、そうね。二度も過ちは起こせない。でもせめて、これぐらいはさせて」
その人物の両手から白、黒、緑に輝く閃光が空へ迸った。
「強く、生きて…」
囁くような声が紡がれると部屋中が虹色の光で包まれ――誰もいない部屋だけが残された。
「ロード! レイの収束を感知しました! ……識別コード反応なし、アンノウンです!」
ロード、そう呼ばれた人物は深い溜息をついた。何せ、ここ数か月長い旅路を経てようやく母国へと到着する直前になって、厄介事になりそうな兆しが見えたのだ。溜息もつきたくなる。
(やれやれ、つくづく私は運がついていないな。いや、ある意味ついていると言うべきか)
内心なぜこうもトラブルが舞い込んでくるのか不思議でならなかった。自分からトラブルに首を突っ込むタイプではないのだ。身に降りかかるトラブルを自身の力で持って解決していく内に、幸か不幸か周囲に認められ、持ち上げられ、遂にはロードの座を授かってしまった。望んではいない。だが、期待され信を寄せる周囲の人達を裏切るわけにもいかない。今回もいつもの様に気持ちとは裏腹に部下たちへと的確に指示を飛ばしていく。
「観測管、目標の座標をロック! 距離を報告しろ!」
「は、目標座標ロック、距離算出……距離、百五十五キロメートル、ソレイユ草原です!」
「百五十五……跳ぶにはやや近いか。よし、操舵管! ホールアウトし通常航行にて目標へ転進せよ! 全艦へ通達! 我に続け。総員、ホールアウトに備えよ!」
「ホールアウトまで十秒! ――ホールアウトします!」
険しい山々が続く山脈の上空に虹色に煌めく空間が出現し――その艦隊は姿を現した。その数は優に三百は超えるであろうその艦隊の中心。そこにはもはや空中要塞ともいうべき姿をした艦があった。恐らくその艦は旗艦なのであろう、ロードが乗艦していることを示すロードの家紋が描かれた旗が掲げられていた。
その家紋は自身の尾を咥え環になっている龍――ウロボロス――が描かれていた。その艦隊は通称、ウロボロス艦隊と呼ばれた。民衆からはその艦隊を率いる若きロードのカリスマによって熱狂的な支持を得ていた。それを快く思わない一部の者達からはロードの持つ力への恐れから、こう呼ばれていた――殲滅の姫、と。
「ホールアウト、完了! 全艦異常なし」
「よし。操舵管、ソレイユ草原へ通常航行にて向かえ! 観測管、目標に動きがあれば報告せよ」
「「はっ!」」
「さて……アタリか、ハズレか。楽しみだな」
(まぁ最後にアタリが出たのが二百年以上も前だ。そうそうアタリがでるわけもないが、な)
やや消極的な思いを抱えながらもその人物は前方を見据える。その先に、何が待ち構えていようとも己の力で全て切り抜けられるとの自信を持って。